イグアナ8

母からのLINEはいつも単純明快なものだ。多分スマホを使いこなせないから、短文で済ます。
「妊娠した」
マジか!とおもうが、男女二人同じ屋根の下。歳は離れていても夫婦だ。
当然の成り行きだろう。私はその場で母に電話をかけた。

「優子、LINE見た?」声がどことなく不安そうだ。
「どうしたん?もう吉田くんに話したか?」少し間が空いて、
「まだや!だって、あまりにびっくりして、どう言えばいいか分からん。」
「優子吉田くんに、話してくれんか?
」私は呆れてしまって言う言葉を失った。が、一言、「こんな大事なことは自分で言わなあかん。夫婦やろ?」母と話していて、何だか可笑しくなった。母娘立場が逆転してるみたいだ。

長い沈黙の後、「分かった。ところであんた元気なん ?家出てから、1度も顔見せてくれへんなぁ。卓くんも心配してるで」
「私なら、げんきや。ちゃんと自炊もしてるし、仕事にも行ってる。私の事より自分の身体の心配しぃ!」
「いつの間にか大人になってもたなぁ。もう23か。来月は、あんたの誕生日やなぁ。」あっそうやった。今年は色々あって自分の誕生日なんて気に止めてなかった事に気がつく。
「あ!」思わず声を出し、周りに誰もいないことを確認した。「何?」訝しげに聞く母。
「なんでもない!自分の誕生日忘れてたから。」
口早に答える。「誕生日プレゼント用意しとくから、家に顔だし。」
「予定がなかったらな。」そう言うと先に電話を切った。

静寂の中考える。「確か真一郎も24歳だった。」早生まれでない限り、同級生ということだ。この偶然に何故か胸がドキッとした。
しかし、母と来たら…
若しかすると四半世紀離れた兄弟が出来るかもしれない。その時は素直に、誕生を喜ぼう。

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今はまだ修行中の身ですが、いつの日か本にしたいという夢を持っています。まだまだ未熟な文章ですがサポートして頂けたら嬉しいです。