「まちどおしい」

「再び新発見。火星に生物の住んでいる痕跡がーーー。」
古いテレビは粗い映像を映しながら話し続ける。人類の希望を乗せたロケットが火星に到着して数ヶ月、連日宇宙の様子がテレビで放映され、人間たちの好奇心をくすぐっている。
初めてロケットが宇宙にたどり着いてから、人類は日々、未知の世界の解剖に取り組んでいる。ロケットに乗る人種も最初は白人だけだったが、黄色の人間が乗り、黒人が乗り、ロケットの中がまるで世界の縮図のようだ。

それだけ、宇宙は人類共通の希望になったのだ。

「あーあ、つまんね。まァた宇宙かい。」
テレビを見ながら愚痴をこぼすのは、ぎょろりとした両目を顔の側面に持ち、大きく裂けた口からパクパク泡を吹いている、魚顔の生き物である。
「人類ってやつはよお、空が好きだよな!こんなが歌があるのを知ってるかい。『上を向いて歩こう〜』ってな。たまには下も見てくれよ!な!」
「好きあらば空にロケット飛ばしやがって、物好きな連中だよ。全く。あれってすごく危険らしいぜ、知ってるかい。」「過去に空で爆発しちまったらしいな。おお、怖い。俺らなんか一瞬で焼き魚だぜ。」

「それに宇宙の連中はさ、何考えてるか分からねえだろ。それに対してどうよ!俺らの気前の良さ!いつだってご馳走の用意はあるし、綺麗な魚のダンサーだってすぐにあつめられるぜ。行きと帰りはウミガメタクシーでちょちょいのちょいよ。あーあ、来ないかなあ、人間。

こうして深海では、今日も人間が訪れるのを心待ちにしているのであった。

「おーい、お待ちかねの人間様が来たみたいだぜ。他の魚が騒ぎ始めてら。」
「お!どんな連中だい?テレビカメラ、ある?」
「カメラじゃなくて、網持ってるよ。」
「ちぇっ。お呼びでないぜ!」

(多分、数年前に星新一大賞に応募しようとして、賞レースに応募するまでも無いな…と温めておいた短編。自分は面白いと思っています。自分は…)

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