イグアナ7

携帯アラームはいつも通り6時に鳴った。
ソファーの真一郎は毛布を顔まで被り、まだ眠っている。
また昨夜も寝ながら、爬虫類の話で盛り上がった。外はまだ暗い。エアコンをつけて、彼が眠っている間に、サーっと着替えを済ませ、キッチンに立つ。牛乳と卵をまぜ、そこに固くなったトーストを浸した。
コーヒーメーカーに豆と水をセットしてスイッチオン。朝は「グアテマラ」酸味とフルーツのような香りの上にコクがある。
フライパンにバターを敷き、浸したトーストを弱火でゆっくり焦げ目が着くまで焼いた。
「おはよう!早いね。」
いつの間にか真一郎は、横に立っていた。
「毎朝きちんとご飯食べてるんだ。一人暮らしなのに感心する。」
「実家にいるときからの習慣よ。まぁ実家にいる時は母が作ってくれてたけどさ。さぁ早く食べて出かけないと、ラッシュアワーに重なっちゃう!」
テーブルに、コーヒーと、フレンチトーストを運ぶ。
「真一郎さんも今日から仕事探しだよね。ハローワークは、9時からだし、もう少しゆっくりしててもいいよ。」
あっそうそう!思い出したように、私は鞄の中をまさぐり、「これ!ここの鍵。私も帰りが遅くなるかもしれないし、一応渡しとくね。」

7時半。パンプスを履いて、ドアを開ける。
「真一郎さん、みどりさんに、ご飯あげてね!じゃお互い頑張ろう!」ガッツポーズをして外に出ると冷たい風が、顔を触れて通り抜ける。コートの襟を首まであげて、足速に駅へと向かった。もうマフラーがいるなぁ。師走への足音が聞こえてきそうだった。

会社の自分のデスクに座り、パソコンのスイッチを入れる。働き出して5年。女子の中では古株だ。
始業間際に、隣のデスクに2年下の後輩が座った。
「はぁ!ギリギリセーフ!」彼女は息を切らしていた、
「さくらちゃん、なんでいつも遅刻しそうなくらいギリギリに来るかなぁ。」ついつい先輩面を出してしまう。
「だって、お化粧やら、朝シャンやら
してると、時間なくなってしまうんですね。はあ〜お腹空いた!」
毎朝同じ会話に、私はうんざりしていた。最近の娘は、朝ごはんより朝シャンが大切なのだ。そう考えたら、私もまだ23.なのに何故、こんなにババくさいこといって、一人クスッと笑う。
「先輩!また一人笑ってる。最近なにかいい事ありました?すんごい嬉しそう。」キラキラした瞳が私を見つめる。私はパソコンの画面に向いて作業を始めながら、「うーんあると言えばあるし、ないと言えばない。」さくらは肩をすくめて作業を始めながら、
「意味不明!」とつぶやく。

今日は、定時に帰れそうだ。駅の近くの激安スーパーに寄ろうと心の中で思った。
昼休みは、コンビニで買ったサンドイッチとコーヒーで済ますのが習慣だ。ほかの女子達はランチを食べにわざわざ外に行く。初めは私もその中に混ざっていた。が、しかし、ミーハーな話にうんざりして、今はいつもデスクで一人ランチを食べる。
その時、スマホのお知らせブザーが鳴った。母からLINE。

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今はまだ修行中の身ですが、いつの日か本にしたいという夢を持っています。まだまだ未熟な文章ですがサポートして頂けたら嬉しいです。