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日記・81:そのひと足から

今日は午後から小学校へ行ってきた。

四月から新一年生となる子供達の保護者を対象に、入学前説明会が行われた。子供達は保育園でちょうどお昼寝の時間だろう。
説明会が終わってそのまま迎えに行く計画になる。

数日前、学校から封書が届いており、今日の予定表が記載されていた。

いつの間にかもうこんな時期になったんだなぁ、瞬も間もなく小学生か、そう思うと感慨深い思いがした。

ふと考えると、保育園の行事はたくさん参加してきたけれど、小学校は初めてだ。どんな格好で行けば良いのかな?そんなことが気になった。ラフ過ぎても場違いだし、堅苦し過ぎてもういてしまう・・

そこでいつものスーツを選んだ。妻が生前、就職祝いに買ってくれたグレーのスーツだ。細身の三つボタンで、生地もしっかりしている。ここ一番という時、いつも活躍してくれる。


学校に着くと、教頭先生が出迎えてくださった。図書室へ案内され、子供のネームプレートの置かれたテーブルを探し席に着く。

数名のお母さん達が談笑している。みんな気心の知れた間柄である。

「こんにちは!」と会釈をし、説明会を待つ。

教頭先生を先頭に、二名の女性の先生が順番に入って来られ、各々自己紹介と、今日のスケジュールを説明して下さった。

「みなさんこんにちは。はじめまして、新一年生の担任を任されました、Y、と申します。お兄ちゃん、お姉ちゃんが小学校に通っておられるご家庭のお父さん、お母さんの方とは面識がございますが、初めてお会いする方、四月から、よろしくお願いいたします」

そう、深々とお辞儀をして下さった。

とても上品で、優しそうな印象を受けた。自分も小学校一年生の時は女性の先生だっので、どことなく安心した。

出席した何名かのお母さん方は、すでに上のお子さんが小学校に通っているが、自分を含め多くの家庭が、初めての経験となる。程よい緊張の表情でみんな話を聞いているようだった。

担任のY先生がこんなことをおっしゃった。

「今日は参加して下さりありがとうございます。色々と御心配の方が多いと思います。私も二人子供がおり、初めて小学校にあがる時、夜も眠れないほど不安で、倒れそうになるくらいでした。けれど、安心されてください。子供達、とても強くて逞しいです。いつも一緒におられる親御さんの立場から見たら、自分の子は大丈夫かな、と心配なさると思いますが、お父さんお母さんが考えていらっしゃる以上に子供達、たくさん考えて、どんどん成長してしっかりして、思ってる以上に頑張ってます。だから、安心して、信頼してあげてください。」


一通り説明や質疑応答が行われ、最後に入学式の保護者代表挨拶の代表者を決めることになった。

自薦他薦を募っても、誰も挙手出来ず、周りのお母さん達も顔の前で手を振り首を振り、緊張して声も出ないよ、と動揺と謙遜が入り混じった会話で、時間だけがどんどん過ぎていく。

思ってもいない瞬間がやってきた。
自分が手を挙げ、立候補したのだ。

待て待て、何故に挙手したんだろう?
頭の中の理性くんが問うのを尻目にもうひとりの自分が語り出す。

「えっと、僕でよろしければ代表挨拶、お引き受けします。皆さんとは保育園に子供を通わせる中で、たくさんお世話になりました。そして父子家庭ということもあって、イベントなんかにどうしても参加出来ず、瞬と若菜の送迎をしてもらったり、遊びに連れて行ってもらったり、ほんとによくしてもらいました。入学式は子供達にとって晴れ舞台です。だから皆さんの代表として、子供達へのお祝いの意味も込めてしっかり挨拶したいと思います」


保護者の間から拍手と感謝の言葉が沸き起こった。

こちらこそよろしくお願いしますと、言葉が出た。

外は雨が降っていた。

帰り道、目が、頭がうっすら覚めてくる感じがした。

寝起きにラジオ体操の音楽を遠くに聴く感覚である。
大丈夫なんか?
責任重大やぞ!後には戻れんとよ!

小学校、中学校、高校、大学、人前で話すことなんてまるで平気だった。
生徒会長したこともあったし、毎日全校生徒の前で一言挨拶していたし、たくさんの行事で面白おかしく、時に真面目に言葉を発してきて、それを楽しめる自分だった。
だけんなんなん?それがどうした!?

今の自分をよく見てみなよ!
パニック障害で人前に出ると脚が震えるやんか。
エレベーターも一人では乗れん。
歯医者に行っても途中で目眩がして休憩の繰り返し。
散髪行っても座席に座りきらん。
だから伸びたとこを自分で切るしかない。
会社でも会議室には長居出来ん。
お水と発作の薬持って涙目になっとる。


オイオイ。
こんな情けない父親が入学式で挨拶なんか出来るんだろか?

恥かくだけじゃないんかな?

でも引き受けたらやるしかないやん。

これをきちんとやれたら、一歩克服出来ると思う。

なんの取り柄もないけど、瞬の晴れ舞台の時くらい、いや、この時だけでもいいから、父親らしいとこを見せてあげたい。

お世話になっている保護者の仲間、いつも仲良くしてくれる、保育園のお友達、そして、大切な瞬のため、病気を克服したい弱い自分のため、天国でいつも見守ってくれる妻のため。


一回くらい、立派な姿、カッコいいところを見せようじゃぁないか!!

ないか・・
ないか・・
ないか・・・・・

はぁ、目眩がする・・
けど、けど、だけど、やってやる。

これがスタートだ。
第一歩だ。

明日休みでよかった。
今日は寝れそうにない。

瞬と若菜が気持ち良さそうに、寝息をたてて眠っている。

ニコニコして、なんか楽しい夢でも見てるのかな・・

そっか、まずは挨拶考えなきゃだ・・

瞬、入学式、見ててくれな。

パパ、頑張るよ!!




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