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映画感想文:トゥモロー・ワールド

 おうち映画祭。もう一度観たい映画はコレクションしようと、買ったり、ディスクに焼いたりしたが、その時にダンナが、

「俺の好きな映画は「トゥモロー・ワールド」なんだよ」

と言った。私はびっくりした。繰り返し観たい映画として自分はそれほど心に残っていなかったというのもあるし、ダンナがその映画を一本にあげたことが意外だった。
 ハリウッド超大作が好きな人なので、てっきり「アイアンマン」が一番好きだとか言うと思っていたのだ。

 そして、ダンナが好きだという「トゥモロー・ワールド」をその後、何度か観た。コレクションに加えた後に興味を持って観てみると、とてもいい映画だった。その後、監督は「ゼロ・グラビティ」で有名になった。
 アルフォンソ・キュアロン監督である。
 今回、「パンズラビリンス」について記事を書くためにネットで映画について調べていたら、ギレルモ・デル・トロ監督はメキシコの人で、アルフォンソ・キュアロン監督もメキシコの人、「パンズラビリンス」の製作に名前を連ねていて、なんだか驚いた。2人の映画が好きだと感じているけれど、2人とも、関係者だったのか!という驚きだった。

 邦題が「トゥモロー・ワールド」であるが原題は「CHILDREN OF MEN」「人類の子供たち」小説の原作はP・D・ジェイムスである。
 P・D・ジェイムスというと「女には似合わない職業」という有名な小説がある。その小説が好きで「人類の子供たち」も持っていた。
 簡単に言うと子供が生まれなくなった世界の話である。SF、ディストピア。今、日本では少子化が叫ばれているが、自分の中では、地球上に人口が増えすぎても困るから、別にいいとちょっと思っている。
 地球のためには人類がこれ以上、増えるのは決していいことではなく、流石、日本民族は無意識に、地球にとっていい方を選んでいると考える。
 年金とか若い世代の負担増とかいろいろな問題はあるが、年をとるということは若い時ほど動けなくはあるが、別な知恵がある。
 元気な高齢者を雇用に充てればいいのではないか等、いろいろな打開策がある様に思う。

 しかし、この映画の舞台は、全く、子供が生まれなくなった世界だ。

 世界のいろいろな国や都市が崩壊し、唯一形をとどめるイギリスに難民が押し寄せるという構図になっている。そしてその難民を救う余裕が英国には無い。難民は見つけられ次第、牢に入れられて、警察なのか軍隊なのかに搾取されている。そんな牢と銃を構えた警備隊が駅などに、設置されている。
 街はごみや落書きがあふれ、テロも頻繁に起こり、自暴自棄なムードが町中に漂っている。

 子供が生まれなくなった世界が、どんなふうに絶望的なのかが、一瞬でわかるシーンがあった。主人公のセオが、従兄の大臣を訪ねる。
 国の重要な任務に就く従兄の家は広く洗練されていて、あちこちに美術品が飾ってある。崩壊する他の国家から、芸術品を救ったらしい。
 ダビデ像がセオを出迎える。ダビデの足元に座っていた大きな犬が2匹立ちあがり、たったったっと駆けてくる。
 ダビデは、足が暴動で欠けたのか義足のように金属でつながれている。
 それを見て、セオが皮肉を込めて言う。

「100年後、誰が見るんだい?」

 このシーンで、衝撃を受ける。
 子供が生まれないとしたら、美術館も博物館も、無用の長物だ。
(食堂にはゲルニカもあるし、検索してみるとバンクシーの作品も登場しているようだ)
 逆説的に、美術館や博物館は現代の我々のものでもあるが、未来の人たちのためにあるものなのだと悟った瞬間である。
 そんなこと、考えてもみなかった。

珈琲を飲み損ねたセオ

 セオを演じたクライブ・オーウェンは、ハンサムだけど、イギリスっぽい陰気くささを持つ男である。映画の中では、珈琲を買ってウィスキーをポケットから取り出して注いでから飲もうとすると、テロの爆発が起きて、飲み損なうし、煙草を吸って火をつけたかと思うと連れていかれたり、監禁されて靴を取り上げられて靴下で瓦礫を歩かなければならなかったり、なんだかついていない。でも、泥の上に靴下で降りたとか、セオの体験の感触が、映像から生々しく伝わってくる。

 この映画で最も好きなのは、友人であるジャスパーの暮らす隠れ家に遊びに行くところだ。 

老夫婦の暮らす居心地のいい家に憧れを抱いてしまう。

 ノーラン監督のバッドマンで執事役のマイケル・ケインが演じるこのジャスパーが、うちのダンナをもっと老けさせた感じで、髪型や、やっていることも似ていた。かぶりすぎである。

ジャスパー、親しみを感じて、大好きだ(⋈◍>◡<◍)。✧♡

 ジャスパーが人差し指を立てて、これを引っ張ってごらん、と言う。
 そして、おならをするのだが、まさに、出会ってデートしている時に、ダンナにそれをやられた私である。そのネタ、全世界的にあるのか?と私が聞くと、「そりゃあ、あるだろう!だけどやるか、やらないかだ」と映画の主人公のような答えが返ってきた。わがダンナながら恐るべし。

 この映画を観て、子供が生まれないことに絶望している世界で、1人の子供が生まれた時の、物凄い希望の力を感じた。

ラストに近い戦闘シーンの1カット長回しの臨場感が凄い。

 子供を産んだ人にも、産まない人にも、見て欲しい。

 子供たちは、人類の希望なのだ。

 ディストピアの世界でも、そして、現在でも。
 すべてのお母さんたちに、人類のために産んでくれて有難う御座います💖とこの場を借りて、お礼を述べたい。
 
 この映画の原題のように「CHILDREN OF MEN」として、産んでくれた若い母親に感謝し、皆でサポートし、子供達を躾け育てていくような、そんな社会が実現すれば素敵だなと妄想した私であった。

 昔の日本は、向こう三軒両隣で、ごく自然にそういうことしていた気がするけれど、どうなんでしょうか?

 

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