日記、ないし外出の記録 五月七日

腹の立つほど清々しい晴天であった。
近所の煙草屋でアメリカン・スピリットのメンソールを買い、入口脇の灰皿の前で早速火を点ける。日光に透かされた背の高い街路樹の葉が美しく揺らめいている。光のせいで色とりどりに見える。良く照らされた上部の葉は白、下のほうの陰っている部分はビリジアン・・・と脳内で絵の具を選ぶ。この季節の緑を選ぶほど愉快なことは他にない。フィルターギリギリ、たっぷり一本分の煙を肺に収め、名残惜しくもその場を立ち去る。喫煙中は上手い具合に日陰に陣取ったが、日向に出ると汗ばむ程度に暑い。俺は薄手のナイロンジャケットを脱ぎ、日陰を選んで歩いた。
途中、自動販売機で一番安いものを買ってさらに歩く。長い道路に等間隔でずらりと並ぶ信号機が一斉に赤から青へと変わる。さっさと歩け、と言われている気がした。満更でもないのでご忠告通りに足を進める。スーパーのある角を曲がると、敷地の半分を駐車場として明け渡した神社がある。本殿の賽銭箱に五円玉を放り、適当に手を合わせていると、金色の車が仰々しく鳥居から出ていくのを見た。神様でも送迎しているのだろうか、まだ神無月は五か月も先だというのに。ちょうどどこかへお出かけだったとして、俺の参拝と五円玉は全くの無駄だったのだろうか。などとくだらないことを考えながら、敷地内のちょっとした縁石に腰かけ、先ほど買ったものを飲んだ。平日の昼時とは思えないほど静かで、いつもここには目に見えない結界のようなものがあるのではないかと錯覚させられてしまう。日陰で暫しじっとしているとやはり肌寒い。こんな天気の日に長袖の服を着ていると空に嘲笑されそうだが、未練がましい冬の名残に負け、再びナイロンジャケットを羽織った。
腰を上げ、律儀に頭を下げた後鳥居を通り抜ける。帰りがけにスーパーで安い蕎麦を買ったが、食欲なんてものはなかったので再び煙草で済ませた。十六時を過ぎても外は明るかった。

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