本棚ああ

雑多なことを書いています。読んでくれると嬉しいです!

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最近の記事

過ぎてゆく

 過ぎてゆくもの、月日。  今年ももう5月。ついこの間まで張り詰めていた寒さはどこにもいなくなって、いつの間にかに黄色と緑の季節がやってきていた。だれかの手に握られた砂時計の一粒の煌めきは、もうじき斜陽のラジオの側にそっと置かれるようだった。  過ぎてゆくもの、草木。  線になる。においもわからないまま横切る自然。私の声に風を伝って応えてくれているようで、一枚のガラス越しにはなにも伝わってはいなかった。燕の低空飛行とともに夕立が来る。  過ぎてゆくもの、人々。  泡のようだ。

    • 自分について

       私は自分のことがよくわからない。私は確かに他のヒトと同じヒトという種族の一個体らしいのだけど、イマイチその実感がわかないのだ。  私を私たらしめるものは神経の伝達だと思っていて、つまり私の身体を私が操作できるという状態が、私は私であるということだと思うのだ。当然、目の前のあなたのことを意のままに操ることはできないし、誰かの声に操られることもないので、この定義で十分であると思うのだが。しかし、神経の伝達を定義にしてしまうと、今度は私を私たらしめるのは意識ではないのかという疑問

      •  全ての物質には必ず限りがある。私の使っている消しゴムは筆記用具入れから出し入れされるたびに少しずつ、しかし確実にその身体を燃焼させ、やがては砂場の砂の一粒になり消えてしまう。家の電子レンジは冷凍食品を温め続け、時が経つにつれてボタンの接触や出力が悪くなっていき、やがては新品と取って替わりその役目を終える。私の身体は細胞分裂を繰り返しながら細胞ごとの生涯を繰り返し、しかし同時に劣化しながら老い、やがて神経の伝達の終焉とともに動かなくなる。原子は質量に決められたふるまいをしつつ

        • いずれ醒める夢

           迷路を抜けたら悪夢から抜け出せると思ってた。でも現実は甘くなかった。迷路を抜けた先は更に大きい迷路だったのだ。  はじめのうちは楽しかった。右や左やと選ぶ楽しさがあったのだ。童心に帰ったような、心の奥にキラキラと光るものを埃の中に見たときは、自分が生きている人間だということを久々に認識できた気がして嬉しかった。そう、たしかに嬉しかったはずだった。  しかしその心躍るイベントも、長く続けばやがて飽きが来るのは必然だった。心の中で光ってたものは再び輝きを失い、フィラメントの切れ

          俗世

           「お坊さんの言うことは絶対です。」  雨でややインクが滲みてしまっている貼り紙にはそう書かれている。しかし、「絶対」とはなんだ。例えば船上で船長の命令が絶対であったり、機上で機長の命令が絶対であるというのはわかる。どちらの場合も船長や機長が乗客員の命を預かっているわけだし、そのことに敬意を表して我々はその人の命令に従って動かなければならない。ではお坊さんはどのような理由でその一言を絶対とするのか。一体彼は誰の命を預かっているというのか。まさか寺がそのまま浮き上がって空や海を

          tetsuya

           眠れないのはいつものことだった。他人の寝言の隣でこっそりと恨み言を言ったり、東京湾の中心でおぼれるふりをしたり、一晩のうちに数えきれないやんちゃをして、きっと透明人間にこっぴどく怒られてしまったせいか、目は潤み充血し、鼻では鼻水を啜っていた。一日のループ、一週間のループ、一年のループのことを考えると、やはり宇宙はループの中に存在していると考えるのが自然なのではと思い、つまりは自分の幸せや不幸せが所詮ループの一環で複製されうるものであるという結論に達したとき、私の眼の中にある

          暇と余白

           時間に追われているとき、私は次の余白のことばかり考える。カレンダーに何も書かれていない日、インクの染みたにおいとは無縁の日、四角に区切られたその数字の部屋にはけっして誰も踏み入れることができない。しかし、いざその聖域に踏み入れると、清純で清潔であるその日は一秒一秒齧られていって、気付けば少なくなり、無くなり、日を跨ぐ頃には落胆を首からぶら下げている自分が鏡にうつる。だが落胆こそが日々の事実だ。焦燥こそが事実を見ている証拠だ。ゾワゾワと身体に広がる不快感は正しく私が今を生きて

          りーちゃん

          「風がさ、僕の中に入って抜けるようなさ、そんな感覚が好きなんだ。」  りーちゃんは不意にそんなことを言っていた。もしかして心の声のつもりがうっかり口の先を突いて出てきてしまったのか。りーちゃんは少し間を置いてからちらっとこっちを見て、すぐに視線を逸した。  りーちゃんはいつも元気で、生まれてこのかた悩みというものをわずらったことがないのではと皆が疑うほどに、その快活さはたしかに冬の寒さを和らげていた。りーちゃんと知り合ったのは10年も前か、小学1年の4月、僕の右斜め前がりーち

