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CEOである貴方が心に不調を感じたらすぐに実践してほしい「頼り方の心構え」

先日、創薬ベンチャーの代表をうつ病で退任してから現在までの記録を公開したところ、サポートに関する質問が多く寄せられました。本記事では、その対象が代表であった場合についてお話しさせて頂きます。

現場で働くメンバーの支援に関心が集まりやすい一方で、スタートアップの代表も同じ課題を抱えています。実際、私のように症状を自覚できずに、働き続けている人は少なくありません。人によっては、「上場を実現するまでは」と周囲に悟られないよう隠しているケースもあるぐらいです。

しかし、そのままではいつか心がポキッと折れて、道半ばでリタイアなんてことが起こるかもしれません。そうならないためにも、代表自身がどのように自己の変化を感じ、周囲にアラートを出していくと良いか、私の経験から皆さんへ心構えをお伝えできればと思います。なお、後半には代表へのサポート方法についても記載しています。

代表は一人で多くの問題を抱え、日々事業のあれこれに苦しんでいると思います。もしご自身が「あれ、いつもと様子が違う?」と感じたら、ぜひこの内容を思い出してください。

※「メンバーに向けたサポート」についてはこちらをご覧ください。


本記事を読むに当たっての注意点:
・この記事は「病院を受診する前~初診後」を想定しています。周囲が異変を感じた場合、迷わず医療機関への受診を勧めてください。
→私自身、発症時に周りから言われるまで受診の選択肢がありませんでした。初診後だけでなく、病院に行く前の時期から対策を取ることが重要だと感じ、今回記載しています。
・あくまでも私の経験から記載をしています。そのため参考や指針に留め、相手とご自分、周囲の状況からご判断ください。


■「やばいと思ったら信頼できる人にすぐ相談」アラートの出し方と療養までの6ステップ

まず、うつ病の経験がない場合、大半の方が「発症当初は症状の自覚がなく、自発的なアラートが出せない」という状況だと思います。経験則ではありますが、初めて発症した人のほとんどが、この状況に陥っていました。

かく言う私もその一人でした。相方(現:RESVO代表)から、強く受診を促され初めて医療機関に行ったので、この気持ちがよく分かります。今回は、発症〜治療〜回復と経験した私が再び同じ状況になったら、「どうやって周りにアラートを伝え、行動するか?」という前提で、当時の話も交えながらお話します。


私が相談から療養までに実践するのはこの6ステップです。


①信頼できる人にその旨を相談し、緊急時のサポートを依頼する
②精神科を受診。自身の状況を客観的に把握し、治療を開始する
③自身の状態(+あれば発症要因)について株主を含めたチームに共有、相談する
④発症要因になった解決すべき事案があれば専門家チームをアサイン、対応依頼する
⑤可能な限りメンバーに業務を移管・療養中の定期連絡タイミングを設定する
⑥療養を開始する



今回は、「病気を治療する目的で療養すること」をゴールにしました。働きながら克服したいと言う人も多いと思いますが、うつ病の症状を改善するには一定期間の療養が必要だからです。

ただ代表業務は周りで引き取れる内容がどうしても限られるため、引き取った部分の事業を残りのメンバーで進めつつ、代表である貴方の回復を待つ形になるかと思います。では、それぞれの内容についてご説明していきます。


①信頼できる人にその旨を相談し、緊急時のサポートを依頼する
まず一人、貴方が信頼できる人なら誰でも構わないので、現状を話し、何かあった時のサポートを依頼しましょう。共同創業者やプライベートのパートナー、親友など、これは社内外関わらずで大丈夫です。ちょっと変わり種で、こういうことに慣れている先輩経営者というのもありです。

相談相手は利害関係のない人の方が話しやすいとは思います。しかし、利害関係があったとしても、「この人なら信頼できる、力になってくれる」と貴方が感じるなら、ぜひその人に話してください。最初の一人に話すことで、それ以降、肩の荷が降りて皆にオープンにしやすくなる効果もあります。


②精神科を受診。自身の状況を客観的に把握し、治療を開始する
精神科や心療内科など、できる限り早く医療機関を受診しましょう。医師の診断を受けることで、「自分なりに異変を感じた状態」から「専門家が判断した客観的な状態」に変わります。

それによって、これまで何か分からなかったものに苦しめられる怖さから、状態が明らかになった安心感が得られます。初診時、これだけでもだいぶ気が楽になったことを覚えています。


③自身の状態(+あれば発症要因)について株主を含めたチームに共有、相談する
医療機関を受診した段階でチームへの共有を行います。組織規模によっては、職位や関係性ごとに、共有を行ってもいいかもしれません。必要に応じ、スムーズな意思疎通を図るためにも、①で相談した方に同席してもらうのも一つの方法です。

この段階で、周りからは当然ながら厳しい指摘もあるかと思います。この指摘については、現状可能な範囲で受け止め、改善するのがいいと思います。それ以外(事実ではない、事実だけど現状で向き合うのが困難など)であれば、付随するアクションや感情については、今は向き合わないことをおすすめします。現状、優先すべき第一ポイントは貴方の体調の回復だからです。

厳密に言うと、②と③の順番は特に重要ではありません。ただ、当時の私にとって心理的ハードルの低い順番がこの流れでした。そのため、順番については皆さんも心理的なハードルの低い方を先に持っていくでいいと思います。


