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【勉強会2023】フレーミングから考える情報発信の面白さ


概要

フレーミングから考える情報発信の面白さ
日時:2023年12月19日16時〜17時半
場所:アート・インクルージョン
講師:岡田彩(東北大学大学院情報科学研究科准教授・特定非営利活動法人杜の伝言板ゆるる副代表理事)
参加人数:11人

2023年度の勉強会は「フレーミングから考える情報発信の面白さ」と題して、東北大学大学院教授の岡田彩さんを講師に迎えて開催されました。本企画は二部構成になっており、前半に講義、後半にワークショップが行われました。


講義:「フレーミング」とは?

 まず、発信される「情報」の違いによって受け手の印象が変わり、そこで行動を起こすかどうかも決まる場合があるので、情報の見せ方が決定的に重要だということが語られました。別にやらなくても日常生活に特段支障のないボランティアや寄付を募るとなれば、なおさら情報によって引きつけなければいけません。そうなると、当然「情報の見せ方はどのように考えて決めていけば良いの?」という実際的な疑問が浮かんできますが、これを考えるうえで有効な概念が「フレーミング」です。

 ふつうなにか情報を発信するときは、数ある情報のなかから発信者が「自分の強調したいこと」をあらかじめ選択したうえで発信されています。ただし、そのとき自動的に「強調したいこと」以外のことは覆い隠されてしまいます。例えば、「あなたが〇〇円寄付すれば、△△人の子どもたちが食事をとることができます!」と書けば、その寄付活動によって誰に何が得られるかがはっきりと伝わりますが、その反面、そもそもなぜその子どもたちは食事をとることができていないのかといった問題の原因にあたる部分や具体的な問題の状況等の情報は抜け落ちてしまいます。情報のなかから強調したい部分を選ぶこと、他の部分を無視すること、その意識的・無意識的な操作のことをフレーミングと言います。

 フレーミングは特別なことではなく、私たちが他人に何かを伝えようとするときなどに必ず行っている操作のようです。これを最も伝えたい、だからこっちは覆い隠さざるを得ない。ひとつの出来事はものすごく複雑な多面体になっていて、すべての側面を平等に見ることはできないから、そのうちのいくつかの側面だけを「ほら、見てください!」と強調することで、相手に伝えたいことをバシッとシンプルに伝えようとするわけです。そして、今回の講話では、その情報の見せ方だと何が強調されているのか、何が覆い隠されているのか、フレーミングを意識することを通して、より効果的な情報発信の方法を探していくことが提案されていました。


ワークショップ:実際に「フレーミング」を意識して

 続いて4人程度のグループに分かれて、それぞれ「AとW POPUP STORE」の開催を案内するFacebookの投稿をつくるグループワークを行いました。

 あらかじめ用意されていた「AとW POPUP STORE」についての背景情報をもとに、投稿にどのような内容を入れるか、どのような情報を付け足すか、グループ内で話し合いました。本事業のネットワークメンバーに加え、外部からも参加者を募ったオープンな勉強会として開催したため、話し合いのなかで「そもそも店名のAとWって何のこと?」「福祉施設とクリエイターが組んだ、と書いてあるけど具体的には何をしてきたの?」という根本的な疑問も出てきました。初見のひとにはいまいち理解できない表現を、もう少し具体的に説明しなおしていく必要性を感じる、重要な視点でした。

 そうやって差し込まれた疑問に応えるかたちで、このネットワークがいま何を課題としているか、何を話し合って進めてきたか、ネットワークメンバーから情報が共有されました。またそれに応じて参加者のそれぞれから活発に意見が出たことで、意外なほど議論そのものが熱を帯びて、ついにはワークショップの目安時間をはみ出してしまいました。これは参加者の方々それぞれが、情報発信についてだけではなく、本事業における私たちの活動についても強く関心を持ってくださっていたからだと思います。

 最後に、それぞれどのようなアイデアが出たかをグループごとに発表しました。

「多様性」などのポジティブなワードを入れてみる、書籍の帯のようにファンのひとの「こういうところが好き」という声を取り入れてみる、有名人に紹介文を書いてもらう等々、様々なアイデアが飛び交いました。また、「AとW」ということばを「A to W」と捉え「なぜXとYとZが無いんだろう」と考えたグループは、「X、Y、Zのミッシングピースを埋めるのはあなた!」というユニークなコピーを提案していました。福祉はもともと、誰かにとって失われたもの(ミッシングピース)に働きかける分野ではないか、という発想から生まれたそうです。

 それらのアイデアを受けて岡田さんは、例えば「ピースを埋めるのはあなた!」というコピーを考えたグループは「あなたにはそれができる!」という自己効力感を強調するフレーミングを行っている、というように前半の講義内容に基づいて位置付けを行い、話をまとめました。

 フレーミングという概念は、自分たちの情報発信がそもそも何を発信して、何を発信していないのか、反省し、自覚するための補助線になることが分かりました。これを自覚していることで、その発信にどれくらいの効果があったのかを観察し、この伝え方だとあまりフィードバックが無かったから次はこうしてみよう、と試行を重ねることもできます。もともと「AとW」のブランディングをしていくうえで企画されましたが、福祉事業所やクリエイターそれぞれの広報活動にも参考になるような勉強会になりました。

 岡田さんは、情報発信を自覚的に行うことを「腹をくくる」ことと表現していました。何をはっきりと伝えていくか、ぐらぐらと決めかねたままで広報を行っていくのではなく、強調点を明確に意識して、逆にそれ以外の部分は潔く切り捨てる覚悟をもつこと。勉強会後、ネットワークメンバーは「腹をくくるということばにハッとした。AとWのブランディングについての議論のなかで、福祉というワードを表に出すのか・出さないのかという問題が浮上したが、これをそのままにせず、潔くどちらかに定めて発信していくことが必要なのかもしれない。その一方で、選ばれなかった情報のほうを求めているひとだっているのではないか、とやっぱり腹をくくりきれない自分もいる。手前のところでは腹をくくった情報発信をしつつも、もう少し深く興味を持ったひとがアクセスできるように他の情報もしっかりと用意しておきたい」と感想を話していました。


(文章・写真:高倉悠樹)

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