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【詩】クラムボン

『クラムボンは死んだよ。』

世界から光が消えた闇の中でも
ザリガニは泡を吐くだろう
黒目もつぶらに光るだろう
群青色ぐんじょういろ胞子ほうしが散る星空みたいなドブ下で
清潔なコンクリートか
深海のコールタールか
選べ

『クラムボンは殺されたよ。』

一生涯
正座もでぎずにきし
ニホンザリガニの背骨
それが僕

君がコンビニで煙草アメスピを買う時の
千円札と
僕が泥水の中で握りしめた
千円札は
同じ味だと思うかい

まったく同じ一杯のラーメンでさえ
その味の重力は誰にも選べない

『クラムボンは死んでしまったよ。』

毎日
雨に流されてくる
君の手書きの歌唱曲順セトリを眺めては
歯茎はぐきをむき出しにして
呪い続けた

――どうしても声が泡になる

『殺されたよ。』

憎まれたくて
生まれてきた葡萄ぶどうなんて
ひとつもなかった
ただの一つも

値を吊り上げるためだけに
無かったことにされた幾百万のせい
あるいは北を襲った凶作で
身売りされた娘たちのせい

残酷さで世界を制したかった

『それならなぜ殺された。』

夕方みたいな鳴き声で
氷を
酒をいでは
夜に抱かれる夢の花びら
今宵
君に刺さるロックを告げるオン・ザ・ロック

「もうすぐ窓辺に達します」

それが生まれ変わり?

『わからない。』

窓辺の駅に
海が寄せていた

波頭はとうの泡が砕け散っては
虚ろな目をして帰っていく

仕方なく
夢の駐車場でタクシーを待つ

朝焼けの光を
キラキラと反射する潮騒しおさいまぎ
何処どこからか不透明に押し殺した
くぐもった声が漏れ聴こえてくる

ふと
胸とへその辺りが冷たくなり
にわか雨かと天を仰いだ
やにわに喉がかっと熱くなる――

「どうしても声が泡になる」

――それでようやく
声もなくよだれを垂らしながら
泣いているのは自分だと気が付いた

『クラムボンはわらったよ。』

頬を破り
真っ赤な舌を突き出して
ザリガニのように
かぷかぷと

『わらった。』



〈了〉

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水もしたたる真っ白い豆腐がひどく焦った様子で煙草屋の角を曲がっていくのが見えた。醤油か猫にでも追いかけられているのだろう。今日はいい日になりそうだ。 ありがとうございます。貴方のサポートでなけなしの脳が新たな世界を紡いでくれることでしょう。恩に着ます。より刺激的な日々を貴方に。