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【後編】メンタルヘルス領域のスタートアップ代表がうつ病で退任した話

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【中編】メンタルヘルス領域のスタートアップ代表がうつ病で退任した話
の続きです。前編、中編を読まれていない方は先にこちらからご覧ください。
前編を読む
中編を読む

本noteは私の記録として、当時の詳しい症状なども記載しています。そのため、読む人によっては辛い気持ちになるかもしれません。フラッシュバックなどが不安な方は、読まれないことをおすすめします。
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■自身のコンディション面を振り振り返っての気づき

回復期になり、ようやく自身を振り返ることができるようになりました。振り返りの中で感じた「未然に防ぐためにできること」、「それでも発症してしまったら」これら2つの視点でまとめたものをご紹介します。

・未然に防ぐためにできること

1.意識して休みを取る
どんなに忙しくても、ストイックでも、定期的な休息と遊びをとった方が良いです。体力と同様、メンタルにも回復が必要です。「会社が大変な時に遊んでる場合か!」と思いがちですが、少しの時間でもそこから離れる時間を持った方が良いです。どの道疲弊したままひたすら邁進してもブレイクスルーは生まれません。

可能なら宣言して休むくらいがちょうど良いと今では思います。よくあるのが、「今は頑張る時」ってアクセル踏むと、大体数ヶ月どころか一年くらいそのまんまになるパターンです。だからこそ、「どんなに忙しくても」を強調したいです。

2.メンタルの黄・赤信号サインを把握する
弱ってきたり、疲れてきた時が慢性的に続くと当然ながら発症リスクは高まります。疲弊してから、発症してからでは自身のコンディションや危険なサインなどを把握する余裕は全くなくなります。平時から自分の状態に目を向け、高ストレスによってどんな身体症状や行動が現れるか把握しておくことで早期にケアや対策が可能になります。

当時を振り返って、これは赤信号だったなと感じたのは、当時相談に乗ってくれた事業家仲間が、「自社に最も大切なピースは誰でもなく、代表である君とその想いだ。お金がなくても、人がいなくても諦めない限り何度でもやり直せるから」という言葉をかけてくれました。

当時ももちろん理解はできたものの、既に発症し、動けなかった私には「そうは言っても……」という感情がありました。今ならこの言葉が本質を示していることがよく分かります。この経験から、この言葉が腹落ちしなかったり、「but」が出てくるなら自分のコンディションは赤信号だと認識するようにしています。

3.自身のメンタルに対しての弱点を知る
平時の際、自分の天敵やシチュエーションを先んじて知っておくと、いざとなった時に対応しやすいです。

私の場合、ハードワークや予想外のアクシデントなど、社外での出来事にはかなり耐性がありましたが、組織内の人間関係が致命的でした。これを把握した上で、「自身で立ち向かうところ」と「外注して敢えて触らないところ」をしっかり決めておけば良かったと感じています。

4.専門家や第三者に対応を依頼する
今回の件を経て、予め専門家や第三者に処理を依頼する「戦略的に逃げる」ラインを決めておくことが重要だと思いました。経営者は責任感から、自身の問題として捉え、処理しがちですが、自身が壊れてしまったら元も子もありません。状況によっては表に出ない方が良い場合があることも、今回の一件で学びました。それも立派な対処法です。

うつ状態になるほど「こうすべき論」が心を支配し、視野が狭くなりがちです。一旦、その状況から距離を置きましょう。

5.深い相談ができる相手を「独立」して「複数」つくる 
事業者である以上、相談とはいえ弱みを見せることに大きな抵抗があると思いますが、それ以上にこの恩恵は大きいです。事業領域やフェイズなど、いろいろな違いはありますが、自身と価値観が合う友人は平時はもちろん、緊急時にも間違いなく頼りになります。

ちなみになぜ「複数」なのか?というと、一人だけだと依存したり、その人と万が一揉めたりするとより強くダメージを受けてしまい、逆効果になるからです。「独立」の理由も同様で、複数の相談相手が同じグループだったりするとグループそのもののポジショントークや別グループとの諍いなど、より苦しむことになるかもしれないからです。

6.周りの人からアラートを上げてもらう
初めてこの状況を経験する場合、「自分自身の行動異常についてはほぼ自覚できない」と思った方が良いです。この時は「どんな不調でもただの甘えなのではないか?」と過剰な自責思考に陥りがちです。

そのため、早く気づくためには周りの目が重要です。早期に指摘してもらえるように日頃から話しておくとより効果的だと思います。今回は大西がこの役割を担ってくれました。多分彼があの時止めてくれなかったら、もっと悪化してから病院にいっていただろうし、うつからの回復速度も遅かったと思います。


