チェンソーマンのアニメ化がビジネスとして成功したと思われるのにコアファンが少ない状況についての考察
<注意>この文章には作品のネタバレがありますのでご了承ください。
サムネ画像→ ©藤本タツキ/集英社・MAPPA
こんにちは
先日「チェンソーマン」のイベントや円盤(ブルーレイ/DVD)についての話を知りました。詰まるところ『数字が良くない』と。週刊少年ジャンプ、ジャンプ+でも最新話が出るごとにtwitterのトレンドに載る「チェンソーマン」。『まさか!?』という感じですが、どうしてそのような状況になっているのか、考えてみたいと思います。
1 経緯の確認
「チェンソーマン」については、アニメ化が発表された時点で非常に話題になっていました。タイミングはジャンプ本誌での第1部が終わる直前(2020年12月)でした。制作会社は「呪術廻戦」でもヒットを飛ばしたMAPPA。そのMAPPAが従来の製作委員会のシステムを組まずに1社でアニメの製作をすべて行うということでも話題となりました。
それからアニメの関する情報がどんどん出てきました。主題歌/OPが米津玄師で、EDも各話ごと変わるという豪華ぶり。いかにMAPPAが本作に力を入れているかが伝わってきました。
漫画の方も第二部がジャンプ+で連載開始され、アニメ発表時は累計発行部数500万部だった漫画も放送前には1,600万部まで伸びました。
その後、2022年10月、放映が始まりました。自分自身も初めてアニメを見た際、画のクオリテイが非常に高く、自社でやるということはここまで力をいれるものなのだなと、放映当時、感嘆をしながら観ていました。そして、放送後は、毎話、twitterでトレンドに入っていました。実際にNetflixやその他の動画配信サイトでも「チェンソーマン」は国内のトップ10にランキングしていました。加えて、米津玄師の「KICK BACK」はYouTubeで1億回再生し、TikTokでもこの曲が使われていたのを覚えています(使用動画本数は23万/23年4月時点)。そういった意味で、客観的にアニメとしては当然成功したんだなと思っていました。
ビジネスとしてアニメの製作費用を回収する際に大事なポイントは、各配信サイト(Netflixなど)の買値金額です。値段はそのアニメが魅力的で、ポテンシャルがどの程度あるかということで決まります。そこには原作の力、監督・脚本・キャラクターデザインなどのスタッフ陣など様々な評価ポイントがあります。また、買値は大体アニメの放送前に決まるので、放送前までにいかに盛り上がっているかが大事です。
そういった意味で考えるとは、漫画の累計発行部数1,600万部を売り上げている「チェンソーマン」は、映像配信(Prime Videoが優先権を取得)の売上でかなり高い値がついているはずです。加えて、アニメは主題歌やエンディング曲にタイアップ費用が発生します。そのため、ビジネス的にはすでに資金回収をしているor目処が立っているのではないかと思います。
そんな状況だったからこそ、衝撃だったのです。そんな作品の『イベントのチケットが完売していない』と。普通これだけ盛り上がったアニメの直後のイベントは、完売御礼で、アニメの余韻にしたりながら、次のシーズン発表!!といったことをするような場です。そして、そのイベントへの参加には、DVDやブルーレイの購入特典についているイベントの抽選優先申込券をゲットする必要があります。なのに、その場がまだ埋まっていない?そんなことあり得るの?と思い、イベントのwebサイトをみると、確かに販売中です。
非常事態です。これは今後のアニメビジネスを考える上で、なぜそのようなことが起こっているのか、きちんと振り返らなければならないのではないかと思い、まとめてみようと思いました。
先日読んだ「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」を制作した宮本茂さんのインタビューでもしっかり反省を行っていくことは非常に大事とおっしゃっていました。
2 事象の確認
まずは、本作において、なにが起こっているのか整理すべく"良かったこと"、"良くなかったと言われていること"について整理していきたいと思います。
<良かった点>
✔️ 配信は大きく盛り上がった!!
