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【逗子創業支援カフェ】#1 日本発祥のビーチサンダルで、世界に挑んだ創業者

逗子創業支援ネットワークが主催する、「逗子創業支援カフェ」。
支援機関や金融機関がネットワークを組んで、逗子で何かをはじめたい人をサポートしています。

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その取り組みの中で、「逗子創業支援カフェ」と、逗子の暮らしを心地よく編集する「アンドサタデー 珈琲と編集と」が、逗子の創業支援の輪を広げていくための連載をスタートさせます!

この連載では、逗子で創業(起業)を目指す皆さまに向けて、様々なフィールドで活躍している方の創業ストーリーを紹介することで気づきを得てきっかけを作り、そっと背中を押すことを目的としています。

記念すべき第一回は、ビーチサンダル一つで世界へ挑戦しようとしている、中島広行さんにお話を伺いました。

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夕暮れの海での撮影に、蔵前から逗子までわざわざ来ていただいた中島さん。空にほんのりと薄桃色の霞がかかる頃、日没にギリギリ間に合いました。

「今日は取材なので、フォーマルな革のビーチサンダルで来ました」

台が牛革でできたビーチサンダルの鼻緒に見えるのは「TSUKUMO」の文字。中島さんのブランドの商品です。特に夏場はどこに行くにも、滅多に靴を履くことは無いそうで。
思っていたよりずっと柔らかくシャイな印象だった、中島さんの創業ストーリーをお伺いしました。

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「ビーチサンダルならいけるかも」ある一人の会社員はそう思った。

ーー中島さんが勤められていた会社のビーチサンダル、子どもの頃から履いてたんです!

おぉ、ありがとうございます。葉山を拠点にしていたので、特に湘南エリアの方たちにはそう言っていただくことが多くて。

ーーこうしてお会いできて嬉しいです。前の会社ではどんなことをやられていたんですか?

1998年から17年ほど働いていたのですかね…入社当時は「よろず屋」のような感じでたばこから肌着靴下まで何でも置いていたので、日本橋までおばさんの肌着を仕入れに行ったりしてましたよ(笑)

ーー興味無さそうに仕入れてる中島さんが目に浮かびます。

それで入社してから3年間、仕事も選ばず正月も休まずに働いていたんですけど、どうしても売り上げが伸びなかった。このままじゃいけないなという想いがありましたね。

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ーーなるほど。それでは会社を成長させていったストーリーについてまず聞かせてください。店長としてそこから改革に乗り出したと聞きましたが、まず何をしたんですか?

思い切って商品をビーチサンダルのみに絞ってみたんです。

ーーだいぶ思い切りましたね。

土地柄なのか他にライバルがいなかったからなのか、当時からビーチサンダルだけは売れていたんですよね。ここに勝機があるんじゃないかと。手広くやった結果難しかったんだから、小さな会社が生き残るには狭く強くなるしかないと思って。

ーーでもそんなに大きな変化、不安とか無かったんですか?

不安は常にありましたよ、相談できる人もいないし、反対も大きかった。税理士にすら何年持つかわからないと。ただ当時は給与も少なかったし、失敗してもこれ以上人生が悪くなることは無いからいいかなって(笑)

ーー失敗しても死にはしないと(笑)

そうそう。逆に言うといきなり独立、とかではなくて会社の給与だったりある程度の後ろ盾がある中での挑戦だったんで、勇気を持てた所はあるかもしれないですね。

ブランドとしては苦しい状況だったので、今ここで勝負するしか無いんだと、リブランディングを進めていきました。

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ーーそれが2001年頃ですか。具体的には何から始めましたか?

ビーチサンダル専門店としてブランドを確立するため、ロゴホームページをつくりましたね。ブログもこの頃から力を入れて。営業も頑張ろうと思ったんですが、なにせ人見知りなもので(笑)
人付き合いも疲れちゃうから、営業で無理に知ってもらうより、興味がある人へ自然に知ってもらうための環境を整えた方がいいなと。

ーーそれでホームページでの発信に力を入れたんですね。最初から売れました?

