イグアナ6

コーヒーの香りで目を覚ます。鼻先でこれはマンデリンだなとおもう。少し苦味とコクがあるが、ハーブのような香りが脳内細胞を目覚めさせる。
私はベッドから起き上がり、時計を見る。午後4時をとっくに回っていた。隣のキッチンで誰かがコーヒーを入れている。寝ぼけて回らない頭をフル回転させた。そうだ、明け方まで真一郎と爬虫類の話で盛り上がり、いつの間にか眠ってしまったのだった。

私が、起きたのに気付いた真一郎は、遠慮がちに、
「勝手にキッチン使わせてもらったよ。それから食材も借りたよ。後で返すね。みどりさんに、リンゴとレタスももらったよ。しかし、優子さん、本当にコーヒー通なんだ!こんなに沢山の豆の種類普通持ってないよ!」
感心したかおで私を見ると、「簡単に食事作ったから、食べよう。」
テーブルに淹れたてのコーヒーと、プチトマト入りスクランブルエッグ。それにフライパンで焼いたというミルクパン。
「凄い!テレビドラマに出てきそうなご飯!」私は感嘆の叫びをあげた。
「こんなの誰でも出来るよ。とにかく冷めないうちに食べよう。」

どれも美味しかった。ミルクパンがコーヒーによく合う。思わず笑みが溢れる。
「優子さんって食べてる時幸せそうだね。爬虫類の話をしてる時と同じくらいいい顔するね。」
「だって、本当に美味しいんだもん。ね!みどりさん!」私の膝の上に乗せたみどりさん。本当に幸せな時間が流れる。

「でも、よくこんなもの作れるね!寮ってご飯付きでしょ?」素朴な疑問をぶつける。

「僕の実家さぁ、田舎でカフェ営んでるんだ。僕は子供の頃からそこで親父が作るものを見てたの。レシピなんて教えて貰ってないけどね笑。見よう見まねで頭にインプットしたの。」
私はまたまた感嘆の叫びをあげた。

「お父さんの後を継がなかったの?」
「若い時は、1度は都会に出たいもんでしょ?」
それを聞いてクスッと笑う。
「若いって真一郎さんまだ24じゃん!うちは母子家庭だからさ、高校でたら、働こうって決めてたけどさ。」

母の顔がふと頭に浮かんだ。
しばらくの静寂のあと、イグアナを真一郎に渡し、テーブルを片付ける。

明日に備えて、しっかり準備しようと
真一郎に入浴を勧めた。本当に恐縮した姿に人の良さを感じさせる。
明日は、1週間の始まり。入浴してる真一郎を気にしながら、1人拳を振り上げた。

今はまだ修行中の身ですが、いつの日か本にしたいという夢を持っています。まだまだ未熟な文章ですがサポートして頂けたら嬉しいです。