イグアナ2

コーヒーのイグアナの絵にすっかり圧倒させられ、飲むのが勿体なくてずっと眺めていると、
「早く飲まないと冷めちゃうよ。」顔をあげると、真一郎が笑顔で私を見つめる。彼はと言えば、もう半分パフェを食べ終えていた。
「だって、あまりに巧妙な絵なので見とれちゃって。」一口すする。コーヒーのほろ苦い味とミルクのまろやかさが心を満たしていく。

「ここ凄いね。」私は店の中をぐるっと見渡す。ケージの中に蛇やトカゲ、イグアナ、カメレオン、
「だろ?僕は、よく一人で来るんだ。こうして友達と来ることなんてないよ。店員さんに頼めばケージから出して触らせてくれる。僕の息抜きの場所だ。優子さんだけ教えたんだよ。」ハニカムように上目遣いで話す真一郎。
「秘密の場所。私なんかに教えていいの?私友達に喋るかもしれないよ。

「優子さん、爬虫類が好きだってこと友達には内緒にしてるって、言ってたじゃん。」
そうなのだ。私は高校生時代の事がトラウマになり、本来の自分を隠してくらしていた。
高校を卒業して、すぐに就職した。服飾会社の事務。半年前に、服を縫う工場に助っ人として配置転換させられ、毎日何百枚もの布マスクを縫う仕事。単調な作業だが、集中力を要する仕事だった。

母は、そんな苦しい日々を送る私を知ってか知らないのか。突然、婚約者を連れてきた。
婚約者は、わたしが高校時代共に過ごした同級生。突飛な行動に驚きと呆れが共にあわさった。しかし、母は、まっしぐらに、彼に飛び込み、今、二人は幸せの絶頂にある。私は、母の結婚と同時に、一人暮らしを始めた。会社から電車で40分。少しはなれているが、都心から少し遠ざかるだけで、畑が目に付く。夏にはトマトやナスが実っていた。
私のアパートは、その畑のあるところからほど近い。木造二階建て。バストイレつきの1K。一人で暮らすには充分な広さだ。
隣に住むおばさんはとてもしんせつだった。時々夕食に煮物のおすそ分けをくれた。
毎朝会社に出勤し、夕方に帰宅する。寄り道もほとんどしない。まだコロナのウイルスがその辺に居そうで不安だったのも確かだ。
そんな私の楽しみは、夜、LINEのオープンチャットをすることだった。
オープンチャットはそれぞれ趣味の合う仲間が集う場だ。
私は「爬虫類大好き」というところで、楽しいヒトトキを過ごした。最初は、6人いた仲間が、日に日に減った。結局残ったのは二人。
少し寂しい思いがしたが、やはり爬虫類ネタはマイナーなのだ。
それでもまだ二人残っている。
そのうち1度オフ会しようということになった。

そして今、二人きりのオフ会の最中なのだ。

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今はまだ修行中の身ですが、いつの日か本にしたいという夢を持っています。まだまだ未熟な文章ですがサポートして頂けたら嬉しいです。