【小説】いかれた僕のベイビー #15
核心部分を話す前に、まずはオレがギターを始めたきっかけの話を、少しだけ。
物心がついた頃から中学二年の始め頃まで、オレはまぁまぁのぽっちゃり体型で食べる事くらいにしか興味は無くて、自分から何かをしたいなんて思う事も無い、割と無気力な子供だった。
そんなオレを変えたのが音楽。
クラスの男子が話しているその当時の流行りのバンド、学校に持って来ていた音楽雑誌、初めて何かを『カッコいい』と思えた。
早いやつはすでに親に楽器を買って貰っていたり、親や兄弟のおさがりを貰っているやつもいて、オレは教室でそんなやつらの話を聞いているのが好きだった。
だけど自分の見た目に多少なりともコンプレックスを持っていたオレは自分も楽器をやってみたいとは思わなくて、あくまで聴いて楽しむ派だった。
そんなオレに転機が訪れたのは、ギターを持っている友達に誘われて、何人かでそいつの家に遊びに行った時。始めは普通にゲームしたり喋ったりしていたんだけど、何かのきっかけで部屋の隅に置かれていたギターの話になり、友達の一人に言われギターを弾いて見せてくれた。
今思えば、そいつもまだギターを弾き始めたばかりで全然上手くもないんだけど、あの時のオレには、世界で一番カッコよく見えたんだ。
その日、家に帰ってすぐ、オレは迷う事なく親に『ギターを買って欲しい』と言った。
これまで自分から何かをしたいとか欲しいと言った事がほとんど無かったオレが『何か』に興味を持ってくれた事がうちの両親としては嬉しかったようで、それが『何か』は何でも良かったらしく、すぐにギターを買い与えてくれた。
だけど、なんとなく恥ずかしくて友達には言えなくて、こっそり練習していた。同時に、ギターを弾くならやっぱり見た目もそれなりにカッコいい方が絶対良いだろと、ダイエットも始めた。
中学を卒業する前には別人のようにすっかり標準体型になっていて家の鏡の前でギターを構えてみては一人悦に入っていた。
高校受験が終わればバンド活動を本格的にしてみたいと思っていたのに、オレがギターを始めるきっかけをくれた友人たちはとっくに楽器に興味を無くしていて、バンドを組む夢は高校時代へと持ち越しになった。
そして、高校一年の冬に、運命の出逢いをしたんだ……。
高校に入学して割とすぐに運良く趣味の合う友人を見つけてバンド活動を始める事が出来た。
オレの地元のライブハウスでは定期的に高校生バンドのイベントを開催してくれていたのでよく入り浸るようになり、夏頃からイベントに出させて貰えるようになってからはよりバンドが楽しくなってきてどんどんのめり込んで行った。
高校生当時初めて組んだバンドはボーカル、ベース、ドラムとギターのオレの四人編成で主に流行りの邦楽のコピーをしていた。
当たり前だけど、当時のオレははっきり言って超下手くそで人前で演奏できるレベルのものには程遠かったが、それでも念願だったバンドでライブが出来る事が楽しくて仕方なかった。
そして三度目の出演が叶った日のイベント終了後、二人組の女の子がオレたちに声をかけて来た。
「……ねぇ、この前のイベントにも出てたよね?あたしたち友達に誘われてこの前初めて見に来て、それで君たちのバンド見て良かったねーって話してたの、ね?」
人懐っこそうな女の子が隣にいるちょっとおとなしそうな女の子に尋ねる。おとなしそうな女の子は声を出さずに頷いた。
「次のイベントも出るの?」
「どうかなぁ、オーディションあるから受かったら出られるけど、まだわかんない。決まったら言うし連絡先教えてよ」
ボーカルのシュウはとにかくこういう時の対応が完璧でまんまと人懐っこそうな方の女の子、舞花ちゃんの連絡先に手に入れた。
残念ながら次のイベントは出られなかったが、別の日シュウが舞花ちゃんたちと遊ぶ約束をしたからおまえも来いと無理矢理連れて行かれた。
シュウと違ってオレはそれまで女の子付き合った事も無かったし、中学までコンプレックスの塊だったオレは多少見た目が変わったからといって簡単に中身も変わる事もなく女の子と話すのは相変わらず苦手だったので、正直気は進まなかった。
バンドメンバー全員で待ち合わせ場所へ行くと、舞花ちゃんと、この前のおとなしそうな子で名前は優菜ちゃん、それから、初めて会うミサちゃんとハルカちゃんがオレたちを待ってくれていた。彼女たちはみんな近くの女子校に通っていてオレたちと同じ高校一年生だった。
集合するとまずはみんなでカラオケに行った。カラオケといっても時々シュウが歌わされるだけで他のみんなは普通に話をして楽しんでいた。そんな中で、オレはやっぱり女の子とは上手く話が出来ず、オレと似たタイプなのか隣に座っていた優菜ちゃんと共にただみんなの話を聞いていた。
だけど、しばらくするといつのまにか男女ペアが三つ出来上がっていてオレと優菜ちゃんは完全に取り残された。だから、はじめはお互い仕方なく話をしていたような気がするんだけど、話をすればする程、オレは自然と彼女に惹かれていくのが、自分でもわかった。
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