例えば、AbemaTVでは「チェンソーマン」1話の再生数は433万回でした(すべて23年4月末時点での数字)。
比較として、他の人気作品をみると「呪術廻戦」は577万再生、「鬼滅の刃」は849万再生、「進撃の巨人」は308万再生、「東京リベンジャーズ」は336万再生でした。遜色はない数字かと思います。
また、海外でも盛り上がっていました。例えばgoogleトレンドで検索すると、「ブリーチ」と同程度話題になっていたことが伺えます。
✔️ オープニング曲の米津玄師『KICK BACK』が話題に!! すでにYouTubeで1億再生!!
「チェンソーマン」の主題歌/OP(オープニング)は、米津玄師の『KICK BACK』でした。
これも他の主題歌と比べてみると、「呪術廻戦」のEve『廻廻奇譚』は2.9億回再生、「鬼滅の刃」のLiSA 『紅蓮華 (THE FIRST TAKE)』は1.3億回、Aimer『残響散歌』は1.6億回、「東京リベンジャーズ」のOfficial髭男dism 『Cry Baby』は1.2億回、「SPY×FAMILY」の同じくOfficial髭男dism 『ミックスナッツ』は、9,300万再生でした。時期的に最新ということを踏まえると、OP曲は盛り上がっていると言えそうです。
✔️ 満員御礼となった「チェンソーマン展」
2023年2月から西武渋谷店 モヴィーダ館で行われた「チェンソーマン展」。上の記事は開始4日目に行った方の感想ですが、非常に混み合っていたそうです。またグッズも色々と完売していたとのことです。最終日近辺は当日券もあったそうですが、成功と言って良さそうです。
✔️ 原作も僅か2ヶ月で累計2000万部突破(+放送前から400万部)
10月時点のリリースでは1,600万部だったのが、12月時点では2,000万部になっていました。アニメ化によって「チェンソーマン」のファン層が増えたことがわかります。
<良くなかった点>
✔️ ED(エンディング)曲を毎話アーティストを変えたが、後半失速してしまった
以下は、チェンソーマンのOP/EDにおけるSpotifyの音楽再生数とYouTubeにアップしているノンクレジット版映像の再生数を比較してみました。
有名なアーティストから若手で話題になっているアーティストまで様々な方々が参加しており、本作の豪華さを彩っています。しかし、本施策の目的としては、作品の豪華さだけでなく、EDが話の後半に連れて盛り上がっていくことにより、ファンの没入感の増大や、ファン内での盛り上がりをイメージしてたのではないかと思います。実際にED映像に使われるアニメも毎回変わっていました。
その観点から表を見ていくと、EDの映像ノンクレジット版は5話以降下落しています。またED曲のSpotify再生数をすべて合計しても1億7,000万回再生となり、OPの米津玄師の2億回再生を下回る結果となってしまいました(米津が凄すぎるという点もあります)。
宣伝マーケティング的な観点から考えると「毎回どんな曲だろう?」「イラストはどういったものになるのだろう?」というネタがあることにより、作品の話題性作りができたのかもしれませんが、”定量的にEDの再生数を合計してもOPの米津玄師 の数字には及ばない点”、そして、”話数後半になり動画再生数が落ちていった”という点を考慮すると、この施策について、視聴者の多くがついてこれなかったor関心を示さなかったと言えそうです。
ただし、そもそもの数字として、Spotifyの再生数が最低でも500万再生回っているということは、他のアニメと比べても非常に高い数字ですし、レコードレーベル的には、制作費分も十分回収でき、成功したと考えているのかなと思います。
そして、さらに付け加えるとノンクレジット版の動画が300万再生いくアニメはほぼありません。例えば同じMAPPAのYouTube公式アカウントにあるノンクレジット版映像をみると「ダンス・ダンス・ダンスール」は8.6万再生、「地獄楽」は18万再生、「ヴィンランド・サガ」SEASON2は92万再生です。その点では、あくまでも物凄いことであるということが前提であることはご了承ください。
✔️ 作品性を原作とアニメで変更したことによるコアファン(原作ファン)から賛否両論が出た