④発症要因になった解決すべき事案があれば専門家チームをアサイン、対応依頼する
代表としての責任感が強い人ほど、自分自身でなんとかしようとする傾向にあるのがこの部分です。前回は絶対選ばなかった選択肢でしたが、だからこそ発症し、悪化したともいえるので、もし同じことが起こるなら今回は間違いなく専門家に依頼すると思います。事案内容によって専門家もさまざまですが、必要に応じて③で相談した人たちにリファラルで集めてもらってもいいかもしれません。

例えば、トラブルを想定した場合、弁護士や同様のトラブルを経験している先輩経営者などが「専門家」として想定されます。なおこの状況だと、自身の代わりに仲裁や交渉などの対応をフロントでお願いすることになると思います。そのため、相談というよりも、有償での依頼を強くおすすめします。



⑤可能な限りメンバーに業務を移管・療養中の定期連絡タイミングを設定する
その後、長期もしくは短期の療養が一定期間必要となってくるので、その間の業務や指揮系統などの移管を行います。

詳細はチーム規模や組織によってさまざまなので割愛しますが、共通して、療養前に必ず決めるべき内容として、代表判断が必要な部分を「任せる」、「留める(復帰まで待つ)」、「報告してもらって適宜対応」するのどれにするかです。

この部分を明らかにしておけば、大枠の部分は対応できると思います。それ以外の部分は定期連絡で十分対応可能です。


⑥療養を開始する

会社のことが気になるかもしれませんが、今は療養に集中しましょう。もし、定期連絡の頻度が少し辛くなってきたら体調に応じ、減らすことも忘れないでください。


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今の私ならこの流れで動きます。ただし、①~⑥の流れはあくまで理想形です。あまりにも重症化している場合、このようなステップをとることも辛いと思います。その場合は②精神科受診からすぐに⑥療養開始となる可能性もゼロではないからです。

同じ代表として、事業進捗が停滞する怖さは痛いほど分かります。一方長期で見ると、一度療養に専念した上で戻ってくる方が、最終的な結果は良くなるとも痛感しています。


■代表が自分自身の「ヤバさ」にどう気がつくか

度々書いていますが、うつ病の怖いところは、精神状態や思考にも影響を与え、自身の状態に気付けない点です。この問題について、回復してから私が行っているセルフチェックを紹介します。
定期的に下記の問いに向き合い、どれか一つでも即答でYES!と強く答えられなければ、「ヤバい」状態に陥っていると判断し、行動を切り替えるようにしています。


【メンタルセルフチェック(代表向け:小林Ver.)】
①ヒマな時間をちゃんと「ヒマだなー」と感じる、認識することができる
②自社に最も大切なピースは誰でもなく、代表である自身とその想い。お金がなくても、人がいなくても諦めない限り何度でもやり直せる

これらの問いは、主治医の先生や尊敬する先輩起業家からのアドバイスを自分なりにアレンジしたものです。回復した今でもこれらのアドバイスは強く心に残るくらい私の中では印象的でした。


■メンバーは代表の異変をどう察知するか?

一般的な兆候として、「明らかに依然と比べて自信がない言動」、「オフィス出勤・口数・slackなどのレスポンス・発信が極端に減る」二つが挙げられます。

これらの特徴に加え、意外かもしれませんが、「大丈夫?」と聞いた際の返事が「大丈夫だよ」だった場合も危険信号だと私は思っています。もし全く問題がなければ、「何が?」と聞き返されるはずだからです。


■メンバーから関係者への連絡について

関係者が多岐に渡るため、一概に言えませんが、主に調整している内容は「そのまま継続できる」と「検討が必要(一旦中断、止める、調整して継続など)」の二つに分けられると思います。

前者は引き続き継続し、後者について社内や株主と議論し、社内で「中断or継続」と「相手先への開示範囲」を決め、意思統一を行った上で関係者と今後について話し合うと良いかと思います。


■VCの皆さんや外部の方の支援も代表の大切な支えになる

これは私の実体験が大きいのですが、VCさんを始め、外部の方からの支援にとても助けられました。ぜひ、VCの皆さんで起業家の異変を感じたら、声をかけたり、状況を聞いてあげてほしいです。起業家を支えてあげてください。


症状がひどい時期にありがちな、会社への想いが折れたり、業務継続を諦めるような意思決定は、実は本人ですら自覚のない「症状による脳のエラー」の可能性が充分にありえます。本人もその時は本心だと思っているため、判断は非常に難しいところですが、どうか腰を据えて共に戦ってあげてください。


■最後に 

今回は、代表がうつ病になった場合のアラートの出し方や療養までにできることを中心にまとめました。代表、メンバーに関わらず、この記事を読んだ貴方自身やその周囲の人の参考になればとても嬉しいです。


今回の内容で紹介した、改善に向けた行動やセルフチェックはこちらのnoteに詳しく記載しておりますので、よかったら併せてご覧ください。

今後も不定期ですが、いくつか自身の体験を元にした記事を執筆する予定です。スタートアップ&メンタルヘルスの領域でこんなことが聞きたい、個別で相談したいなどありましたら、私までご連絡頂ければ嬉しいです。

ご支援ありがとうございます。頂いたサポートは今後メンタルヘルス分野で皆さんに還元できるよう、今後の活動にむけて、大切に使わせて頂きます!