シガツハツカ

サークルKURAMASHI文章の人 イラストは相方の貴君

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最近の記事

無職でも腹は減るなり

無色、CMにつられる、の巻。 「うまそうだなあ。」 いつもの喫茶店でだらけていると、店内のテレビから流れてきたCMに向かって無職が呟いた。ケンタッキーのCMだ。有名な女優が辛いチキンを辛そうに食べている。 「KFCか。この辺りにあったかな。」 携帯で調べると駅の近くに印がついた。 「今から行くかい。」 「うーん、まずいなあ。」 「うまかったり、まずかったり、一体どうした。金かい。」 「金ならあるよ。手当が入ったからね。」 「なら帰りがけにでも寄ればいい。何が問題だ。」 「

    • 無職でも腹は減るなり

      無職、道を見失う。の巻 働いていた頃の無職には、確かに目標があったという。 しかし午睡の間にそれが無くなってしまったと、近頃の無職は嘆いている。 「まるで蜃気楼にでも化かされていたようだよ。」 と無職は語る。ますます声が細くなったように思える。 「昨日は図書館へ行った。世間は休日だったので周りで中学生が試験勉強をしていた。学校で支給されるドリルをこなしていればある程度の合格点が貰えるあの行事だ。あの頃は何時間でも何かに集中することが出来た。今や四半刻が限界だ。これが老

      • 無職でも腹は減るなり

        無職、実家へ帰る。の巻 社畜が無職になったのは去る夏のことだった。28才だった。 「このままではコロナより先に鬱で死ぬ、働き続けたら弊社に殺される」と再三のたまわっていた社畜は、年度始めに退職届を提出しその夏の終わりに晴れて無職となった。 社宅を追い出された元・社畜は逃げるように横浜市を去り故郷へと帰った。4年半社畜として見事に心身を壊した無職を咎める者は誰もいなかった。まるで帰還兵を迎えるかのようだった。無職は、長年ろくに帰省しなかったのにも関わらず、まだ自室が存在して

        • 先人の描いた夢

           道路はチューブ状になり、その中をタイヤの無い道路が走っている。人間は乗っているだけで、運転はコンピューターの仕事だ。歩道は屋根のついたコンベアーとなっており、人類はまた、歩く機会を失った。自動車と人間の往く道は交差しないため、交通事故は皆無となり、また過去に懸念されていた、自動車による環境への悪影響も、科学技術の発達により大幅になくなった。石油はとうの昔に枯渇していたが、かろうじて再生可能エネルギーの開発の方が早かった。今では清潔で、無尽蔵に利用できるエネルギーが主に使われ

        無職でも腹は減るなり

          20200807 創作とラジオ

          せっせとラジオにメッセージを投稿し始めて数ヶ月になる。「ハガキの投稿」と言わなくなったことに時代の変化を感じる反面、頻繁に投稿する人達のことは今でも「ハガキ職人」と呼ぶため、この世には変わるものと変わらないものがあるのだと不思議な気持ちになる。 好んで聴いているのは主にTBSラジオと、ニッポン放送を少し。TBSラジオの番組は雰囲気が柔らかい気がするので、いつも疲れている自分にはちょうどいい。知的好奇心も突っついてくれるので、ラジオを聴き始めてから本を買う量が倍になったことは

          20200807 創作とラジオ

          予言者

           エイチ氏がある日、会社から自宅へ帰っていると、目の前の道がぼうっと白く光り、中から白髪に白い髭を蓄えた仙人のような老人が現れました。エイチ氏が驚いて何者か、と尋ねると、仙人は答えました。  「私は遠い未来からやってきた予言者である。貴君の知りたいことをなんでも教えてやろう。」  エイチ氏の目は輝きました。何しろこのエイチ氏は、新しいものに目が無かったのです。こんなところで立ち話もなんですから、ぜひ我が家でゆっくりと話を聞かせてほしい。そうエイチ氏が頼み込むと、予言者を名乗

          注意書き

          注意書き  日用品を買うために、ふらりと近所の大型総合スーパーへと立ち寄った。体を洗う石鹸を切らしてしまっていたのだ。入口を入ってすぐのエスカレーターで二階へと向かい、目当ての品を探す。道中、こちらへ面を向け規則正しく並んでいる洗濯洗剤や掃除用具などと目を合わせながら、お前は足りている、そういえばお前はそろそろ無くなりそうだ、ついでに買って行くか・・・などと頭の中でぶつぶつと唱えていた。  ふと、とあるシャンプーと目が合った。普段使っているものに比べて少々値が張るので、今ま