noteでチェンソーマンを調べてみると、識者による記事がいくつも書かれていました。そこからいくつかなるほどと思った点を抜粋してみたいと思います。
最初にあげるのは狂猫病さんの記事。要約するとこういうことでした。
藤本タツキ先生は非常に映画が好きでストーリー研究もしているということを前提におき、今回の漫画とアニメで扱われた第1話から第38話の構造の違いをハリウッド的に3幕構成で分析していきます。とりわけ識者が残念な点として主張していた点は、アニメが"ミッドポイントと幕の転換を重要視できていなかった点"、"後半での主人公変更という点"です。
今回のアニメを第1シーズンと位置付けるのであれば、その見せ場は「永遠の悪魔」に対してデンジが血を飲んで倒すところ、その後の「ゲロキス」です。漫画ではそこで非常に盛り上がった後、ゲロキスで衝撃を受けるという流れなのですが、アニメではそれを話数を分けることなく1話でやってしまった点です。それにより、1話の中に相対する衝撃物が二つも収まることにより、漫画であった衝撃の大きさを相殺してしまっているのではないかと主張しています。
また後者では、後半の3話が主人公のデンジではなくアキにフォーカスを当ててしまい、話の主体がボヤけてしまったのではないかということを指摘しています。アキにフォーカスをしてしまったばっかりに、最後のクライマックスへの転換点として、サメの魔人、暴力の魔人、蜘蛛の悪魔、天使の悪魔が登場し、サムライソードへ立ち向かっていくというところが、話の中盤であっさり描かれてしまうことになりました(第11話)。もし話の最初や最後にこのシーンを持って来れたらもっと盛り上がっていたのではないかということです。
漫画どおりデンジを主軸に最後まで行くと、わかりやすく、よかったのではないかという内容でした。
実際に当時の11話の告知をみると、”天使の悪魔”をキャッチーとしては置いて、かつ、あらすじもデンジとパワーなど公安による反撃と書いてあり、わかりやすく良いと思いました。しかし、話の頭と終わりは、アキで始まりアキで終わってしまいました。またPV第一弾もアキから始まります。
これについては(先の展開を考えると)”未来の悪魔”と契約するアキの重要性や、チェンソーマンの中の唯一の正当・イケメンキャラであることを踏まえると、アニメの見せ方としてフォーカスしてしまいたい気持ちもわかるかなと思いました。
結論、ストーリー構成が本来ハリウッド的な漫画だったのが、アニメになるととたんに邦画的(三幕構成がしっかり生かせない作品が多いそう)になってしまったことが、よくなかったのではということでした。
ヴィクトリー下村さんの記事では、写実的な表現が多くなった点(映像や、声優の喋り方など)、ギャグが聞き取りづらかったりする点が挙げられています。また、署名運動などがあったことも記載されていました。ただ、あくまでも、アニメと漫画は別物ではあるので、概ね満足したと書いています。
こちらはアニメの元制作進行のtasitaさんが書いた記事。結論、チェンソーマンの期待値が非常に高すぎたことから起こるギャップと、チェンソーマンという作品自体が、鬼滅の刃や呪術廻戦と比べアニメにした時の振り幅が狭く(つまり漫画時点で完成しすぎている)制作において非常に難しかったのではないか、ということでした。アニメ制作者側から見たら、作品は十分素晴らしいのでは、ということでした。
次は、夏みかんさんです。原作をどのように解釈してアニメにしていくべきか?という視点から「チェンソーマン」と「ぼっち・ざ・ろっく」を比較しています。「チェンソーマン」については著者自身もかなりのファンで、それ故にアニメのイメージがあり、そのギャップに驚いてしまった点。一方4コマ派生からはじまった「ぼっち・ざ・ろっく」は原作から飛躍した解釈をしていくことで、非常に面白い作品となっているということが書かれています。
チェンソーマンについては、狂猫病さんと同じように永遠の悪魔との戦いとゲロキスを同じ話に描いてしまった点。加えて、写実的にするのであれば、その後にあるマキマとのデートまで描いた方が良かったのではないかと書いていました。
「ぼっち・ざ・ろっく」は、この記事を契機に見てみましたが、確かに面白かったでっす。