当時はビーチサンダルでホームページを構えている競合は少なかったので検索でも上位に来て、最初から1000足単位では注文が来てましたね。ただもし冷夏だと次の年は越せないなという位にはギリギリでしたし、エリアも限られていたので、苦しい時期は続いていました。

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失敗から学んだ男は、「自分らしさ」を見つめ直した。

ーー挑戦の中で失敗ってありました?

めちゃくちゃありますよ。心の迷いがあったのか、モンゴルまでたばこ作りに行ったりして(笑)

ーー突然のモンゴル。たばこがお好きなんですね。

まったく吸わないです(笑)夏しか売れないビーチサンダルだけじゃどうしても不安だったんですよね。ロゴ入れて作って、もちろん売れないという。結果モンゴルに遊びに行っただけ(笑)

ーー良い旅行にはなったと(笑)商品ラインの拡大以外に、販路の方で失敗はありました?

はい、東京にも販路を拡大しようと、2005年には池袋のパルコに出店したことがありましたね。誘ってもらえた時は嬉しかったなぁ。当時のブランドも地元ではある程度名も知れていたので期待感はあったのですが、まぁ売れなかったですね

ーー地元では有名でも通用しない世界があったと。

悲しかったなぁ(笑)パルコさんごめんなさいって、今でも思ってます。当時は自分自身、「適正利益」や「掛け率」という基本すら分からないような状況でしたから、当然ブランディングも十分じゃないし失敗して当然というか。あの時は力の無さを思い知らされましたね。

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ーーそんな数々の失敗から、どう立ち直ったのか知りたいです。

失敗の経験から、相手が興味を持っていないのに無理に行かない。それよりも相手から興味を持ってもらうにはどうすれば良いか考え続けることが大切、と学びましたね。

ーー何となくわかる気はしますが、具体的にどんなことをしたんですか?

興味を持ってもらえる他にないブランドになるために、自分が人と違う部分を考えて、絞ること。自分のできることを前提に、周りを見渡した時に、うちの場合はそれがビーチサンダル専門店ということでした。

ーーたばこじゃないと。

たばこじゃ決して無い(笑)自分が何者かということを探し、絞り、見つけたら、ホームページを中心にブログでも自己紹介をしつつ、興味を持ってもらえるようなブランドになるよう発信し続けていました

ーーマメに発信を重ねられているのを拝見しました。実際はどんな反響がありましたか?

通信販売で受注が入るようになりましたね。店舗のあるエリアに限定されず、商圏という枠組みを取り払えたのが大きかった。2004年には人づてにBEAMSもご紹介いただきコラボしたり、少しずつブランドが広がっていくのを感じていました。

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ーーいよいよ歯車が上手く回りだした実感って、いつ頃持てたんでしょう。

2006年の横浜ウォーカーの「逗子・葉山特集」の取材ですかね。ビーチサンダル専門店として面白がってくれて、ここから江ノ電・横浜Fマリノス・八景島シーパラダイスと、横浜エリアでのOEM(相手先ブランドによる生産)やコラボが一気に広がっていきました。

ーー…えっと…すみません、営業してないのにこんなに広がった理由が、やっぱりイマイチわからないのです。

もう全て人づてにご紹介いただいてるとしか言いようがなくて。横浜ウォーカーの編集長が全国の編集長を紹介してくれて、九州でソフトバンクホークスのグッズを作らせていただいたり。八景島シーパラダイスから全国の水族館でのグッズ製作につながったり。

ーー数珠つなぎで人が人を紹介してくれたと。

結局は人のご縁だと思うので、だからこそ誰かに紹介したいな、と思ってもらえるような個性を持ったブランドであるべきだと、そう考えてますね。そうしてコラボをし続けたら、コラボの相手方がブランドの名前を広めていってくれました

ーーそして前の会社は軌道に乗っていきます。

徳間書店から本を出したり、沖縄でも店舗を持って冬も売れる仕組みを作ったり、イタリアの「incotex」とコラボして海外展開を体験したり…多面的な出会いに恵まれました。
これもやってみてわかったんですが、販売チャネルが増えると夏の商品であるはずのビーチサンダルだけでも一年中売れるようになって、絞って個性を出すことで想像を超えて需要が広がることを実感しましたね。

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そして創業。まっすぐに続けた、自分探しと自分磨き。

ーーそしていよいよ2013年に「TSUKUMO」を立ち上げます。一番大きな変化ってなんでしたか?

