スタートアップでメンバーがうつ病に。その時周りができるサポートとは?
先日、創薬スタートアップの代表をうつ病で退任してから現在までの記録を公開したところ、多くの方から「うつ病になったメンバーをどうサポートしたらいい?」、「調子を崩した人は、どう寄り添われたら嬉しい?」などサポートに関する質問を頂きました。
産業医の面談や福利厚生で導入されているメンタルケアはもちろん重要ですが、それがあってもなくても、周囲のサポートはとても大切です。
そのため今回は、「周囲のサポート」をテーマに、私が経験を通して感じたことをお伝えします。サポート方法はもちろん、実施にあたっての注意点や支援体制のつくり方など記載しました。
この記事が、スタートアップで働く中でうつ病でダウンした人への支援を始め、出資先や社内メンバー関わらず、共に働く人や大切な人に対し「あれ、いつもと様子が違う?大丈夫かな?」と感じた時にも役立ててほしいです。
なお、本記事ではメンバーに向けた支援を中心にご紹介しています。代表に向けたサポートについてはこちらをご覧ください。
本記事を読むに当たっての注意点:
・この記事は「病院を受診する前~初診後」を想定しています。周囲が異変を感じた場合、迷わず医療機関への受診を勧めてください。
→私自身、発症時に周りから言われるまで受診の選択肢がありませんでした。初診後だけでなく、病院に行く前の時期から対策を取ることが重要だと感じ、今回記載しています。
・あくまでも私の経験から記載をしています。そのため参考や指針に留め、相手とご自分、周囲の状況からご判断ください。
■サポートにあたっての注意点
まず、「サポートする人が無理のない範囲で行う」を大前提にしてください。メンタルヘルス領域は「ミイラ取りがミイラに」を地で行く領域です。「支援者との共依存」や「サポート側の負担が限界を越え、二次被害が発生する」など、共倒れになった話は枚挙に暇がありません。
しかし、周囲の人の助けや声がけが、本人の回復や予防に大きく寄与するのも事実です。簡単な挨拶や日常の雑談などでも、当事者にとってはしっかり助けになっています。
実際、私も同じような経験があります。周囲に退任を伝えた直後、多くの友人やスタートアップ仲間が声をかけてくれました。この言葉が、「私は一人じゃなかった。自分が見えてなかっただけで、今も変わらず応援してくれてたんだ」と自分を立て直すきっかけになりました。
なので周囲の皆さんはあまり構えず、小さくても大きくても、無理のない範囲でのサポートをお願いします。
■サポート体制について
・複数のメンバー、異なる部署や所属での対応を
スタートアップに限らず、メンバーがうつ病でダウンした場合、近しい上司や同僚などがサポートするのがよくある事例かと思います。ただ可能であれば、チームや所属が異なる複数人でサポートにあたることをおすすめしたいです。
この時、対応するメンバーは連携ができているようであれば、出資側のVCや顧問など、社外パートナーでも問題ありません。
スタートアップではリソース的に難しいと分かった上で、「複数メンバー」、「異なる部署や所属」をすすめる理由は大きく2つあります。
1つ目は単純なリソースの問題です。サポートのタイミングや声がけなどは状況に大きく左右されます。そのため、見通しを立てるのが難しく、かつ通常業務と並行して行うことからサポート側が疲弊するリスクが各段に上がってしまいます。
2つ目は、一人でサポートを行う場合、担当者が当事者のストレス要因そのものである可能性があるためです。この場合、回復はおろか、悪化してしまうなんてことも十分にあり得ます。
これらを避けるためにも、他部署や所属の違う複数のメンバーでサポートすることをおすすめします。
・本人とじっくり話す際は1on1で
サポート体制は複数人ですが、逆に本人と話すときは「1on1での対話」をおすすめします。
複数で話す場合、同席する人が増える程、本人は話す内容が周囲にどう取られるかを必要以上に気を使ってしまい、話せることも減ってしまいます。特にストレッサーとなる本人やそれに近しい人がいる場合などは、本音を話すことはまず困難となります。当時の私も、ストレッサーとなっていた一部のメンバーがいるところでは明らかに話す内容を選んでいるように見え、行動もおかしかったと言われました。
余談ですが、皆さんは2人で話している時と3人以上のグループで話す場合、話す内容やその深さが明らかに違うという経験はないでしょうか。これは疾患の有無に関わらず「人の習性なんじゃないかなー」と私は思います。
ましてや本人がこのような状態ではなおさらその傾向が強まるのではないでしょうか。
■サポートは声がけが基本
職場において、サポートの基本は当事者との声がけや対話などのコミュニケーションです。というのも、当事者の不調や異変に気付きながらもどうしていいかわからず、結果的に周囲が距離をおいてしまうケースが多いためです。
・サポート側から先に行動を
相手との距離感にもよりますが、基本的に当事者への行動はサポート側から出した方が良いと思ってます。
この時、当事者側は「出された手を握ることすらできない状態」です。私も症状がひどかった時期は、ヘルプ要請の声を自分からあげること、連絡すること自体が辛い状態でした。心理的、身体的にも動けないという表現がしっくりくるかもしれません。