次はフガクラさんの記事です。「チェンソーマン」の漫画におけるコマ数の違いから考察が入っています。
すごい細かい指摘ですね。確かにと思ってしまいました。
つまり、他の漫画と比べてコマ数が少なく疾走感のある漫画原作を通常のアニメよりも若干長い尺で丁寧に物語を描いたことも、こうした印象に影響しているのではと言われています。
そうした影響もあってか、第1話については、このような記事も上がっていました。
1話のゾンビの悪魔と戦うシーンにおいては、原作だと一気に切っていくシーンなのに、アニメだと俯瞰カットにされ、1体1体切っていく描写になっているという部分を指摘しています。本来、吹っ切れたデンジをスカッと見るところが助長に描かれてしまい本来の原作の良さが失われてしまったと。他にもたくさんポイントはあるので、詳細は動画や記事をご覧ください。
この記事で、原作ファンの本音を垣間見ることができました。そして「円盤(ブルーレイ/DVD)を買うと、アニメを認めたことになる!」ということです。もちろん著者自身は原作の「チェンソーマン」は大好きです。だから故に、原作の持つ良いところを削いでしまったことに不満を持っています。
ここで、書籍「アニメーションの脚本術」の中で脚本家の加藤陽一さんがおっしゃっていた言葉を引用しておきます。
✔️ 円盤(ブルーレイ/DVD)が売れなかった
ということで、今回の話の最初のトピックにあった、アニメのブルーレイ・DVDがあまり売れなかったと言われる点です。
近年の円盤の売上枚数は年々落ちてきています。しかし、覇権アニメとなるとかなりの枚数が売れます。
このサイトをみると、例えば20年の秋アニメとして「呪術廻戦」は約3万枚売れています。1,700枚というのはどんなアニメがあるかをみてみると「くまクマ熊ベアー」「神様になった日」などが並び、そのクールのアニメの販売ランキングでは20位程度の作品でした(ちなみに映画「呪術廻戦」は9万枚のようです)。
今回の円盤の購入者特典としてイベントが行われる「チェンソーフェス」の会場は東京ガーデンシアターです。そこは最大8,000人のキャパで、今回は昼・夜の2回回しなので、MAX動員16,000人(実際は2回とも見るファンが多いので実際は少ない)です。
そうした数字を踏まえると、当初は「呪術廻戦」かそれ以上円盤が売れると想定してこの場所を押さえていたのだと思われます。
確かに、アニメの放送前に公開されるYouTubeでのPVの再生数を比較すると「チェンソーマン(第3弾)」は990万再生、「呪術廻戦(第1弾)」は560万再生ですので、自分が担当者でも「チェンソーマン」は盛り上がると思って、そのような決断をしてしまうかもしれません。
ちなみに、上記のnote記事に戻ると円盤の内容自体は、他アニメの円盤と比べ、非常に豪華で内容も充実していると書かれています。つまり、円盤自体には問題ないそうです。むしろお買い得とも。
3 コアファンを落としてしまうことの恐怖
さて、ようやく本題に来ました。「チェンソーマン」は上記のように実際の人気とはかけ離れてしまった結果となってしまいました。その要因を考えていきたいと思います。まず、円盤(DVD/ブルーレイ)を買う人はどのような人なのでしょうか?もちろんその答えは、そのアニメのコアファンであると思います。
では、アニメのコアファンとは何?という疑問があります。まずざっくりとアニメファン層を3つのレイヤーに分けてみます。
アニメを観るだけでなく、その様々なものに対して行動まで行っていく人たちというのがアニメのコアファン層であると考えます。つまりイメージとしては1つの気に入ったアニメに対して、ざっくり10,000円以上お金を出していいと考えている人です。具体的な行動指針としては、円盤を買ったり、そのイベントに行ったりと、アニメのtwitterを追いかけながら活動する人と考えます。
つまり、ここで言いたいのは、「チェンソーマン」は幅広くアニメファンには浸透していたが、肝心のアニメのコアファン層を落としてしまったのではないか?ということです。だからこそ、円盤が期待ほど売れなかったと。
では、具体的に、そのアニメファン層とはどんな人たちなのでしょうか?
