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#書評

【書評】フィールドワークの安全対策

【書評】フィールドワークの安全対策

調査地に出てデータやサンプルを集めたりするときほど「備えあれば憂いなし」ということわざの正しさを実感するときはありません。こういう道具を使いたかったのに持ってくるのを忘れたとか、こういうデータをとればおもしろいと調査地に入ってから気づいたとか、インターネットの十分につながらない僻地で参照したい情報を自分のPCにダウンロードしてくるのを忘れたりだとか。

そうした備えは効率的に研究成果をあげるのに役

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心理学者、ボルネオの森へ行く【書評】

心理学者、ボルネオの森へ行く【書評】

本書*1は、オランウータンのことがほとんどわかっていなかった戦後すぐの時代に、単身ボルネオに渡り、野生オランウータンの調査を試みた研究者の旅行記です。これまでも、霊長学者による野生のサル調査記に関してはいくつもの書籍が出版されてきました (参考: 【書評】オランウータンとともに)。しかし、そうした類書と一線を画しているのは、本書の著者が霊長類学者というよりは心理学者であり、野外調査の経験がほとんど

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【書評】オランウータン―森の哲人は子育ての達人

【書評】オランウータン―森の哲人は子育ての達人

ヒトにもっとも近縁なサル (大型類人猿) に、チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータンがいます。このうち、前3種はアフリカのみに生息しているのに対し、オランウータンは東南アジアのインドネシアとマレーシアのみに生息します。アフリカの大型類人猿に関してはこれまでにさまざまな解説書が日本語で出版されているのに対し、オランウータンに関して書かれた専門的な解説書は、英語のものばかりでした。(オランウータ

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【書評】『ヒトと文明──狩猟採集民から現代を見る』

【書評】『ヒトと文明──狩猟採集民から現代を見る』

『ヒトと文明』は分子人類学の大家、尾本恵市氏による自然人類学の本だ*1。『生物と無生物のあいだ』で著名な福岡伸一氏は「尾本人類学の集大成」と評したが、この本を一般向けの人類学の解説書だと思って読み始めた人はきっと面食らうだろう*2。この本は解説書でも教科書でもなく、人類学者が人権問題を訴える本である*3。そういう意味ではレイチェル・カーソンの『沈黙の春』に近いのかもしれない。

もちろん、解説書と

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【書評】100のモノが語る世界の歴史

【書評】100のモノが語る世界の歴史

今回は、モノから見るヒトの営みについての本「100のモノが語る世界の歴史(※1)」を紹介します。この本は"A History of the World in 100 Objects”という、もともとはイギリスのBBCラジオで放送された番組を書き起こしてまとめたものです(※2)。約800万点にも及ぶ大英博物館の所蔵品の中から、人類全体をできる限り平等に網羅する100点を選ぶ、という企画で、それら一つ

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