イグアナ1

あの非常事態宣言が、全国的に解除になり半年が過ぎた。
街もすっかり落ち着きを取り戻し、季節は、夏から晩秋へとうつろい、街路樹の銀杏も黄金色に染まって、時折冷たい風がすーっとコートを羽織った体をすり抜けていく。半年前は、ほとんどの人がマスクをして外を往来していたが、今、あの頃がなかったかのように、共に笑い合い歩く人、スマホを片手に営業に向かうひと。
ごく普通の平日の午後。
私はスマホで、時間を確認する。
約束の時間まで後10分。少し駆け足で約束の場所に急ぐ。
銀杏並木通りを脇道に折れ、裏側の通りに入る。確かこの辺、目を凝らした先にカフェの看板が見えた。
方向音痴の私はホッと胸を撫で下ろした。看板を目当てにどんどん歩く。
「爬虫類カフェ ネバーランド」

やっと来れた。そしてやっとあの人に会える。
私は逸る気持ちを抑え、静かにドアを開け、カフェの中へ入って行った。「いらっしゃいませ!」若い男性店員が静かに挨拶する。私は会釈し、
奥の席に目を向けた。グリーンのセーターに、黄色のスニーカー。
顔は知らない。名前は、真一郎。
後ろ姿がそれらしく見えたので、私は近づいていく。口から心臓がとび出そうなくらい緊張しながら、
「あのぉ、LINEチャットの真一郎さんですか?」聡明な瞳が私を見つめる。
「そうです。もしかして優子さん?
」まっすぐな瞳に緊張しながら、「はい!優子です。はじめまして。って言うのも変ですけど、やっぱり初めて顔を合わせるので、はじめましてですね。 」
そこに店員が注文を取りに来る。
「とりあえず、すわりましょう。優子さん何を頼みます?僕は、カメレオンパフェ。」
優子はメニューを見てどれも想像のつかない名前に戸惑ったが、
「じゃ私、イグアナコーヒー。」
どちらも奇妙な名前だった。が、普通にフルーツパフェとコーヒーだった。パフェにはカメレオンの形をしためろんが、コーヒーには、イグアナのリアルな絵が描かれていた。

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今はまだ修行中の身ですが、いつの日か本にしたいという夢を持っています。まだまだ未熟な文章ですがサポートして頂けたら嬉しいです。