変態

 棒線を超えた先、そう、あの島が見えるあたりか。あそこから、僕たちは生まれた。幼い頃、記憶が曖昧な頃に僕たちは仕方なく、あの島を捨てることにした。ここにやってきたときの、忘れもしない、ぬかるみが足を取る感覚をつぶさに思い出し身震いする。たしかにあれは怖かった。たしかに、あれは思い出したくない出来事だった。でも、その恐怖から、僕たちの体はできていることも、逃れられない事実だった。血の赤は恐怖の赤。黒目は恐怖の黒。メイクは恐怖の青。木が地面に根をつけながら風に身体を持っていかれている。葉が抜け落ちる。幹に誰かがしがみついて、同化して、幹の厚皮がその誰かの身体を覆うとき、皆観念してしまったのか、それなりに生きるようになってしまった。
 思えばあのときに僕たちは生まれ、そして僕たちは死んでしまったのかな。

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