4 アニメのコアファン層とは?
ここで言う「コアファン」としては、大きく2種類に分けられます。1つは原作ファン、もう1つはアニメを通してファンになる層です。
① 原作ファン層について
原作ファン層はイメージしやすいと思います。純粋に漫画を読んでいる層です。このファンの特性として考えられるのは、「この漫画が映像化することにより、今までにない原作の良さを知ることができる」「アニメ化を通して、作品をもっと好きになることができる」「原作(漫画や文字)では描ききれなかった世界観が映像かされる」といった感じでしょうか。
「チェンソーマン」のケースでは、2022年10月時点で単行本の累計発行部数1600万冊(既刊12巻)なので1巻あたり133万部。発行部数なので少し差し引いても100万部=100万人くらいは熱心な原作読者層がいたことになります。
② アニメファン層
アニメファン層は、アニメを見てからその作品の熱狂的なファンになる層です。ただ、この層は非常に多様な種類があると考えており、一括りにしていくのは非常に難しい層です。このあたりの層についてはどんな人がいるのか周囲のアニメ好きに聞いてみました。
②-1 アニメスタジオ/スタッフキッカケで観る人
近年のアニメ好きの視聴優先意向については、アニメスタジオの力や実績に寄る影響が多いです。例えば、スタジオジブリ、ufotable、MAPPA、京都アニメーション、カラー、TRIGGER、WIT STUDIO、A-1 Picturesなどです(twitterのフォロワーが多い順でピックアップしました)。
アニメが好きな人は、このアニメプロダクションが作ったアニメであれば絶対にチェックするという人がいます。今回「チェンソーマン」を手掛ける「MAPPA」はtwitterフォロワー90万(23年4月時点)と日本のアニメスタジオの中では3番目に多いです。
さらには、スタッフきっかけで観る人もいます。例えば、今度の作品の脚本は「あの花」の岡田麿里さんだ、とか、監督は「けいおん!!」の山田尚子さんだ!というような感じです。監督・脚本/シリーズ構成・キャラクターデザインなどはよく話題になります。
今回の「チェンソーマン」をみると、監督は中山竜さんで初監督(ただし、数々の人気アニメでスタッフ参加している)ですが、シリーズ構成には「呪術廻戦」「サマータイムレンダ」「モブサイコ100III」「ヴィンランド・サガ」なども務められた瀬古浩司さん、キャラクターデザインには、杉山和隆さん。音楽には牛尾憲輔さんと強力な布陣です。
ただし、この層はコアファンではありつつも、アニメを観ることが好きなので、実際にイベント参加や円盤購入という段階に行く割合は少ないかもしれません。
②-2 声優きっかけで見る層
次に声優ファン層です。アニメ好き層の中には、自分の好きな声優が出ているアニメであれば見る層もいます。この層は、アニメイベントだけでなく、声優がやっているイベント(歌のライブやバースデイイベント)にも参加している、いわゆる追っかけ層です。非常に熱狂的で、”数字が読める層”とも言えるかもしれません。
参考までに、「呪術廻戦」と「チェンソーマン」の主要声優陣を比較してみます。
「呪術廻戦」は虎杖悠仁 - 榎木淳弥、伏黒恵 - 内田雄馬、釘崎野薔薇 - 瀬戸麻沙美、五条悟 - 中村悠一、両面宿儺 - 諏訪部順一、禪院 真希 - 小松未可子、狗巻 棘 - 内山昂輝、パンダ - 関智一、七海 建人 - 津田健次郎、と誰もが知る声優陣が揃っています(twitter合計フォロワー509.9万/2023年5月時点)。
ちなみに、アーティストとしての内田雄馬さんは、全国ライブツアーを実施しており、幕張メッセ会場を完売するほどの人気があります。
一方、「チェンソーマン」の主要声優陣を比較すると、デンジ - 戸谷菊之介、マキマ - 楠木ともり、早川アキ - 坂田将吾、パワー - ファイルーズあい、ポチタ - 井澤詩織、姫野 - 伊瀬茉莉也、という並びになり「呪術廻戦」と比べると、並びが劣ってしまいます(twitter合計フォロワー92.3万)。
