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Annaの日記 ハイリスク妊婦の末路⑩



 入院して6日目、土曜日の朝、いつもの通勤時間とは違う風景が窓越しから見えていた。
 普通に陣痛が来て、普通に出産をしていたら、今日はもう退院の日だ。

 そして、この帝王切開も普通に終わっていたら今日から母子同室が始まる日だった。



  しかし、私は病室にヒトリ・・・


 昼夜問わず赤ちゃんの泣き声が聞こえてくる。個室のため、他のママに関わる事はなかったが、もう何人かが入れ替わっているのだろう。

 昨日の喜びから一転して、また現実的な不安でいっぱいになり気分が落ち込み涙が込み上げてきた。

 これは所謂、マタニティーブルースではない。訳も分からず泣けてくるわけではなく、明確な理由があり泣いている。


 これからの生活、あんなの将来・・

       一体どうなってしまうのだろうか。




 看護師さんが入ってきた。お産バッグに入っている「授乳クッション」を出せと言われた。

 「今日授乳が出来るかもしれないから膨らませてくるね」

 願ってもみない事だった。今日抱っこが出来て、授乳まで出来る!
 昼過ぎのNICUの時間までまだだいぶ時間があるが、ソワソワが止まらなかった。

 痛み止めを我慢して、看護師さんが車いすを押すと言ってくれたが自力で行くと言い、パンパンに膨らんだ授乳クッションをもってNICUに向かった。



 「まだ酸素値が安定していないから、今日の授乳は無理ですね。
 先生がいないからわからないけど、まだしばらく無理なんじゃないかな」


  ・・・と、さらっと突き落とす事をNICUの看護師に言われた。


 ここまで、無理して歩いてきた痛みが急に強くなり、今日も抱けない無念で、あんなの顔を見ているとまた泣けてきてしまった。

 看護師が何度か心配して、ティッシュを持ってきてくれた。
 少しでも長い時間一緒にいようとするが、私の泣き声に限界を感じた看護師が、産後クライシスになっていると判断したのか、今日はもう病室に戻れと
15分くらいで追い返されてしまった。


 病室でくよくよしていたら、産科の看護師さんが事情を察したのか

「搾乳をして、あかちゃんにお土産を持っていこう!」

 と言ってくれた。看護師さんはすぐに搾乳のカップと注射器のような容器を持って、搾乳の仕方をレクチャーしてくれた。


 まだポタっポタっとしか出ないおっぱいだったが、今私があんなに
出来る事はこれしかないと思い、乳首も手も痛くなるほど絞った。


     「初乳」は2.5mlだった。

 飲める時まで冷凍保存してくれるとの事で、3時間毎にこの作業を続けた。出せば出すほど、少しづつ採れる量が増えて行った。


  いつ、おっぱいを吸わせてあげられるんだろう・・・



    病室に1人、寂しい時間だった。




 翌朝、小児科の先生が朝一番で部屋に入ってきた。


  「酸素カプセルから出られたので、
      今日抱っこできますよ!」


 出産して4日目。ようやくこの日が来た。

 体で抱えていた4344gという大きな赤ちゃんを腕で抱ける日が来た。


 時間になり、授乳クッションをもってNICUに入った。



  昨日までおむつ一丁で酸素室に入っていた赤ちゃんが新生児肌着を着て、
  コットの上でこにょこにょ動いていた


              〜続く〜

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