第一章 小学校に入学する前②

二、保育所での初恋

よくある話、「Q:初恋の相手は誰ですか?」「A:保育所の○○先生です」というやつ。ご多分に漏れず僕もこのパターンだった。「みゆき先生」という名前だったと思う。20代で黒髪の長髪でとにかく優しかった。4歳から5歳ぐらいのころ、その気持ちに恋という名前が付いていることなんて知らなかったけど、なんとなく側にいたい、特別に思われたいと思っていた。そしてその気持ちと同時に女の子である自分が女性の先生に対して、そう思うことが少し変なのではないか?そう思っていたことも覚えている。

僕の初恋に終止符を打った出来事がある。それはみゆき先生の「結婚式」だった。ある日の保育所に預けられる時。母が先生たちと世間話をする中で、週末にみゆき先生の結婚式が行われたことが聞こえてきたのだ。

4、5歳ぐらいになると結婚も結婚式の意味もわかる。子どもながらに好きな人の結婚という事実を受け入れるのに少し時間がかかった。そして「見たかった」そう口にすることが精一杯で、周りの大人はその言葉にどんな気持ちが隠されているのか知る由もなく、「そっかー見たかったかー」と笑顔でなだめ、母は「招待されないと行けないんだよー」と無駄に現実を突きつけてきた。そして当のみゆき先生本人は少し恥ずかしそうに笑っていた。

「結婚」と聞いただけで、みゆき先生には他に好きな人がいて、そしてそれは男の人で、もちろん自分ではなくて、と様々なことを考えた。当時の保育所には男性と呼べる人も少なく、僕が当時見ていた世界には、みゆき先生と結婚しそうな年齢の男性がいなかったため、想像するのが難しかった。だけどその得体の知れない存在になんとも言えない感情を抱いたのは確かだった。見たことも会ったこともないその人に嫉妬するけれど、自分は女の子で、そして子どもで、圧倒的に「勝てない」という敗北感と無力感を抱いた。僕のかわいらしい初恋は「結婚」という重たい言葉と共に幕を閉じた。

みゆき先生への恋心に終止符が打たれたあと、僕は同い年の女の子に似たような気持ちを抱く。そしてそのときは、みゆき先生以上にもっと恋らしい恋で、「ちゅーしたい」と思ったこともあった。けど、特に何かあるわけでもなく、そして実際にそれを求めるわけでもなく友達として遊びながら、いつしかその気持ちも忘れていった。

「恋」という気持ちを自覚するようになるのは、小学生になってからだけど、改めて振り返ってみると、僕の性自認と性的指向はもうすでに形成されていた。そしてこの「恋」というのがまたやっかいで、その後の人生で色々と悩まされることになる。

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