          日記、ないしは外出の記録 六月五日

          アイスコーヒーに浮かぶ氷の中で光が交錯しているらしく、漆黒の中でわずかに虹色が輝いていた。黒猫の眼のようだった。ミルクを入れてしまったらきっと出会えなかっただろう。 梅雨入り前の、貴重な晴天の日。 少し本屋まで歩いただけだというのに、体育館での授業を彷彿させるほどの汗をかいていた。久々のことだった。不快指数を下げたいがためだけに行きつけの喫茶店に入店した。ここはすこし冷房が効きすぎているが、その日はそれも承知の上だった。平日の昼だというのに、一人で注文を聞き回っている女性

          日記、ないしは外出の記録 六月五日

          「まちどおしい」

          「再び新発見。火星に生物の住んでいる痕跡がーーー。」 古いテレビは粗い映像を映しながら話し続ける。人類の希望を乗せたロケットが火星に到着して数ヶ月、連日宇宙の様子がテレビで放映され、人間たちの好奇心をくすぐっている。 初めてロケットが宇宙にたどり着いてから、人類は日々、未知の世界の解剖に取り組んでいる。ロケットに乗る人種も最初は白人だけだったが、黄色の人間が乗り、黒人が乗り、ロケットの中がまるで世界の縮図のようだ。 それだけ、宇宙は人類共通の希望になったのだ。 「あーあ、

          「まちどおしい」

          日記、もしくは外出の記録 五月二十一日

          気圧のせいか、ずっしりと重い身体を無理やり引き摺り出すようにして外へ出た。さすがに二日も外へ出ないとシャバの空気が恋しくなるものだ。 特に目的もないので、近所の氏神様へお参りへ行く。普段からコツコツ集めている五円玉を放り、最近好きな作家が増えたこと、面白いラジオを見つけたことの報告と、ご縁を結んでくださったことへの感謝を伝える。アマチュア神道信者が言うのも烏滸がましい限りだが、神道の最も大切な教えは感謝の心なのである。 その神社には本殿の他に小さな祠が二つ、弁天様とお稲荷

          日記、もしくは外出の記録 五月二十一日

          日記、または外出の記録 五月十七日

          久々に明るいうちに外へ出た。明日から向こう一週間は雨続きと聞いたためだ。今日は海を見に行った。 海と言っても砂浜の広がるようなビーチではない。人の手により作られたあまりにも無機質な埋立地は日本屈指のオープン・ポートであり、荷役機器や港湾倉庫が立ち並ぶ。岸壁で貨物の積み下ろしを待つ巨大な船のほか、海上保安庁や警察の警備船が行き交い、広大な交差点を思わせる。来た道を振り返れば高層ビルが青空を占拠しているので、ぐるりと一周見渡すとコンクリートの塊だらけである。まるでミニチュア模型

          日記、または外出の記録 五月十七日

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          日記、ないし外出の記録 五月八日

          日記、ないし外出の記録 五月八日

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          日記、ないし外出の記録 五月七日

          腹の立つほど清々しい晴天であった。 近所の煙草屋でアメリカン・スピリットのメンソールを買い、入口脇の灰皿の前で早速火を点ける。日光に透かされた背の高い街路樹の葉が美しく揺らめいている。光のせいで色とりどりに見える。良く照らされた上部の葉は白、下のほうの陰っている部分はビリジアン・・・と脳内で絵の具を選ぶ。この季節の緑を選ぶほど愉快なことは他にない。フィルターギリギリ、たっぷり一本分の煙を肺に収め、名残惜しくもその場を立ち去る。喫煙中は上手い具合に日陰に陣取ったが、日向に出ると

          日記、ないし外出の記録 五月七日

          ソーシキ博士さんの個展「モーニングルーティン」を拝見して

          ソーシキ博士さんというアニメーション作家の初個展がyoutubeで配信されていて、(本来であれば大阪のシカクさんというギャラリーでの展示のはずだったようです。)拝見したところ素晴らしく美しくて、バシッと何かが降ってきたので感想を兼ねて創作をしました。個展は4/30から再開、5/10までam7:00からpm7:00までyoutubeで配信されます。絶え間無く変化する美しい祈りの場を皆様も是非に。 「祭壇」 敬愛するソーシキ博士とそのアートワークスへ それはもう何錠目の睡眠

          ソーシキ博士さんの個展「モーニングルーティン」を拝見して