最後の恋ー続編

「なんでなん?なんで私が母親の結婚式のバージンロード歩かなアカンのさぁ!」

結婚式の前日の夜である。優子は、吉田との結婚には反対しなかった。むしろ、あんな素敵な人に出会えた母が羨ましい程だ。

「もう何度も話し合ったやろ!私の家族は、あんただけや。まさか父親を天国から呼ぶ訳にも行かへん。」
優子の祖父母はもう既にこの世に居ない。優子が3歳の時祖母が病死。祖父は、1人で田舎で暮らしていたが、畑仕事を終えて、トラックに乗り、帰路に着く途中、狭い道路の手前から来る車と正面衝突。頭を強く打ち、即死していた。翌朝の地方紙に小さく記事が載った。この時母は、人生は儚さを知ったのだ。
だから、突拍子のない行動に出るのだ。
吉田との結婚だって、いつの間にか話はトントン拍子に進んで…吉田の家族も、彼の母に対する熱意に勝てなかったらしい。

「もうバージンやないんやから、1人で吉田くんのもとに歩んで行けばいいやん!」
やはり優子は、同級生が父親というのは納得が行かないらしい。

「卓くんの事を父親だなんて思わなくていい!おかんの旦那やて思ってくれたらいい。優子の父さんは優子の心の中に居てる人だけやからな。ただ一緒にあんたと、バージンロード歩きたい。だって、あんたがたった一人の家族やから。」
母の目が遠いところを見つめていた。きっと父親と歩いたバージンロードを思い出していたのだろ。

「ねぇお母さん。私のお父さんのどこが良くて結婚したん?」

母は、回想から我に返った顔を優子に向けた。同時に暖かな笑みを浮かべる。
「あんたのお父さんは、お日様のような人やった。私昔はな、こんなに体元気やなくて、病院を行ったり来たりしてた。ちょっと良くなったら退院し、またすぐ体調を崩すの繰り返し。お父さんと初めて会ったのは病院の売店やった。丁度真夏で、私アイスを買いにいってた、私の横でお父さんは、お見舞いに花を買ってた。小さいサイズの花束を笑顔で受け取り売店を出て行ったわ。」母の目が更に遠くを見つめる。
「私は、買ったソフトクリーム型のアイスを片手に店を出た。その時な、予期せぬ出来事が起きてん。私はアイスを片手に持って足を滑らせて転んだ。」いつものおっちょこちょいでドジで不器用な母は、昔からだった。
優子は
その光景を想像し、クスッと笑う、
「お母さん、今も昔も変わらんなぁ。」優子を睨み、更に遠くを見つめる。
「その時な、大丈夫?って私の腕を掴んで起こしてくれたん。せっかく買った花束を放り投げて、アイスまで拾ってくれた。私は申し訳なくて平謝りした。花束より人の命の方が大事です。もうその言葉に惚れてしもた。」
惚れやすいのも今も変わらず。「でな、その後通院の日に必ず会うようになった。」
それはそのはず父はその病院の看護師だった。偶然というより必然と言った方がいいだろう。
「お父さんは、患者さんの人気者やったよ。いつもお日様のような笑顔で患者さんに接していた。だけど自分の体の病気には無頓着やった。癌と分かった時には手遅れで…」
その後しばらく静寂な空気が流れた。

「お父さんは、死んでしもたけど、私には宝物が残された。それがあんたや!」
「だからこそあんたとバージンロード歩きたい!」
優子の目にも暖かな涙が流れた。

「さぁ!行くで。」
教会のドアは開かれた。
母娘1歩1歩バージンロードをならんで進む。拍手とおめでとうの連呼を聴きながら!

今はまだ修行中の身ですが、いつの日か本にしたいという夢を持っています。まだまだ未熟な文章ですがサポートして頂けたら嬉しいです。