まず店舗を持たなくなったことですよね。

ーーそうか、蔵前には事務所しかないんですね。

はい。卸やOEMを中心に展開しています。そしてもう一つは、このタイミングで「日本製」ということをブランドの個性に、前面に押し出すようになりました。ビーチサンダルって日本発祥なんで、そのストーリーも添えて。

ーーえっ、ビーチサンダルって日本から始まったんですか?

そうなんですよ。日本の方も海外の方も、ほぼ誰も知らないけど(笑)

ーー知らなかった…では日本の工場で作っているんですね。

阪神淡路大震災で被災した兵庫県にビーチサンダルの工場が残っていて、そこに頼み込んで作ってもらえることになって。その工場の9割が「TSUKUMO」の仕事なんです。

ーー発祥の地で作られる唯一の純国産ビーチサンダル。ブランドとしての強い個性を手に入れたと。

そうですね。海外製の安価なビーチサンダルと差別化するためにも、日本製の質の高さを売りにしていこうと。
ビーチサンダルの台は合成ゴム、鼻緒は天然ゴムを使用して、ちょうど良いクッション性の硬度50%としています。また歩きやすさを追求して、つま先が低くてかかとが高い「テーパー型」を採用しています。

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ーー履く人のことを考え抜いた設計になっているんですね。

そして履く楽しさも大事にしていて、台と鼻緒の組み合わせて228通りのカラーバリエーション12サイズで展開してるんですよ。

ーーなるほど。もう少し詳しく、創業する時のことを教えてください。不勉で申し訳ないのですが、そもそもの手続きとかって大変そうなイメージが…。

自分も最初は大変だと思ってたんですが、ネットから引っ張ってきた書式に打ち込んで、銀行の口座は用意した上で公証役場、法務局、銀行に行って1日かからず会社つくれちゃったんですよ(笑)

ーーえぇ!もっと時間も労力もかかるもんだと…。気になるお金の話も伺っても良いですか?

最初資本金も9万円しか用意してなかったんですが、それじゃ取引先として信用が無さすぎるとクライアントに言われて(笑)それで銀行からの借入れで資本金は300万にしました。

ーー資本金って9万円でも良いんですね(笑)他にはどこにお金がかかりましたか?

そうですね、会社作る時の印紙代20万円と、うちの場合は店舗はなかったので事務所の賃料と、商品の制作費ですかね。初期費用は自己資金無しで、全て銀行からの借入れでまかないました。

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ーーとても勉強になります。補助金は活用されなかったのでしょうか?

パンフレットや試作品を作ったり、事業を広げる時に活用しました。難しいイメージがあると思いますが、創業者の大きな力になるので調べてみてください。
例えば逗子市商工会の「小規模事業者持続化補助金」は、商工会の支援を受けながら経営計画(事業計画書、創業計画書)を作って申し込めば50万円の補助金を受け取ることができます。

ーーそんなに支援してもらえる可能性があるんですね!…でも補助金って聞くと申請が大変そうなイメージがあります。

いやそれがそうでもなくて。中にはA4一枚の申し込み用紙を提出するだけのものもあるので。こういう事業がやりたくて実現させるためにこれだけお金が必要なんです、というストーリーさえ作れれば難しいことはないですよ。

ーーそして創業してから今日に到るまで、順調に業績を伸ばしています。

最初から前の会社の時のお客さんがたくさん付いてきてくれたのが大きかったです。BEAMSさんとかも来てくれるとは思わなかったので、本当に救われましたね。

ーー積み重ねてきたことが実を結んできていると。販売チャネルも増えているんですね。

それこそ逗子市商工会に繋いでいただき、逗子の銀座通りにある「Johnny Shonan」でも今年から取り扱っていただいています。ルーツのある地域に広がるのもとても嬉しいんですよね。

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日本の砂浜から、
ビーチサンダルを履いて海を超えていく。

ーーではこれからの展開についても教えてください。

台湾の「FUJIN TREE」や、イギリスの「TRUNK」への出店などを経て、増えてきた海外展開に勢いを出していくために、今年は中国に「TSUKUMO」の会社を作ったんです。そこを起点に海外への挑戦を加速していきたいですね。

ーーおぉ!海外でも創業されたんですね。そちらも大変だったのでは?

