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#11 過ぎ去る日々に祝福を<研修総括編>

こんばんは。皆様、いかがお過ごしでしょうか。

さて、前回までのあらすじです。

<前回のあらすじ>
師匠からの熱い一喝を受け、ギアをひと段落上げ、いちごの学習に打ち込みました。初収穫の感傷に浸る暇もなく、いちごのシーズンは佳境へと入って行きます。

振り返ってみて

研修先の農園では本当に様々な経験を積みました。

環境制御技術、手入れのイロハ、ハチの飼育方法、散布のやり方。

作業だけでなく、作業の根幹にある考え方も頭に叩き込んでもらいました。

栽培だけではなく、販売についても学びました。

自然を相手にしている以上、収穫量を完全にコントロールすることはできません。

例えば、クリスマスの日に突然いちごの果実を増やすことはできません。

逆に春になると、急激に収穫量が増えるのもいちごの特徴ではあります。

ゆえに日々、収穫量の予想とそれに合わせた販売戦略が必要となります。

パックはどのサイズで販売するか、どれくらい店頭に出すか、いちご狩りは何人くらいを受け入れるかなど。

いちごは高級品でもあります。お客様には高いお金を払って頂く以上、絶対に満足して頂かなければなりません。

なので、まるでソムリエのように、お客様一人一人に品種の特性を説明し、お好みのいちごを紹介しました。

キッチンカーに乗って、地元のショッピングモールに販売にしに行ったり、かと思えば、青山のマルシェに出店することもありました。

雪が降ろうが、桜が散ろうが、僕たちは解のない答えを探し続け、それは美味しいいちごを作り、届けることそのものにほかなりませんでした。

現実を少しは知る

正直に申し上げますと、始めは夢と希望だけに満ち満ちていた日々には、少しずつ苦みが混じっていたように思います。

毎朝、広大な敷地を歩き回り、大量のいちごを摘んで、ひたすらパックに詰めます。

春になると、急激に生長する株の手入れや病害虫の防除、次シーズンの育苗が始まりますから、作業量は倍増します。

頭と身体をフルスピードで回転させても間に合わない場合もそう少なくはありませんでした。

時には、いちごが売れ残ったり、枝にぶら下がったまま腐敗したり、目に見える失態が心にもくすみを広げます。

疲れがちょっとずつ積もっていくのが分かりました。

それでも、お客様の満足そうな笑顔を見ると、それまでのただの疲れが心地よい疲れに変わるのが不思議でした。

大粒のいちごにかぶりつくわんぱく兄弟、ここのいちごが一番だとおっしゃってくださった奥様、シーズン中何度もお見えになった老夫婦。

自分が携わったいちごが巡り巡って、誰かの幸せになる瞬間、その瞬間、それまで感じていた苦みは深みへと変わりました。

けれど、そうは言っても、やはり始めの頃に抱いていた農業に対するイメージは変わりました。

僕が想像していたよりもずっと過酷で、でも辞めようとは一度も思いませんでした。

できるようになったこと、できなくなったこと

1度ではございますが、いちごのシーズンをまるまる実践し、僕自身変わったことは確かだと思います。

一番大きな変化はもちろん、美味しいいちごを作るための知識と自信を手に入れたことです。

未来のお客様へどう届けるかもイメージがどんどん膨らんでいます。

と同時にできなくなったこともあるような気がしてなりません。

自分の生活のことは何でも自分で決断しないと済まなくなりました。いろいろな部分でこだわりも強くなったように思います。

昔ならできていたでしょうが、波風が立たずに生きていくことはできそうにありません。精神面では少し大人ではなくなったような気もしています。

それに、実力不足を痛感し、やりたくてもできなかったこともあります。この日誌を書き続けられなかったこともその一つですね。

ですから、自身の変化を単純な成長と誇らしく思うことはできません。

得たものと同じく、失ったものも数多くあります。

ですが、それが自分の人生ならば、受け入れるほかはありません。

リルケに言わせれば、きっとこういうことなのでしょう。

「消え去ったもの」に愛着をもち
そして微笑しなければならない たぶん
去年よりは少しばかり明るい微笑を
――タナグラ人形(リルケ)より

一つの区切り

研修最終日、埼玉を旅立つ僕をこれまで一緒に過ごしてきた仲間が見送ってくださいました。

研修先の農園の看板を見て、僕は、半ば衝動で、戦々恐々と、研修を申し込みに行った日のことを思い出さずにはいられませんでした。

今、あの時の決断に僕は心からサムズアップを贈ります。

「福島一、東北一、全国一のいちご屋になってください。これからも最大のバックアップを約束します」

師匠をはそう言って僕を送り出してくれました。やはり僕の熱意はまだまだ遠く及びません。そして、これほど心強い言葉もありません。

埼玉の研修先で出会った全ての方々には、心からの感謝を述べます。一つ一つの出会いが僕にとって、かけがえのない就農一年目の記憶となりました。

皆様と出会ったからこそ、僕の「幸せが当たり前に訪れる場所」を作るという野望も一層強く持ち続けることができます。

ようやくこれで一歩歩みを進めることができます。

そして、次なる壁、「認定新規就農者」、「青年等就農資金」、「開発許可」にも立ち向かうことができます。

就農地も決まり、現在開拓を行っています。

しかし、今回でこの連載はひとまず区切りにさせて頂こうと思っております。

理由をお察しの方は多いのではないかと思いますが、いちご農家の準備との両立が自分の実力ではとうとう難しくなってきたからです。

全く不徳の致すところではありますが、本業がすっころんでしまっては本末転倒ですから、どうかお許しください。

ただ、今後の進捗はInstagramで更新していきたいと思っております。

Instagram アカウント → @asola_2023

よろしければご覧ください。

最後に、正直ここまで文章をしたためることができたのは――そして、続きを書きたいと悔しさを覚えてしまうのは、全て、これまで読んでくださった皆様のおかげです。

皆様の「いいね」や「コメント」には本当に励まされました。

僕の農園がOPENの暖簾を掲げることができた暁には、これまで読んでくださった皆様はどうかその旨をメッセージでお知らせください。

真っ先に極上のいちごをご馳走させていただきます。

それでは、またどこかの機会にお会いできますように。

末永くお元気で。お互い、時間の許す限り生きていきましょう。

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