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スーツ屋で上半期店舗予算比日本1位の店になれたとき学んだこと

 予算比上半期日本1位は自分たちの中ですごく誇れるものであった。しかも、まだ新規店舗で常連のお客様もいない。そんなゼロからのスタート出会ったにもかかわらず、大きな成果を出したことに満足感があった。ちなみに、下半期は惜しくも2位でした。

 自分がはたらいていたスーツ屋(名前は伏せておきます)には、詳しくはわからないが、上半期と下半期の2期で予算が店舗の規模ごとに組まれ、予算に対してどれだけの売り上げを出せたかの予算比で全店舗比べられていた。どの店舗でも予算比100%を超えようと切磋琢磨していたのではないかと思う。自分がいた店舗は日本1を目指し、予算比100%なんて当たり前として働いていた。そんな雰囲気と結果を残せたのは、ほかでもないずば抜けた店長の存在がある。そんな店長から学んだことを3つにまとめた。それは、


①お金を得るには価値の提供が必要

②価値の提供にはインプット・アウトプットが大切

③フィードバックの速さ

である。このことの大切さを学んだ経緯と自分の経験をもとに話していきたいと思う。本でもよくこれと同じことがかかれていたりするが、実際に経験すると改めて大切なことなんだなと気が付かせてくれた。


1.スーツ屋でアルバイトとして働いた経緯

 大学2年生の冬、バイト探しをするため情報雑誌ドーモでよさげなバイトに10件電話を掛けた。とくにこの仕事をしたいという思いはなかったので、なんでもいいから稼げるバイトをしたかった。

 しかし、折り返し電話がかかってきたのは1件のみ。それが、スーツ屋だった。はじめ電話がかかってきて、「○○株式会社ですが、求人サイトでの応募ありがとうございました。早速ですが、面接は何日にいたしますか?」といわれたが、10件もの会社名を覚えているわけないし、そもそもどんな仕事なのかも気にもしていない。だから咄嗟に「何の会社ですか?どんな仕事内容ですか?」と聞いてしまった。求人サイト見ろよ!って話(笑)

 担当者から「スーツの販売です」といわれたとき、「スーツ!?そんなん応募したっけか?」と思わず口走ってしまいそうだったが、まーよくわからないけどいいかーと気楽に受けてしまった。これが、スーツ屋ではたらくきっかけになった。働きたいから働いたのではなく、なんとなく、運で決めたみたいな感じだった。

 決まったからにはやろうと思い、それまで無知であったスーツの販売をすることになった。

2.店長の存在

 見るからに怖い。見た目はヤ〇ザのようないで立ち。185cmの長身、バチバチに巻いたパーマ。ぎょろっとした目力のある目。スーツはオーダーばかりでジャケットもスラックスもピチピチ。スラックスの丈は短い。やばい店長だ...と感じたし、こんなスーツの着こなしがあるのかと衝撃を受けた1日目であった。でも、研修などはとても丁寧。新店のオープニングスタッフということもあり、事細かく確認し、ロールプレイングを通して技能や知識を獲得させていってもらった。

 いよいよ新店での販売がスタートし、順調に売り上げを伸ばしていった。主に店長、副店長が売り上げの大部分を占め、自分はほとんど売り上げに貢献できなかった。店長には怒られたりはしなかったが、「お客様にまずは声かけろ」「商品の話よりも日常的な会話でいいから話してこい」ととにかくコミュニケーションを取るように促された。正直、何話すの?となっていたが、店長の目が怖く恐る恐るコミュニケーションした記憶がある(笑)そんな日々が続き、仕事にも慣れてきたころお客様にきちんと接客らしい接客ができ始めていた。

 接客のたび店長が自分の接客の様子を観察していた。お客様との接客が終わると、店長は自分のもとに来て「なんで売れんかったんや」「コーディネートでみせたんか」など毎回のようにフィードバックされた。ぎょろっとした目で接客を見られ、そのままフィードバック・・・めちゃくちゃ怖かった。でもそのおかげで個人売上が異常に伸びた。接客の”せ”の字もわかっていなかった自分に”せ”くらいまで理解させてもらえたと思えた瞬間であった。