なので、サポート側はちょっと強引に手を握りに行くくらいがちょうどいいです。私は「飴をくれる世話好きな大阪のおばちゃんモードで」と周囲に言ってます。
社会に出て活躍している人ほど、他者との距離の取り方に慣れているので、本人からのヘルプ要請がなければ、お節介になりそうとそっとしておくことが多いかもしれません。ただ、この時ばかりは別だと認識して欲しいです。
本来、必要であれば本人が声をあげて助けを求めたり、アクションをするのが基本だと思います。しかし、平常時では問題なくできていた場合も、この状況に陥ると行動やマインドが大きく変わってしまうことも多いです。そのため、サポート側は能動的でちょっと踏み込んだくらいの声がけが望ましいです。
少し酷な話ですが、「自身が相手にとってストレス要因だった」場合も可能であれば考えておいてください。万が一そうであった場合、速やかに当事者に対して身を引けるように、逆サイドの逃げ道を残しておくとなお良いです。
・受診のススメ
ここからは具体的な声がけについてお話をします。まずは心療内科や精神科、メンタルクリニックの受診を薦めてあげてほしいです。本人に自覚がないのも大きな理由ですが、それとは別に「精神科を受診すること」や「投薬治療」の心理的なブレーキは多くの人が持っているのが実情です。
これらの「心理ブレーキ」を外部からの働きかけで外すことで、本人の足が病院へと向きやすくなります。私の場合も、異変を察した相方(現:RESVO代表)に強く勧められて受診しました。これが今日の早期回復につながったと思います。
・味方であることを言葉で伝える
うつ病における急性時は、ほんの小さな言動から人間不信に陥ったり、人が離れて行ってしまうと思い込んでしまいがちです。メッセンジャーやメール、電話、コロナ禍でなければ対面など、どんな形であっても「大丈夫、あなたの味方だよ」という声がけは大きな安心感につながります。
他の具体的な支援が難しかったり、今までの関係性が乏しかったとしても、もし心配であれば一声かけてあげて欲しいです。実際、私は周りの皆さんの声がけに救われたと、症状が落ち着いた今でも思ってます。
■業務負荷を軽減する
高ストレス下な環境や、それに準ずるトラブルと並行して通常事業を行うのは言うまでもなくかなりハードな状況です。ですので、本人と相談し、理解を得る形で引き取れるものは周りで対応し、業務負荷を軽減するのが良いと思います。
その後、本人が休職などの療養に入る場合にも手続き等がスムーズに進められますので、そういった側面でもおすすめです。
■ストレス要因から引き離す・解決する(高難度)
いろいろな理由で実現は難しいかもしれませんが、もし可能であればストレス要因から引き離したり、要因そのものを解決できるならそれがベストです。
こちらは病院の受診と同様、早ければ早いほど効果が高く、本人の回復につながる、特に重要なポイントであると感じています。部署異動や担当替えなど、仕組みで対応できるようなら検討する価値は充分にあります。
小規模なチームの場合は配置換えは難しいため、ストレス要因の把握と組織課題を明らかにし、人事制度や組織文化を見直すことが必要となります。
この手段は本質的な解決に繋がるものの、難易度も高いです。大きな組織であっても有効な手段なので、この手段がとれるようであればそれに越したことはありません。
あくまでも個人的な意見ですが、’’自社にとって大切にしている、どうしても変えられない組織文化’’とのミスマッチがストレス要因だった場合、状況によっては転職や退職を勧めた方が良い場合もあります。
個人の価値観が関わる部分ですので、どんな素晴らしい組織文化であってもミスマッチは起こり得ます。この部分で大切なのは、その後のリカバリーの方法ではないかと思います。
ただ、発症初期には重大な決定を行うのは本人にとって大変難しい状況です。休職後や療養後など、本人の体調とタイミングを加味しながら、慎重に話す必要があると思います。
■最後に〜今日からでも接点の少ないメンバーと話し、つながりを広げよう〜
今からすぐに始められる対策として、今あまり話していないメンバーに話しかけて、新しい繋がりを作ることをおすすめします。いざという時、お互いきっと役に立つはずです。
さまざまなメンバーとの適度なコミュニケーションは信頼の積み上げ、異変の察知につながります。結果として、今回紹介したような活動をスムーズに行うことができるからです。
昨年に引き続き、コロナ禍でのメンタル不調や疾患発症は依然として増え続けています。前回の記事でもお話ししたように、精神疾患は予防が大切です。この記事があなた自身や周囲の人たちの参考になればとても嬉しいです。
今後も不定期ですが、いくつか自身の体験を元にした記事を執筆する予定です。スタートアップ×メンタルヘルスの領域で聞きたいこと、個別で相談したいことなどありましたら、気軽に私までご連絡頂ければ嬉しいです。
ご支援ありがとうございます。頂いたサポートは今後メンタルヘルス分野で皆さんに還元できるよう、今後の活動にむけて、大切に使わせて頂きます!