自分だけだったら難しかったと思いますが、現地のパートナーの力もあってスムーズでしたよ。銀行の口座作る時の本人確認なんかテレビ電話で済んでしまって(笑)日本よりスピード感が早いんです。

ーー海外に挑戦する上で大切にしていることってあります?

中国にビーチサンダルを持っていくと、必ず「これはどこが中国製と違うんだ?」と聞かれるんです。パーツ2つしかないから当然ですよね(笑)その時にメイドインジャパンの個性を明確に伝えられるように、今まで以上に自分を深掘りしてブランドの強みを発信できるようしています。

ーーやってきたことを信じることは変わらないけれど、より深めていくと。

そうですね。今年は蔦屋書店のモデルになったと言われる深圳の誠品書店でポップアップを出す予定で、新しい展開になってきているのも楽しみです。

ーーアジアで最も優れた書店って言われてるとこですね!

はい。海外に関しても、Facebookで知って応募した中国の展示会で、そこで出会った蘇州の営業代行の人が縁を繋いでくれて、アジアを中心に広がっています。日本製のビーチサンダルで世界のどこまでいけるか。これからが本当の勝負ですね。

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ーー最後にこれから創業をしようとしている皆さんへ、メッセージをお願いいたします。

創業は大変なことも多いですが、0のものを育てることは本当に楽しい。失敗をすることでしか見えないものも必ずあるので、まず勇気を持って挑戦してみることが大切かと思います。

ーー好きなもので創業したい人も多いと思いますが、「売れるもの」で勝負した方が良いのでは、という気がしてきたのですが…。

自分はビーチサンダルが元々好き、という訳でもなかったので(笑)一番理解して魅力を伝えられるものがビーチサンダルだったというだけで。
ただ、好きなもので創業するって、熱量が変わるので良いことだと思うんですよ。その中で、自分は他の人と比べて何が違うのかを伝えられることが、必ず必要になってくると思います。

ーー好きだけではダメだということですね。そういうことを学ぶためにも、今は創業者への支援が充実しています。

自分の時は、創業セミナーとかは少なかったので、もし成功した人のエピソードや失敗を疑似体験できていたら、18年もかからずにもっと早く軌道に乗せられていたかもと感じます。だから今の皆さんが羨ましい(笑)

ーー気づけば2時間もお話いただいていました(笑)貴重なお話ありがとうございました!

みなさん応援していますので、自分らしく頑張ってください!

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編集後記

ブログの更新も可能な限り毎日しているという、とてもマメで丁寧な中島さんの人柄や仕事に惹きつけられ、次の仕事が生まれている。販促に力を入れる前に、マーケティング視点を持ったブランディングを突き詰めていくことの大切さを、しみじみと感じた取材でした。

そんな中島さんですが、逗子創業支援カフェのセミナーでお話されます。今回の取材では時間切れとなってしまった、より踏み込んだブランディングについて無料で学ぶことができる貴重な機会。
まだ少しだけお席もあるようなので、ぜひご参加くださいね。

『逗子創業セミナー』
□日時:2019年7月4日(木)19:00-21:00
□場所:逗子市役所5階会議室
□定員:30名
□参加費:無料
□詳細は「逗子創業支援カフェ」

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また7月から、「逗子創業スクール」も開講します!
①経営、②財務、③販路開拓、④マネジメントの全4講座で、支援機関や金融機関がネットワークを組み、創業を全面的にサポートしていきます。

□日程:令和元年7月11日、18日、25日、8月8日 全4回(いずれも木曜日)
□時間:19時00分~21時00分
□場所:市役所5階会議室
□定員:30人
□受講料:4,000円(テキスト印刷代)
□講師:神奈川県よろず支援拠点コーディネーター

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詳しくは下記ページから見られますので、ご興味ある方はぜひぜひご覧ください!
『逗子創業支援カフェFacebookページ』
https://www.facebook.com/zushisougyoucafe/

↓セミナー・スクールのお申し込みはこちらからお願いいたします↓
https://ws.formzu.net/fgen/S16889515/

コーディネーター:逗子市商工会  栗原大輔
取材・文・イラスト・写真 アンドサタデー 珈琲と編集と

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