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いかれた僕のベイビー

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完結 恋を忘れたボーカリストと恋を知らない新人マネージャーのいかれたバンド×恋愛ストーリー
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2022年10月の記事一覧

【小説】いかれた僕のベイビー #22

【小説】いかれた僕のベイビー #22

 それに、ここは大阪。
 きっと今もまだ、優菜は、この街のどこかで暮らしているはず…。
 大阪に来る度、ついそんな事ばかり考えてしまってオレはいつも眠れなくなる。

 とはいえこれは潮音ちゃんに必要以上に酒を飲ませたオレの責任だ。
 いまだ握り締めたままのチューハイの缶を回収し、眼鏡を外し、髪の毛をほどいて潮音ちゃんの体をシングルベッドの奥側へ横たえる。
 途中、身体に触れたら起きてくれるかな、と

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【小説】いかれた僕のベイビー #21

【小説】いかれた僕のベイビー #21

「……それでまぁ、その彼女との関係は一年くらい続いて、結局最後は彼女がオレに本気になったから終わったんだけど、その間にオレもそういう女の子の匂い嗅ぎつけるの得意になっちゃって、今に至ってる。…そんな感じかな?ごめんね、こんなくだらない話長々としちゃって…」

「……いえ、くだらなくなんか、無いです」

 潮音ちゃんはとっくに空になっていたビールの缶を両手で力強く握り締めながら、ずっと黙ってオレの話

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【小説】いかれた僕のベイビー #20

【小説】いかれた僕のベイビー #20

「フジくん?」

 バイト終わり、浮かない顔で駅前を一人歩いていると、聞き覚えのある声に呼び止められた。
 振り返ると、一夜だけ共にした、あの時の彼女だった。

「久しぶりだね、元気にしてた?」

「……まぁ、そっちこそ、仕事、どう?」

 彼女はこの春大学を卒業して社会人になっていた。

「んー、普通かな。仕事なんてそんなもんだよ。……それより、また何かあった?あの時みたいな顔してる」

 ほん

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【小説】いかれた僕のベイビー #19

【小説】いかれた僕のベイビー #19

 そして、何度目かの弾き語りライブの終了後、店長に呼ばれた。
 店長の側には初めて見る顔が二人。
 一人は女の子でキリッとした顔立ちの割に人懐っこそうな笑顔が印象的だ。
 もう一人は男で、見るからに人の良さそうなほわっとした空気を纏っていた。

「……なんですか?」

「この前言ってたバンドのメンバーに、この二人どうかなって……」

 それが、アミちゃんと玉田との出会いだった。

 二人と出会って

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【小説】いかれた僕のベイビー #18

【小説】いかれた僕のベイビー #18

 彼女はオレとは別の大学に通う四年生、就職活動真っ最中でストレスが溜まっていたから飲みに付き合ってもらえて良かったと、最初は何気ない話を交わしていたが、酒が進むうちにお互いもう少し踏み込んだ話もするようになって、気が付くとオレは優菜と別れた事、そのせいで歌えなくなって歌詞も書けなくなって、バンドも解散してしまった事を彼女に話してしまっていた。
 そしてそんな彼女は彼女で、大学の准教授と付き合ってい

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【小説】いかれた僕のベイビー #17

【小説】いかれた僕のベイビー #17

 優菜に会えず、かと言って自分から連絡する勇気も無くて、さらにはその日の宿も決めずに行き当たりばったりで大阪まで来てしまったので、途方に暮れながら慣れない大阪の街を一人歩き回る。
 それでも、せっかくだからと気を持ち直し、ライブハウスが多く集まっていて年に何度かインディーズバンドを中心にサーキットイベントを行なっている有名な地域に行ってみることにした。
 今日のところはどんなバンドが出ているのかま

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【小説】いかれた僕のベイビー #16

【小説】いかれた僕のベイビー #16

 好きな音楽、最近見た映画、友達の話、好きな食べ物に好きな色、犬か猫ならどっちも好きだけどどちらかと言えば犬派。
 優菜ちゃんは四人の中では比較的おとなしめで話をしていても盛り上がる、という感じではなかったが、他愛もない話を淡々と話すリズムが意外と心地良くて、ずっと聞いていたいと思った。
 連絡先を交換したその日から毎日のようにやり取りをして、高校一年の終わり、オレから告白して、オレと優菜は付き合

