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人生色々

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#ショートショート

妻の夏休み

妻の夏休み

妻は、テーブルの上にちょっぴり豪華な朝食を作ってあった。

いつもは味噌汁とごはん、海苔の佃煮がある質素なものだったのに、

今朝はそこにアジの開きが付き、4つ折りにされたコピー用紙が添えられていた。

「7日間家を空けます。私の夏休みです。あなたが、コロナでうちで仕事をするようになり、私のプライベートは減りました。少し息抜きする時間があっても罰は当たらないでしょ!毎日あなたにご飯をつくり続け、た

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夜の学校

夜の学校

うちの通った高校には、修学旅行という普通は一大イベントとなるはずの、学校行事がない。

うちに通う生徒たちの殆どが何かしら問題を抱えて、集団で違う所に移動するなど困難を極める生徒が多数派を占める。

だから、

その代わりに、「夜の学校体験」という1泊2日のお泊まり行事をやる。

これは、夕方の6時に学校の門をくぐると、朝8時まで、学校の外には、出られないというルール。後はデジタル機器は一切持ち込

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桜の咲く頃に

桜の咲く頃に

もう、桜の咲く頃にこの世にいるのは難しいと医師から宣告されていた。

冬の木枯らしを見つめながら、夜中になると怖くて眠れない日々が続いた。

私の誕生日は、夏の最中。その頃には、もう、この世に居ない……

だから、冬の寒さが沁みるクリスマスに、最愛の人に会った。笑って別れを告げるために、目いっぱいオシャレして、彼が予約してくれた高級レストランで、シャンパンで乾杯した。

「あなたと会うのは、今日で

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くす玉

8月の青い空にどデカい入道雲。潮風が海から柔らかい頬を刺激する。

子供達が毎日、海に行く。海の町に暮らす子供の日課だ。

今年は、私の祖母が初盆を迎える。

祖母は、子供達から

「おおばあば」と呼ばれ慕われていた。

真っ黒に日焼けしたしわくちゃの手で、器用にくす玉を作る。折り紙を折る手は、いつも魔法使いの手のように見えた。

私は、小さな頃から、祖母が作るくす玉を一緒に作る。でも、小さな手は

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偶然の克服

偶然の克服

テレビのお天気お姉さんが

「夕方激しい雨が降る予報」

というのを信じて、夕方から友達と食事をするのを来週に延期しようと決めた。

私の嫌いなものベスト3

幽霊、注射、雷。

最近雨の前には、必ず、ゴロゴロ言い出し、その後バリバリ!ドーン……ほんとに耳を塞いでしゃがむ体勢を取ってしまう。通り雨が、ザーッと降る中、ずぶ濡れになる走って建物内に行けばいいのにってみんなは言うが、中々足が動かないのだ

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天使の輪

天使の輪

小学生の頃、朝早くから近くの公園でラジオ体操をするのがなんだか義務のようになっていた。行くとカードにハンコを押してくれ、皆勤だとお菓子の袋詰めが送られる。

それを目当てに、せっせと朝早く行く子もいたが、高学年になると、もう、面倒になり、家で寝ている方がいいやとなる。

親に言われて、渋々たまに行くと、クラスのアイドル的存在成美が、笑顔で「久しぶり!」と声をかけてきた。

「お前、毎日来てるの?」

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たった1gの価値

たった1gの価値

1gのアルミニウム。

道端に落ちていた。

これで何も出来ないから、みんな知らぬ顔で通り過ぎる。価値観なんてそんなもの。

小さな手が、1gのアルミニウムを拾って、交番に届けた。

駐在さんは笑って

「それは君にあげるよ!困った時のために」と小さな掌に乗せた。

その翌日、母親と、手を繋ぐ小さな手。

スーパーのレジ前、店員が困惑している。

「あと一円足りません!」

母親は、好物のプリンを

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青い糸

青い糸

「聞こえますか?」

「聞こえてるよ」」3m先のあたしの声を必死に捉えてくれたカズ。

あれはまだ小3の頃だった。澄み切った青い空。

お酒好きな父親は、酔うと私を、殴る。

母は、そんな父の言いなりで子供が酷い目にあっている中、見て見ぬふり。

私は父が酔う前に外に出るのが習慣になった。

上を見上げれば青一色の空。海岸沿いに歩き、テトラポットが並ぶ場所に行くと、いつもカズが、その上に座ってリコ

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夜の向日葵

夜の向日葵

「お月様が笑ってるよ。」

空を見上げ、彼が言う。今年の夏は、イベントが何も無くて、ただ、夜空を見上げるだけになった。

しかし、私の右手を繋いで歩く彼は、

今日は、君を離さないぞ!という無言のメッセージを手の温もりともに、私に送って来る。

街灯の少ない港を歩く。静かな波音だけが囁くように耳に伝わった。

港の端に灯台が見えた。

漁を終えた船が、錨を下ろして何層も泊まっていた。

彼は、私の

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向日葵の咲く丘に

向日葵の咲く丘に

君はもう忘れちゃっただろうか?お互いが、落ち着いたら一緒に暮らそうと話した事を。

俺は今、そんな状態ではない。しかし、ふと思い出したのだ。

キミは微笑んで、

「私の宝物が私のものでなくなったらね。」と言った。

宝物とは、ひとり娘の事だ。

風の噂で、好青年と幸せに暮らしていると聞いた。君の宝物が輝かしい未来へ旅立った。

君はもう君自身の人生を歩む権利を得る。

しかし、俺は余命半年の宣告

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平和なのは今だけかもしれない

平和なのは今だけかもしれない

今日は、久しぶりの登校日。毎年夏休みの8月6日は登校日だ。

夏の日差しを浴びて真っ黒に日焼けしたクラスメートと久々に会える。

他愛のない会話を笑顔で交わすだけで、幸せモードになれる。学校はバスを乗り継いで、山の上にある。だから長期休暇に入ると、友達に会う機会が極端に減るのだ。

8月6日と言えば、広島に原子爆弾が投下されたひ。平和学習も兼ねていて、いつも戦争関連のアニメを見るのが恒例行事だった

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