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俺流読後かんそう文『三島由紀夫の愛した美術』共著・宮下規久朗 井上隆史

『三島由紀夫の愛した美術』共著・宮下規久朗 井上隆史
 新潮 とんぼの本 初版 2010年  1650円
 カラー図録豊富・種別 教養・芸術・絵画・文学・歴史・哲学 


 さて、読後かんそう文としてタイトルをつけてはみたものの……である。
これはダメだ。本を読んで圧倒されることというのは皆さんどうだろう ?
あるだろうか_________正座して読まねばならぬ本というものは近年ではお目にかかった記憶がない。机の前に座り、卓上ライトを灯し老眼鏡を磨き上げまずは机を綺麗に拭き、スマホをマナーモードとしたところから始まる読書というものは、本を読むようになった50年の間では今回が初めてのことではないだろうか。正すべき襟を持たなくなって久しいが、第一印象で感じた「ヤバイ本」というのは正しかったようである。

 宮下さんや井上さんには申し訳ない思いもあるのだが、わたしレベルが感じたことを飾らぬままに書き記しておきたいと思う。何卒寛容頂きたい。
 ご存知のように、未だに三島信奉者は後を絶たない。
それどころか熱を帯び、周辺のプロの作家先生たちによるエセーや寄稿文を目にすること枚挙に暇なしでもある。ここの読者の皆さんにおいても記憶に新しいところが、三島由紀夫歿後50年を迎えた2020年となるだろう。

では、凡ての三島ファンが本書「三島由紀夫が愛した美術」を手にし、読後に正統な充足感を得られるかと考えるならば甚だ疑問なのだ。
 ミーハーであり、薄っぺらくて申し訳ないが、わたしのように「持ったこと」「持てたこと」への満足感に支配される人があっても不思議はないと思えるのである。

三島由紀夫とヴァグナー(ワーグナー)画・横尾忠則氏 さて、この画は横尾忠則氏が三島の死後に描いたようだ。三島のスタイルはバロック期の画家であるグイド・レーニ(伊・ボローニャ)の手による、『聖・セバスティアヌス』をモチーフとしたと思われる。三島は聖・セバスチャンと記し「アポロの杯」の中でも紹介しているようだ。
グイド・レーニ(伊・ボローニャ)の手による、『聖・セバスティアヌス』

 まず書かせて頂くが購入前に図書館で二冊の本を借りることをお勧めしたい。一冊は本書の根幹をなす『アポロの杯』である。もう一冊がこの『三島由紀夫の愛した美術』となる。本書の購入はそれからでも遅くはない。
コレクターズアイテムとしての購入ということではあれば「お目が高い」で済むのだが、正直申し上げて美術愛好家でもなく、僅かでも哲学を横に置いた暮らしぶりが常ならざる者にとっては、些か敷居が高い。
 違った本を選ぶ道もあるだろう。 
わたしも宮下フアンでなければ買っていたかどうかは疑問である。

完璧な教養書籍であり、学術書である。
この本だけでゼミをたてられるだろう。
 また、著者は二人ともが東大文学部卒の当時48才。
そりゃぁあなた、読んでる方がドキドキハラハラするのである(笑)
言葉が立ってるのだ。共に。

ブッチャケを書かせて頂くなら、わたしは読後に肩が凝ったというのが偽らざるところなのだが、わたしはもとより、宮下規久朗信奉者にとってはDoctrineとなることは間違いないことだけは記しておく。

 最後になるが、三島を市ヶ谷に駆り立てたものを『芸術』として置き、眺めたとき、わたしは背筋に寒いものが走ったことだけは書き加えておきたい。読まなきゃわからぬこともある。読んでも書けぬこともある。

小説ではないし、創作でもない。
事実を丁寧に炙り出せば出すほど、恐怖が具体的に見えてくるのだわ。
この本_______ある意味"憑いている"(最大級の誉め言葉である)

しかし篠山紀信という写真芸術家には恐れ入る。
根拠はないが……三島の死を予感していた一人だったのではないだろうか。

世一


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