声優ラインナップはアニメのイベント動員に大きな影響を及ぼす要因の一つなので、そうした意味ではこの層の動員が少なかったのかなと思います。
②-3 キャラクター推し層
次に考えらる層は、キャラクター推し層です。近年”推し活”というワードがよくみられるようになりましたが、アニメのキャラクターを好きになる/ファンになる層ともいえます。
具体的には様々な形があると思いますが、わかりやすいのは異性間・同性間で考えられると思われます。
上記は整理してみた内容です。大きく3つのカテゴリーがあると思います。
1 ”カッコイイ”キャラクター
これは子供が”自分もあのようになりたい”と思って好きになる層です。例えば、ワンピースのルフィが好き、鬼滅の刃の炭治郎が好きというような感じです。女の子だとプリキュアやセーラームーンというのも当てはまるかもしれません。
2 動物や子供などの”可愛い”キャラクター
最近の「ちいかわ」ブームや「SPY×FAMILY」のアーニャなど、大人や子供がその存在に”可愛い”というイメージを持ち、気持ちが明るくなったり、元気がもらえるような、そんなキャラクター群です。
3 擬似恋愛系キャラクター
このゾーンには3つのジャンルに分類されます(男女ベースそれぞれでみると6つのジャンル)。
1つ目は、異性間のキャラクター好きです。男性が女性のキャラクターを推したり、女性が男性のキャラクターを推すものです。
例えば「ラブライブ!」を応援する男性だったり、「スラムダンク」で宮城リョータを応援する女性だったりという感じです。彼らは憧れだったり/そのキャラと一緒にいるのを夢みたりする層です。最近でより顕著なのが、「名探偵コナン」の安室透や、「鬼滅の刃」の煉獄杏寿郎などはtwitterなどで、彼を〇〇億の男にしようというような活動が盛り上がりました。これらのファンが映画の興行収入を支えたことは火を見るよりも明らかです。
2つ目は、BLキャラクター好きです。女性が男性同士の恋愛要素を好きになる(=腐女子)ことだったり、男性が男性同士の恋愛要素を好きになる(=腐男子というらしい)要素です。前者の方が多いとは思います。
なお、この腐女子というジャンルは非常に深く、わかりやすくそういうシーンが出てくるものもあれば、ライトなものでそういう関係を妄想してCP(カップリング)していくものまで幅広くあります。
ライトなアニメでも腐女子ファンに刺さる内容としては、スポーツ系や青春系な要素のものが多く、最近だと「ブルーロック」「スラムダンク」「テニスの王子様」「ハイキュー」「弱虫ペダル」など、または「おそ松さん」などが挙げられます。
上記の記事を読むとわかるのですが、この1番のポイントはキャラ立ちがしっかりしていること、そしてお互いがどのような関係性にあるのかということです。関係性も仲間同士(同期・先輩・後輩)、幼馴染、ライバルなど色々な可能性があります。変わったところでは、ブラコンと呼ばれる兄弟関係もあります。
例えば最初の「ブルーロック」だと、多くの男の子たちが1人のストライカーをめざして切磋琢磨するという内容です。そのため、様々な組み合わせが発生し、腐女子要素が非常に高い作品です。
3つ目は、百合キャラクター好きです。近年よく聞かれるようになりましたが、女性同士の恋愛や濃厚な友情が好きな層です。女性から見られることが多いですが、男性の中にも、女性同士のそうした関係が好きな層もいます(※好きなアニメジャンルは異なりそうですが)。
百合系ジャンルも腐女子と同じく深いものから軽いものまであります。ただ、自分はほとんど見ていないので詳しくは説明できないですが、出版社であげると一迅社が多くの百合原作を出しており、”コミック百合姫”という雑誌も出しています。2005年頃から不定期で発売し、連載作品のアニメ化などを経て、2016年には月刊まで成長しています。
上記がキャラクター推し層の種類になります。
これらがアニメのコアファン層を形成する人たちと考えます。こうした層を意識しながらアニメの制作・宣伝を行なっていくということが非常に大事であると思われます。
「チェンソーマン」はどこまでコアファンを取れていたのだろうか?