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【小説】いかれた僕のベイビー #15

【小説】いかれた僕のベイビー #15

 核心部分を話す前に、まずはオレがギターを始めたきっかけの話を、少しだけ。

 物心がついた頃から中学二年の始め頃まで、オレはまぁまぁのぽっちゃり体型で食べる事くらいにしか興味は無くて、自分から何かをしたいなんて思う事も無い、割と無気力な子供だった。
 そんなオレを変えたのが音楽。
 クラスの男子が話しているその当時の流行りのバンド、学校に持って来ていた音楽雑誌、初めて何かを『カッコいい』と思えた

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【小説】いかれた僕のベイビー #14

【小説】いかれた僕のベイビー #14

 雑誌でも無駄に読みながら様子を見ようか、なんて思っていたら思いの外はやく潮音ちゃんはオレを追いかけて来てくれた。

「藤原さん、勝手な事されると困ります」

 軽く睨まれる。
 うん、困らせたかったからね、ごめんね。

「ちょっと飲み足りなくてさ、潮音ちゃんも一緒に飲む?」

「……今から、ですか?」

「もちろん」

 あれ?速攻で断られると思ってたのに、……もしかしてちょっと迷ってる?

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【小説】いかれた僕のベイビー #13

【小説】いかれた僕のベイビー #13

 無事に向井さんたちより先に会場入りし、機材の搬入も終えてほっと一息ついていたところに向井さんたちが到着した。
 本番を前に何度か電話やメールでのやり取りはしたが、直接顔を合わせるのは、あの日以来だ。

「お疲れさまです。今日は呼んでいただいて、本当にありがとうございます、よろしくお願いします」

「おー、長旅ご苦労さん。そういう堅苦しいのなくていいし、いつも通り気楽にやってー」

 ただでさえ憧

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【小説】いかれた僕のベイビー #12

【小説】いかれた僕のベイビー #12

 全国8ヶ所10公演の対バンツアー、オレたちが出るのは6ヶ所目、大阪公演の初日、ついにこの日がやってきた。
 同じ事務所の後輩バンドという接点はあるものの、インディーズデビューからまだ一年の若手を大阪の対バン相手にブッキングして貰えたのは、オレたちにとってはとんでもなく光栄な事だ。本当に感謝しないといけない。
 そんなバンドのリーダーでもある向井さんは、潮音ちゃんの事さえなければ、ミュージシャンと

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【小説】いかれた僕のベイビー #11

【小説】いかれた僕のベイビー #11

「……それは」

「今までその事について改めて話した事なかったけど、オレらはおまえの事情全部知ってるし擁護したい気持ちはある。だけど同時に、出来るものならやめさせたいって、みんな思ってるよ」

 そう、だったのか、……知らなかった。

「まぁ、でも今はそれは置いといて、そういう場面にたまたま遭遇して、その、マネージャーの潮音ちゃん?本人にも、アミちゃんたちにも誰にも何も言えずにモヤモヤするのは当た

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【小説】いかれた僕のベイビー #10

【小説】いかれた僕のベイビー #10

「用が無きゃ来ちゃいけなかった?」

 『いきなり来ちゃった彼女』感を出すの、やめろ。

「そういうわけじゃないけど、……おまえ彼女と同棲始めたばっかじゃなかった?」

「あぁ、まぁね」

「ならそんな彼女ほったらかしてていいわけ?」

「もちろんちゃんと言ってあるし、英理奈さんも遠慮しないで行って来てって言ってくれたよ」

 “英理奈さん”は杉浦の彼女で確かオレや杉浦より六歳年上。話すと長くなる

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【小説】いかれた僕のベイビー #9

【小説】いかれた僕のベイビー #9

「……なーんか、今日ずっと上の空だね、フジくん」

 オレの上に跨ったまま動きを止め、顔を覗き込んでくる。

「……え、あぁ、……ごめん」

「悩み事?あたしの話は今日もいっぱい聞いてもらったからたまにはあたしがフジくんの話聞いてあげるよー」

「……あー、そういうのいいから。それに別に悩み事とかじゃないし」

「ふーん?ま、別にいいけど。急に呼び出したのに来てくれただけマシだし。……でも、それな

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