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イグアナ

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2020年5月の記事一覧

最後の恋ー続編

「なんでなん?なんで私が母親の結婚式のバージンロード歩かなアカンのさぁ!」

結婚式の前日の夜である。優子は、吉田との結婚には反対しなかった。むしろ、あんな素敵な人に出会えた母が羨ましい程だ。

「もう何度も話し合ったやろ!私の家族は、あんただけや。まさか父親を天国から呼ぶ訳にも行かへん。」
優子の祖父母はもう既にこの世に居ない。優子が3歳の時祖母が病死。祖父は、1人で田舎で暮らしていたが、畑仕事

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最後の恋

「優子、あなたにあって欲しい人がいるねん。あんた、丁度会社休みやろ?」

母は、ハニカムように私の顔色を伺う。これはもしや、

「また、恋人でも出来たんか?」
と、ため息混じりで答える。さらに上目遣いに私を見るはは。
「恋人やなくて、婚約者や!」
「なに?それどういうこと?それも世間は、非常事態が発生してるのに。
」そう、私の母は、いつも突拍子のない行動に出る。

母には持病があり入退院を繰り返し

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イグアナ9

その日の午後の事だ。

「田中さん、ちょっと!」
上司に呼び出される。何事かと思うが、ミスをした覚えもないし、うーん。足取り重く、上司の後に続き、別の部屋へ行く。考えこんでいる私に、「田中さん、ちょっと悪いんだけど、部署異動してもらえる?」
頭の中が混乱状態に陥る。
「どういうことですか?私何かみすしましたか?」上司は首を横に振る。が、笑顔の中の瞳は真剣だった。
「ここだけの話。噂だから、

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イグアナ8

母からのLINEはいつも単純明快なものだ。多分スマホを使いこなせないから、短文で済ます。
「妊娠した」
マジか!とおもうが、男女二人同じ屋根の下。歳は離れていても夫婦だ。
当然の成り行きだろう。私はその場で母に電話をかけた。

「優子、LINE見た?」声がどことなく不安そうだ。
「どうしたん?もう吉田くんに話したか?」少し間が空いて、
「まだや!だって、あまりにびっくりして、どう言えばいいか分

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イグアナ7

携帯アラームはいつも通り6時に鳴った。
ソファーの真一郎は毛布を顔まで被り、まだ眠っている。
また昨夜も寝ながら、爬虫類の話で盛り上がった。外はまだ暗い。エアコンをつけて、彼が眠っている間に、サーっと着替えを済ませ、キッチンに立つ。牛乳と卵をまぜ、そこに固くなったトーストを浸した。
コーヒーメーカーに豆と水をセットしてスイッチオン。朝は「グアテマラ」酸味とフルーツのような香りの上にコクがある。

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イグアナ6

コーヒーの香りで目を覚ます。鼻先でこれはマンデリンだなとおもう。少し苦味とコクがあるが、ハーブのような香りが脳内細胞を目覚めさせる。
私はベッドから起き上がり、時計を見る。午後4時をとっくに回っていた。隣のキッチンで誰かがコーヒーを入れている。寝ぼけて回らない頭をフル回転させた。そうだ、明け方まで真一郎と爬虫類の話で盛り上がり、いつの間にか眠ってしまったのだった。

私が、起きたのに気付いた真一郎

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イグアナ5

私たちが家に帰り着く頃には、日がどっぷり暮れていた。
アパートの鍵を開け、そそくさと中にはいり、玄関のライトをつける。

「寒い!すぐにエアコンつけるからね。早く入って!」
遠慮がちに、中にはいり、靴を脱ぎ、脱ぎっぱなしの私のパンプスまできちんと揃えたあと、ケージと、リュックを背負ったまま、
中に入る。
「お邪魔します。」玄関のすぐそばがユニットバスと小さな下駄箱、そこを通り抜けると、3畳ほどの広

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イグアナ4

爬虫類カフェ「ネバーランド」
次の土曜日の午後、真一郎と待ち合わせ、ちょっと今後の打ち合わせをしようという事になっていた。
私は、先に到着し、「カナヘビパスタ」という奇妙な名前のパスタを注文し、一人ランチを食べ
彼の来るのを待つ。

約束の時間10分前に、大きなリュックを背中に背負い、手にはイグアナを入れたケージ見るからに怪しい格好で現れた。
「優子さん、来るの早いね。まだ来てないかと思ったよ。」

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イグアナ3

「こんな平日の午後で仕事の方大丈夫だった?」
真一郎が少し心配そうに聞く。
「大丈夫だよ!私普段無遅刻無欠席で、有休が沢山残ってるから。」私は笑顔で応える。
真一郎は私の言葉を聞き笑顔を見て、安堵の表情を浮かべ、
少し躊躇う表情で私の瞳の奥を見つめ、言葉を選びながら
「優子さん、実は君にお願いしたい事があるのだけど、僕の願いを聞いてくれませんか?」
「は?突然何?喋る言葉も敬語になって。」私は戸惑

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イグアナ2

コーヒーのイグアナの絵にすっかり圧倒させられ、飲むのが勿体なくてずっと眺めていると、
「早く飲まないと冷めちゃうよ。」顔をあげると、真一郎が笑顔で私を見つめる。彼はと言えば、もう半分パフェを食べ終えていた。
「だって、あまりに巧妙な絵なので見とれちゃって。」一口すする。コーヒーのほろ苦い味とミルクのまろやかさが心を満たしていく。

「ここ凄いね。」私は店の中をぐるっと見渡す。ケージの中に蛇やトカゲ

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イグアナ1

あの非常事態宣言が、全国的に解除になり半年が過ぎた。
街もすっかり落ち着きを取り戻し、季節は、夏から晩秋へとうつろい、街路樹の銀杏も黄金色に染まって、時折冷たい風がすーっとコートを羽織った体をすり抜けていく。半年前は、ほとんどの人がマスクをして外を往来していたが、今、あの頃がなかったかのように、共に笑い合い歩く人、スマホを片手に営業に向かうひと。
ごく普通の平日の午後。
私はスマホで、時間を確認す

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