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東洋と西洋が、出会う場所。 *Homo Faber n.6*

Homo Faber(ホモ・ファーベル)は、2年おきにベニスのサン・ジョルジョ・マッジョーレ島で開催される、高級工芸品の国際展示会です。今回はシリーズ6回目。

アートじゃないアート。Homo Faber n.1
未来の創造者たち。Homo Faber n.2
日本の匠と、イタリアと。Homo Faber n.3
紙は、紙にあらず。Homo Faber n.4
現代の、芸術のパトロン。 Homo Faber n.5

Porcelain Virtuosity

17世紀に造られた図書室に展示された、陶器セクション。

図書館の横長の空間を利用し、長テーブルに展示された作品は、薄暗い室内に佇みながらも、強烈な個性を放ち、訪れる人を惹きつけていました。

イギリス女性作家の作品。濃紺で絵付けされた壺や、白いカップが、押しつぶされたように、ひしゃげている。

SYON BLUE(Tamsin van Essen作)

イギリスにある豪奢なサイオン・ハウスにインスパイアされたらしい。

展示されている磁器は、コンテンポラリー作品で、斬新なものばかり。鑑賞側の、感じるままに作品と対峙し、意味合いを求めるのは、野暮かもしれない。

でも、興味が湧き、どんなお屋敷だろうと、調べてみた。

屋根が濃紺の、歴史渦巻くお屋敷でした。

時は16世紀。イギリス王ヘンリー8世は、次から次へと妻を変え、変えられた女性たちは、いくら無実を嘆願しても、死から逃れることはなかった、その舞台がこの屋敷だったのです。

ひび割れて、形を失った作品は、暴君の恐ろしさと、女性たちの哀切を表現しているように、感じてしまう。

イギリスで活躍する陶芸家、細野仁美(Hitomi Hosono) 氏の作品。

近づいて、じっくり見ると、葉や小枝のモチーフが密集していて、色がないのに、色が見えてくるような作品。

A HAWTHORN BOWL

葉っぱを拾ってきては、その形や葉脈を研究し、いくつもの型を作り、磁器に型を覆うように製作していくそうです。植物の生命を感じる作品。

同じ白い磁器でも、表現方法がまったく違う。青木克世(Katsuyo Aoki)氏の作品。パッと見は、なにかわからなくて、作品と向き合うと、1つのモチーフであることがわかり、表情が見えてくる。

LOOM V

この骸骨も素敵でした。「死を忘ることなかれ」という、メメント・モリみたい。柔らかそうな、触りなくなるような質感。

PREDICTIVE DREAM

かと思えば、こちらは、紙のように、スっとまっすぐ伸びるような磁器。長江重和(Shigekazu Nagae)氏の作品。

Shigekazu Nagae氏

ろくろを回して製作するのはなく、鋳型のような、鋳込みというものに、土を流し込んで製作されるそうです。なんて奥が深いんだろう。

友人に精神科医の先生がいて「Kin tsugi 」知ってる?と聞かれたことがある。「きんつぎ」って「金継ぎ」のこと? そうそう!

壊れたものを、接着して、金で装飾する金継ぎ技法は、傷ついた心を繋ぎ合わせて、新しい自分に生まれ変わるための、療養法として用いられているそうです。

同じコンセプトで製作されたのが、こちら。壊れたティーポット。オランダ出身でイギリスで活躍する作家の作品。

TEAPOT( Bouke De Vries)

このティーポットは、18世紀の中国製のもの。一度壊れたものを、再構築して、新しいアートとして蘇らせています。

背の低い作品のなかで、スラリと伸びる、近藤高弘(Takahiro Kondo)氏の作品。磁器じゃないみたい。

WAVE MONOLITH

独創的で、流れるような、うねるような、独特の表面の加工は、水が滴り落ちるよう。鑑賞していて、まったく飽きない。吸い込まれるように魅入りました。

イギリスや日本で活躍する陶芸家の作品が多いなぁと、歩を進めていくと、なんとも賑やかな作品現る!なんだか、このテーブルだけ、ワイワイ、キャァキャア、騒がしい声が聞こえてくる。

しかも、オトコは、裸ん坊。キッチュだ。

どこのどなたが作ったものだろうと、説明に目を落とすと、MEISSEN。人名じゃない。ドイツのマイセンなんだ。

マイセン:300年前、ヨーロッパで初めて硬質磁器を生みだしたドイツの名窯「マイセン」。名実ともに西洋白磁の頂点に君臨する名窯である。(マイセン公式HPと、Wikipediaより)

美味しそうなスイーツをつまんでは、ねえねえ、ん?なに? なんて、甘い囁きが聞こえてきそう。

テーブルには、お皿、フォーク、ナイフ、スプーン、グラス、ポット、お菓子、所狭しと置かれていて、すべてが本物みたい。シュークリームのようなお菓子の大きさは、1ミリから2ミリくらい。

名窯が、本気で遊ぶとは、こういうことなのか。こんな、おままごとセットがあったら、楽しいだろうなぁ。

図書室の最後に展示されている作品が、こちら。

THE ULTIMATE METAMORPHOSIS OF THETIS (Grégoire Scalabre)

ものすごく大きい。高さ 200 x 幅 160 x 奥行 160 cm。これ、何でできていると思いますか?



6万個の、小さな小さな磁器を、ひとつひとつ接着しているんです。

すごすぎて、もう、笑っちゃいます。

そうそう、補足すると、小さな小さな磁器は、ひとつひとつ手作業で製作されています。

圧巻でした。展示会が終わったら、これ、どうするんだろう。

見たら、すごいなぁ。と感動するけど、創り出すって大変なことだと思います。アーティストと呼ばれる人の、自由な創造性の源ってどこからくるんだろう。

紙のセクションでも、無限の可能性に、感嘆し通しでしたが、磁器にも、こんなに表現方法があるのかと、驚きです。

最後まで読んでくださり、
ありがとうございます。

Homo Faber(ホモ・ファーベル)シリーズ。
次回もつづく。

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