 その後、最近のトレンドや色味、生地感、季節感、柄の組み合わせ、サイズ感、スーツの形(約30種類)、ブランド、・・・とにかくたくさんのことを覚えさせられた。朝礼のときに1つ1つ今日打ってくものを確認し、その商品に関連する知識をインプットしていった。そして、朝礼が終わり、開店してから空いた時間があるたびに店長とコーディネートバトルをした。「マネキンに着せるものをフルコーディネートして」「このジャケットに会うように3パターンのコーディネートして」などと。それらを3分でやれと。ゲームのように遊びながら、本気で店長にセールスしまくった。しかし、一度も「買う」といってくれたことはない(笑)いつも「そんなんじゃいらんなー」「またくるよ!」みたいな感じ。くそーと思いながらまた店長によるフィードバック。その繰り返しで着実にインプットとアウトプットを繰り返し、知識とセンスを身につけていった。ロールプレイングなどを通して得たものは、そのまま接客にも生かすことができるものが多く、ロールプレイングなどのアウトプットは大切なことだなと感じることができた。

 そんな店長はもちろん売り上げを伸ばしてきながらも、1人のお客様に満足していただけるような接客を通して、「店長いませんか?」とよく指名してこられるお客様が増やしていった。「店長から買いたいんだよね」といわれるほどの接客はすごいなと思えた。中には「店長のおすすめで何でもいいからオーダースーツ作ってよ」と来た人である。このお客様は店長が違う店舗に移動になるまで毎シーズン4着ほどオーダースーツを店長から買っていかれた。

 なんでそんなにもお客様から選ばれるのか不思議だったし、うらやましくも思えた。


3.お客様にものを買っていただくということ

 直接このタイトルの「お客様にものを買っていただくということ」について店長から言われたことはない。しかし、一緒にはたらくにつれて感じることができたことがあったので自分なりの解釈と実践を踏まえて考えたことを書こうと思う。

 端的にまとめると「商品の価値や自分の提供した価値に対してお金を払ってものを買う」ということだと思う。

 商品の価値は見て判断できるものばかりではない。判断できるお客様であれば、何も言わなくとも買っていくだろう。そうでないお客様が多いからこそ、接客があり、自分の提供した価値が商品のもともとの価値に上乗せされて買いたいと思ってもらえるのではと思った。

 店長が売り上げをどんどん伸ばしていくことができていたのは、接客によって商品本来の価値を的確に伝えることができていたからではないのかと、接客を陰からのぞき見しながら感じた。お客様のニーズにこたえながらも、さらにかっこよく着ていただけるようにするためにこうしたほうがいいですよと紹介したりする姿は、とても見た目から想像できない丁寧さであった。

 自分は、ネクタイとドレスシャツに関しては、当時はたらいていた会社の製品はもちろん調べ上げ2時間は話せる知識を得た。また、比較検討されやすい4社くらいのお店にも足を運び、素材は何を使っていて、その値段帯はいくらくらいなのか、形やステッチ、柄、光沢、生地など自分の持っている見る視点すべてで比較した。そのうえで「自社のこの商品のいいところはここです」と断言できるようにした。また、自分は自分の中でこれしか売らないという商品を決めていた。自分も同じブランドの生地を身に付けて、体験を通してお客様にセールスした。「できるだけ安く抑えたいんです...」と来店された方には、もちろん最大限安い買い方で満足していただける接客をしたが、「選んでよ」や「なにかおすすめはある?」と来られたお客様には、自分の売りたい商品のみ買っていってもらった。ネクタイは1本8000円ほど、ドレスシャツは1着6000円ほど。けして安くなく、むしろ高い商品ばかりであるがみんな買っていってくれた。中には、おすすめでコーディネートで紹介した商品全部まとめて買いたいと言ってくれた人もいた。