では具体的に「チェンソーマン」についてはどうだったのでしょうか。
まず、①の原作ファン層ですが、様々なレビューや口コミをみていると”原作と違う”というような意見がみられるためあまり期待ができなそうでした。
次に②のアニメスタジオ・スタッフファン層については、一定層いるのではないかと思います。一方で声優ファン層については決して強いとは言い難いです。
少し話が逸れますが、アニメ好きがアニメを見るときに、映像や音楽だけでなく声優は非常に大事だと考えます。そして、声優は実力や経験次第で作品に大きく影響が出ます。
とりわけ、俳優も同じですが、演技はあくまでも自分自身の経験や踏んできた現場の数、そこからの想像力で力量がでます。
例えば、高校生を主人公とする物語(「ブルーロック」など)は、自分自身の過去の高校生時代を思い描けば演じることは用意かもしれません。そのため、演技経験が少なくてもできるかもしれません。
しかし、複雑なキャラになればなるほど、実力がないと演技が薄っぺらいものになってしまいます。そうしたときに「チェンソーマン」のデンジというキャラクターは演じやすいのかなと?と思うと、それは否だと思います。
生きる気力を無くし、偶然よくわからないことに巻き込まれ、最低限の幸せが欲しいと願う、その最低限の幸せを掴み取るための対価が途方も無い試練である。こんな経験は普段ですることができません。そのため相当な演技力=経験・実績が必要な役です。
そもそも「チェンソーマン」に出てくる登場人物に普通な人はほぼいないので、どのキャラクターも難易度が非常に高いと思います。
そうした意味でキャスティングも全て正解だったのかどうかは不透明です。アニメ好きと話をすると、声が合っている合っていない以前にそのような話になることがあります。最近のアニメだと「地獄楽」の画眉丸も恐ろしく複雑な心理描写をもつキャラクターですね。
「ラブライブ!」シリーズの音響監督を務められた長崎行雄さんが、コロナになって若手の育つ機会が少なくなったと嘆いていらっしゃいました。今までのアニメは、若手やベテランまで一斉に集まって収録をしていたのが、感染予防の観点から一人一人抜き録りをするようになりました。そして、その方が効率よくたくさん仕事できるじゃん、という風になりました。実際に、人気声優の花江夏樹さんなどはコロナ以降、2022年のアニメ・映画出演本数は32本あったりと非常に増えています。
一斉収録の魅力は、それぞれの役の息遣いを確認しながらできることや、若手がベテランから技術を盗んだり、勉強したりする機会になります。そうした意味で、こうした収録環境の変化も作品のクオリティを落としてしまう結果になるのかもしれません。ちなみに、もし興味があれればこの本を読めば、アフレコや声優事情が垣間見れると思います。
さて、話は戻ります。
③のキャラクター推し層についてはどうでしょうか。
デンジは人生の底辺をいく、バカでエロいキャラクターです。そのため疑似恋愛層の対象とはなりにくそうです。
チェンソーマン内で唯一と言っても良いイケメンキャラクターの早川アキは、姫野との関係匂わせも多く、なかなか推しにくいキャラクターのようです。また声優の坂田将吾さんも過去にアニメの主要なイケメンキャラを多く演じているわけではないので、推しどころが少なかったかもしれません。
姫野については、男性からみると(デンジやアキが憧れる)完璧な女性マキマがいるために、そこまでのファンを得るのは難しい立ち回りです。
また、パワーのキャラクターもいわゆるお淑やかさがない点もあり、「ラブライブ!」などの一般的な女性を推してきた男性ファンからの人気を得るのも難しいのではと思います。
最後のマキマさんについては、強すぎる、実は敵だったという裏設定がでてくることから、あれっ!?という感じになってしまいます。
そのため、「チェンソーマン」という作品自体が、キャラクター推しという点では非常に難しい作品だったといえそうです。そして、自分も読んでいて思ったのですが、この作品には多くのキャラクターが出る割にすぐ死んでしまうので、そうした要素も推しづらさを高めているのかなと思いました。
