ai小説星の降る音
真夜中、窓辺に立つ私の耳に、かすかな音が届く。
降り注ぐ星たちの囁きのような、儚く美しい音色。
でも、その音さえも、心に届かない。
高校を卒業して半年。
音楽への情熱を失い、ピアノに触れることもなくなった私。
かつては希望に満ちていた未来が、今は霧に包まれている。
「琴音、おやすみ」
父の声が階段から聞こえる。
返事をする代わりに、ため息をつく。
朝。目覚めると、枕元に一枚の古びた写真が置かれていた。
幼い頃の私が、祖父とピアノを弾いている姿。
懐かしさと後悔が、胸を刺す。
「行ってきます」
久しぶりに発した言葉に、自分でも驚く。
公園のベンチに座り、空を見上げる。
「きれいな日だね」
隣に座った少女が、車椅子に乗ったまま微笑む。
「うん...」
かすれた声で答える。
「ねえ、聞こえる?風の中の音楽」
少女は目を閉じ、耳を澄ます。
「私ね、歩けないけど、音楽を聴くと、心が踊るの」
彼女の言葉に、胸の奥で何かが震えた。
音楽の持つ力。それを忘れていた。
その日から、少しずつ変わり始めた。
地下室に眠るピアノのカバーを取る。
ほこりをかぶった鍵盤に、おそるおそる指を置く。
最初は固く閉ざされていた心が、音符とともに解けていく。
涙とともに、失われていた感情が蘇る。
夏の終わり、海辺でピアノを弾く。
波の音に合わせ、即興で曲を紡ぎ出す。
「琴音、素敵...」
隣で聴いていた母が、涙ぐむ。
秋、音楽教室の扉を開く。
生徒たちの前で弾き始めると、魂が躍動するのを感じた。
彼らの目が輝き、その瞳に自分の姿を見る。
冬の夜、作曲した曲を聴き返す。
星空の下、雪が舞い散る風景を音符に変えた曲。
そこには、過去の私と、未来の私の調べが融合していた。
春。
コンサートホールのステージに立つ。
客席には、家族や友人、そして車椅子の少女の姿。
深呼吸をして、鍵盤に指を置く。
そして、奏で始める。
一音一音が、失われていた色を取り戻す。
悲しみも喜びも、すべてが音楽という虹となって広がる。
最後の音が響き渡ったとき、
会場は静寂に包まれ、やがて大きな拍手が沸き起こった。
ステージを降りると、少女が近づいてきた。
「琴音さん、聞こえた...星の降る音が」
その瞬間、心の中で大きな和音が鳴り響いた。
私は、再び音楽を愛する勇気を持てたのだ。
散り散りになっていた私の音符たちが、
ようやく一つの曲を奏で始めた。
それは、新しい私のシンフォニーの始まりだった。
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