 正直にドレスシャツに6000円は出せないなと思う人は多いのではないか。ただ陳列されているだけではほとんど売れない商品であると思う。普通は店頭にある安いドレスシャツが売れ筋なのだが、この店は高いドレスシャツが売れ筋であった。なぜか。6000円出しても安いと思えるほどの価値をお客様が感じることができたから売れ筋になっていったと思う。それだけ、接客の時には自分の知っている価値や体験の価値を提供したし、お客様も体験してさらに買っていってくれる。その商品や自分の接客にどれだけの価値があるのかで値段は後からついてくるものなのではないかとも感じた。

 ある商品を1万円で売りたいのであれば、「これが1万円だったら安すぎる!!」と思ってもらえる商品を作り、その商品のよさを伝えることができる接客を心がけることで、いくらの商品だろうが売れると思った。

 ものを売る、またはお客様がものを買うということはそういったことなんだと感じることができた。

 

4.店長の人柄で成長できる

 ここではたらきはじめて、半年が経とうとしているころには自分も売り上げに貢献できるようになってきた。自分を指名して買っていってくれるお客様もいるようになった。そこから、店長が変わるまでの1年半の間はすごく楽しく、はたらくことができた。

 店長の口癖は「はよ売れ」「(人が周りに全くいないの知ってて)なんで売らんのやて」。それだけだったら頭おかしくなりそう。見た目もやばいし...

 でも、たまに飲みに行ったりする時、自分の強みと弱みを的確に教えてくれた。「ドレスシャツであんなに話せるやつ見たことない」「ネクタイは俺よりいい接客やで任せるわ」「あの時にもう一つコーディネートもっていかないとお客様が選択することできなかったよ」など。

 店舗にいるときしか知らなかったら、絶望していたけれど、そんな店長の人柄を知っていたし、すごく信頼され期待されていたことを感じることができる機会が多くあり、店長の言葉をいい意味で真意とは思わないようになった。だってさっきまで暴言はいていたのにいい接客で売れたのを横目ににやにやしているから(笑)

 圧倒的に信頼されていたこともあって、本来なら店長が指揮をとって商品の配置をするところを、「ドレスシャツ・ネクタイコーナーは自分が売りやすいように変えていいよ」などと好きに配置させてくれた。また、「マネキンも着せ替えたのむ」といわれ、「テーマは?」と聞くと毎回決まって「おしゃれな着こなし」しか言わない。そして自分が作ったものに対してフィードバックが行われ、軽く修正する。こんなにも信頼し、任せてもらえる経験はなかなかないと思い、うれしかったし自信もついた。

 店長はおしゃれでかっこいい着こなしで売れれば何でもいいというスタンスで、そのビジョンがスタッフで共通理解できていたのがいい店舗になっていったのではないかと思った。売り上げだけで追っていくのではないのがよかった。

 だからこそ、おしゃれに関してのフィードバックは厳しかった。「その組み合わせはあり得ない」「今のトレンドなんで知らんのやて」など。そんなフィードバックを早く早くやってくれたおかげでお客様の接客の時にはきちんとしたコーディネートができたのだと思う。


5.おわりに

 店づくりや商品の見せ方などたくさんのことを学んだ。売り上げを爆発的に上げた店長は店舗規模の大きい店舗に移動になった。次の店長は刺激のない普通の店長だった。会社の指示通りのディスプレイ、コーディネートなど。それが悪いわけではないが物足りなかった。そして、その後すぐに自分もこの店舗をやめた。

 破天荒で強烈な店長からたくさんのことを学んだ。ここではたらけたことは今後にも必ず生きてくるだろう。学んだことで自分のなかで大切だなと感じたものは始めにも書いたが、

①お金を得るには価値の提供が必要

②価値の提供にはインプット・アウトプットが大切

③フィードバックの速さ

である。この3つは具体的な体験があったというより、日々はたらくなかで教え込まれ、感じさせられたものである。当たり前になっていたこと路が多かったが、今思い出すとすごい人だったなと思う。


 自分に”接客”を教えてくれた店長お世話になり、ありがとうございました。

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