例えば実写作品の場合だと、キャラクターの出演時間が少なくても、俳優という存在がいるためキャラクター性も出しやすいです。ただ、アニメはゼロからなので長時間出演しないとキャラクター性は出しづらいです。そうした意味で、藤本タツキ先生の「チェンソーマン」は実写向きな作品構成だったのかもしれません。
まとめ
以上のことから、作品自体のクオリティが非常に高いにも関わらず、コアファンがしっかり取りきれなかったために、想定外の円盤(DVD/ブルーレイ)販売数という自体が起こってしまったのではないかと考えます。
ちなみに、円盤の購入者層だけで言うと、「アンパンマン」のような親が子供に(繰り返し見せるために)買い与えてあげるケースもあると思います。しかし、「チェンソーマン」は100歩譲っても小さい子供に見せる作品ではないと思うので考えから除外しています。
では今後どうするのかということで考えると、コアファンをとりにいける方法は2つかなと思います。”作品を原作のテイストに寄せていく”こと、そして”キャラクターの特徴をしっかり推してあげる”ことです。
キャラクターを推してあげるという点で良い例は、「鬼滅の刃」刀鍛冶の里編で毎回冒頭に行われる<オリジナルアバン「双六大好き善逸の今日の一振り!」>のコーナーがあります。
これは炭治郎や善逸、伊之助たちが行う双六ゲームです。最初出てきた時に、いつもの大正よもや話の流れかなと思いましたが、よく考えると、”わざわざ出演しない”善逸と伊之助を出すのは、お金の無駄じゃないかとも思いました。しかし、その意図は別にあり、今まで応援してくれている善逸ファン、伊之助ファンを置いていかない、ロスにならないようにわざと出しているのではないかと思われます。そうすることによって、制作側の善逸・伊之助が常に主演のキャラクターとして位置付けれるということを伝えれますし、キャラクター推しファンは安心して作品を楽しめます。そして、グッズも変わらず買うかもしれません。
(もちろんフジテレビ限定にする意味付け=放送枠のプレミアム感を高めるという意図もあります。)
なお、「チェンソーマン」については、レぜ編と呼ばれる第2シーズンの展望は明るいのではないかなと思っています。
その理由としては、第1シーズンの後半で登場した「サメの悪魔」は花江夏樹さんが「天使の悪魔」は内田真礼さんが声優を務めます。
ネタバレにはなりますが、今後デンジ・アキのパートナーとなるので活躍の場が増えます。そして多くの新キャラクターがまた新たに登場するので声優含めしっかりと戦略を組めば、多くのファンが着いてきてくれるのではないでしょうか。
改めてイベント内容をみると、明らかに夜の部のイベント項目が少ないので、何かしらの発表がありそうですね!
<追記:5月27日>
チェンソーフェスが終わりました。現地に行った人の話によると外国の方が多かったのだそうです。関係者受付にも長い行列が。集合写真をみるとざっと昼2500-3000名、夜3000-4000名でしょうか。次回シーズンの発表はありませんでした。
また、つい先日発売された週刊東洋経済 2023年5/27号の「アニメ 熱狂のカラクリ」において、MAPPAの大塚社長が以下のことを語られていました。
こちらの雑誌でも触れられていたように、S級スタジオのひとつであるMAPPA制作の週刊少年ジャンプのS級人気作品というということで、Prime Videoを含む配信事業者と非常に大きなディールを結べて回収できたのだと推測されます。
<追記:7月11日>
「チェンソーマン」2.5次元が発表されました。こちらの口コミをみると、配役が良い!などの好意的な意見が多いようです。
以上、 長文をお読みいただきありがとうございました!!
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