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読書まとめ『学名で楽しむ恐竜・古生物』→学名が物語る、生物の研究史

『学名で楽しむ恐竜・古生物』土屋 健

一言で言うと

学名が物語る、生物の研究史



概要

去年から古生物ワールドにハマっています。学名の視点から知るのもおもしろそうと思い、読んでみました。

本書では、特徴的な学名を持つ古生物・恐竜を紹介し、学名の由来を中心に解説しています。古生物の学名は、日常生活で使うことはほとんどないので覚えにくいですが、語源を覚えると記憶にも残りやすいですね。頭文字のアルファベットを並べたがるIT用語・ビジネス用語も、もとの英単語を把握すると覚えやすいのと似ています。


「はじめに」で、そもそも学名とは何なのかについても簡単に記載があります。学名とは、動植物につけられる世界共通の名称です。一般的に使われる学名(種名)は、属名と種小名からなります。ティラノサウルス・レックスであれば、ティラノサウルスが属名、レックスが種小名。他にも下記のような特徴があります。

  • ラテン語

  • 基本的に変更できない

  • 先につけられた学名が優先される(先取権の原則)

  • 発見者が命名者になるわけではない

  • 自分の名前はつけられないが、他者の名前はつけられる(献名)

学名を切り口にしている点が本書のウリですが、学名について詳しく学べる本ではありません。学名とは関係ない話が長かったり(ミレニアム・ファルコン号についてすげー語る)、種小名が載っていたりいなかったりします。3〜4ページ解説される生物もいる一方、ステゴサウルスやパキケファロサウルスといった有名どころの解説が5〜6行で終わっているなど、文量にバラつきもあります。あくまで「楽しむ」本であり、入口としてライトに読むのがベターなのかも。


本稿では、学名と実態が「矛盾しとるやん!」な興味深い事例を3つ共有します。



① ササヤマミロス・カワイイ:可愛くない

語源:篠山のひき臼+河合

白亜紀前期の哺乳類。兵庫県丹波篠山市の篠山層群から発見されました。全長は十数センチメートルのネズミのような姿で、属名の語源にもなっている臼歯を持ちます。

種小名のカワイイは、同地出身の霊長類学者・河合雅雄さんへの献名に基づきます。ラテン語表記する際にiを末尾につける決まりがあるため、Kawai+i=Kawaiiとなったとのこと。Kawaiiはいまや世界に通じる日本語なので、ササヤマミロス・カワイイがインバウンドの目玉になる…かも。私は復元図で普通に可愛いと思うんですが、ゆるキャラとかにする余地もありそうです。



② ニッポノサウルス:日本じゃない

語源:日本のトカゲ

白亜紀後期の植物食恐竜。1936年、日本人が初めて発見し、研究した恐竜です。

名前に反して、化石産地はロシアです。学名はニッポノサウルス・サハリネンシスで、種小名にサハリンが入っていますね。発見されたのは当時日本領だった南樺太=サハリンで、戦後になって日本が同地の権利を放棄してソビエト連邦(現ロシア)領になりました。国境が変わった一方で、一度つけられた学名は変更されない原則があるため、こうした矛盾が生じてしまったわけです。学問に国境はなくとも、政治には国境があると感じさせる学名です。



③ バシロサウルス:恐竜じゃない

語源:トカゲの王

新生代古第三紀のムカシクジラ類。頭部が小さいこと、小さな後ろあしがあることが特徴。体長は20メートルあったとされます。

いかにも強そうな恐竜っぽい学名ですが、実はクジラ、つまり哺乳類です。1834年の発見当初は爬虫類だと思われていたため、「サウルス」が付けられました。1842年には「ズーグロドン」と改名するよう提案が出ていますが、一度決まった学名は簡単には変えられず、今に至ります。似たパターンで、「卵泥棒」の汚名を着せられたオヴィラプトル(自分の卵だったらしい)も有名ですね。



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