・それでも発症したら……

1.可能な限り早期に病院を受診する
精神科や心療内科と書くと他の科よりも心理ハードルは高いため、中々門を叩くのに勇気がいるかと思いますが、行ってみると雰囲気などはほぼ他のクリニックと同じです。当時を振り返ると、「もっと早くに行けば良かった」と感じます。

2.投薬治療をしっかり行う
脳に作用する薬のため、抵抗があるのはとても分かります。仕事柄、薬剤の構成や作用機序をある程度理解していたにも関わらず、私もとても心理的なハードルが高かったです。しかしながら、この状況になったら飲まずに悪化する方が明らかに危険なので、まずは医師の提案通りに服用することを強くおすすめします。

もう一つ言いたいのは、次の診察時に、薬の合う合わないなどを自分が感じたままに伝えることです。例えば、効きの良し悪し、増やしたい、減らしたい、副作用の表出などです。詳しい情報を医師と共有することで、薬剤選択の精度が上がり、結果的に早期の快方に向かいます。

3.一人の時間を作らない、余計なことを考える時間を減らす
一人でいる時や何もしていない時は特にあれこれと考えてしまい、症状を悪化させたり、トラウマが表出しがちです。身体は休息していても、この状態の脳は活動を続けているため、回復しずらい状況にあります。


自分が一緒にいて安心できる人、疲れない人、気を使わなくてよい人と一緒にいることでそれらを緩和することができます。家族やパートナーが該当しやすいですが、上記に当てはまらない場合も往々にしてあるので、自身が誰と過ごしたいかを優先すると良いと思います。


また、人と過ごす方が疲れたり、消耗する場合もあるので、その際は「余計なことを考える時間を減らす」ことを目的に行動すると良いです。映画やアニメ、ドラマなどのストーリーがあるものだと、それらで脳のリソースを消費できるのでおすすめです。

4.とにかく休む
まずは余計なこと考えずに休みましょう。私も、当初もがいたので焦る気持ちは分かります。
しかし、脳や骨髄などの基幹部位は損傷・ダメージからの回復、代謝は通常の抹消組織よりも圧倒的に時間がかかります。根性があろうが焦ろうが自然の摂理なのでどうしようもないです。徹底的にストレスフリーで過ごす方が回復は早いです。

休養が良い人もいれば、適度に活動した方が「脳に対して」ストレスフリーな人もいるので、その辺りは自分の心に従って選びましょう。

5.振り返りをしばらくしないこと
焦って発症したきっかけや、事象に対して向き合おうとしないことを強く言いたいです。少し症状が落ち着いても、原因そのものに向き合うのはまだまだ早いと思った方が良いです。そっちに意識を向けた瞬間にぶり返すなんてこともざらにあります。

私の場合で言うと一年近くたった今、「ようやく向き合えるかな?どうかな?」とおっかなびっくり主治医の先生や臨床心理士の方々と相談をしながら模索しているような状況です。

■走り続けるスタートアップの仲間達に伝えたいこと

日々の業務も行いつつ、走りながら計画立案などの大きな絵も描かなければいけないポジションなので、自身の状態、特にメンタル・ストレスケアが後回しになりがちなのも痛いほど分かります。もちろん私もそうでした。

常に自身のコンディションに気を配れというのは難しいですが、月次や週次など、自社を振り返るタイミングで必ず自身のメンタルコンディションも振り返ってほしいと思っています。問題の早期発見、早期治療は事業でも、病気でも同じく大切なポイントです。

実際に発症、闘病を経験した現在、うつ病や精神疾患、メンタルヘルスの知識や理解が深くとも、実際の症状や苦しみは予想の遥か上にあるというのが正直な感想です。


一度発症すると、後遺症が戻るのに少なくとも1年以上はかかります。自分が命を懸けて取り組んでいる事業、サービス、組織構築、事業連携全てに大きな影響があり、最悪の場合は会社毎傾くことになりかねません。社内外のメンバーを大切にするのと同じように、その大切な気持ちを自分の想いやコンディションにも向けてほしいと強く思います。

■最後に

私が早期回復できたのは、公私に関わらず周りの人たちのサポートが大きいと思っています。当時の私にとって、寄り添ってくれる人と話したり過ごしたりする時間が一番の薬でした。

経営者である以上、弱みをみせると足元をすくわれたり、変に利用されたりするかもしれない不安があるので一人で抱え込む気持ちは分かります。しかしながら、もっと早くに相談したり話したりすれば良かったと今では思っています。もし、現在進行形で苦しまれている方がいれば、遠慮なくこちらまで連絡ください。

絶対に力になれるとは言い切れないけれど、少しは楽になるかもしれません。お話ししましょう。

ご支援ありがとうございます。頂いたサポートは今後メンタルヘルス分野で皆さんに還元できるよう、今後の活動にむけて、大切に使わせて頂きます!