          りーちゃん

          変態

           棒線を超えた先、そう、あの島が見えるあたりか。あそこから、僕たちは生まれた。幼い頃、記憶が曖昧な頃に僕たちは仕方なく、あの島を捨てることにした。ここにやってきたときの、忘れもしない、ぬかるみが足を取る感覚をつぶさに思い出し身震いする。たしかにあれは怖かった。たしかに、あれは思い出したくない出来事だった。でも、その恐怖から、僕たちの体はできていることも、逃れられない事実だった。血の赤は恐怖の赤。黒目は恐怖の黒。メイクは恐怖の青。木が地面に根をつけながら風に身体を持っていかれて

          あけおめ

           あけましておめでとうございます。年越しはSASUKE公式のクリフハンガーの動画を見ていました。昔のクリフハンガーから今のクリフハンガーへの魔改造っぷりに驚かされるとともに、セットの進化についていく挑戦者たちの成長っぷりに改めて感心しました。昔の挑戦者たちを見ると、今より筋肉隆々というか、いかにも重そうな人たちが多くて、たしかにクリフハンガーに苦戦しそうだなあという感想が。というより、最近の挑戦者たちはクリフハンガーに適応すべく小柄になっている気がします。SASUKEのFIN

          土手にたなびく草の光の反射、その周りに乱雑に添えられた花の鈍いカラフルに、三途の川も実際はこんなものかと思ってしまった。

          土手にたなびく草の光の反射、その周りに乱雑に添えられた花の鈍いカラフルに、三途の川も実際はこんなものかと思ってしまった。

          センベェ

           「柔らかいお菓子ばっか食べてたら歯が無くなるよ。今の若い子はせんべいとか食べないのかね。」  バス停の待ち行列、前のおばあさんが虚空に向けてそう話していた。手には個包装されたままのせんべいが握られていた。少し様子がおかしいさまを一歩くらい引いて眺めていたら、おばあさんは手に握っていたせんべいの封を開け、バリボリと齧り始めた。  「入れ歯だとね、固いものをうまく噛めないのよ。お前にはそうなってほしくないからこんなに忠告してるんだ。」  たしかに、食べづらそうに噛んでいるし、口

          パソコン

           カタカタ音を鳴らすたび、キーボードの凹凸の砂丘を指でなぞるたび、僕は目の前にある光るディスプレイと一生懸命にらめっこをしては、少し吹き出しそうになったり、逆に大声で叫びだしたり、そういうように、一人で芝居をしながら、身体を床に寝そべらせながら、解決困難な問題を、誰かに聞いてしまえばすぐに解決しそうなその問題を、宇宙のどこかに飛ばすためのロケットを、数式の隣にこっそりと忍ばせておくのだ。

          エニアグラム

           エニアグラムというものをやってみた。エニアグラムとは、90個の項目をチェックしていって、そこからあなたの性格や人となりを導くという、診断テストの少しちゃんとしたバージョンみたいなやつです。で、診断結果はというと…夢見る人(9w1)!特徴全部当たっててすごいってなった。見透かされてますね。でも、ド内向的な人はだいたいこれになるんじゃないかなって感じがした。noteを日記代わりにしてる人とかこれの人多そう?なんかこういう診断テストって何度もやっちゃうんですよね。で、何度も同じ結

          エニアグラム

          賽子

           この世界は賽子でできているらしい。顕微鏡を覗けばすべての細胞は賽子でできてることがわかるし、その賽子を構成する原子の中の陽子や中性子も一つ一つのが賽子であることも確認できる。そして人々が日々振り回される偶然というものは実はこの賽子によって引き起こされる。今日の天気が優れないのも、なんとなくイライラしてしまうのも、多くの人がこれまで隕石に当たらずに済んだのも、恐竜が絶滅したのも、月が出来たのも、太陽から地球が生まれたのも、宇宙の誕生ですら賽子の出目によって決められたというのだ

          表現の幅

           文章を書いていると、たまに、というか、かなりの頻度で、この表現前にも使ったなと思うことがある。たしかに同じ人が同じような文章を書くのだから、表現が似てしまうのは致し方ないことなのだが、それにしても同じような表現を多用しているようでは、表現力というものは育まれないし、なによりコピーアンドペーストではないかと他人からツッコミを入れられるのは癪である。  ならば努力というものをしてみるか?でも、どうやって。普段使うような表現を制限して書いてみるのが良いのかな。イワシの口先に青いイ