見出し画像

それはまるで短い命の絶頂にいる花のような

起業家という道を経て、今は作家を夢見て執筆活動に明け暮れる橋本なずなです。

「 よっ! 」
待ち合わせ場所のJR大阪駅の中央改札口。私が声を掛けると彼は顔を上げて頬をほころばせる。

今日の彼は前に会った時よりお洒落だ。
前回はお仕事からそのまま来てくれたからかシンプルな装いだったけれど、今日は二匹のキツネの絵柄が描かれたコーデュロイ素材の黒のキャップに白のTシャツ、深い青のカーディガンを羽織っている。

良い。個性のある彼も良い。
私は湧き出る “LOVE” をぐっと噛み締めて、冷静さを取り繕う。

彼とは一度食事に出掛けて、その後私の本を読んでくれて、そのうえで今日再び会うことになった。
私が性的虐待を受けたこと、ビッチだったこと、自殺未遂をしたこと、そして私が彼を好きなこと。
彼はすべてを知っている。

私にとって自身の書籍を読まれることは、裸を晒すよりも恥ずかしいことだ。
本に書かれている私は丸腰で、武器を持たず、偽りのないありのままの姿だから。
読んでもらえて嬉しい気持ちと、すべてを知られる恥ずかしさが交差する。


晩御飯を食べるにはまだ少し早く、一先ず私たちはカフェに行った。
チーズケーキが美味しいそのカフェは、梅田の景色を眺められるとして私のお気に入りのお店でもある。

「 この2週間どうだった? 」
『 いや特に変わらずですね。でもなんか、この2週間は長く感じました 』

( それって今日が待ち遠しかったってこと…?)なんて思っちゃって。

私は待ち遠しかった、今日この日が。
本を読んだうえでも会ってくれると言うならば、私にはもう怖いものなんて無いんだから。
ただ彼のことが好きで、彼のことをもっと知りたくて。できれば私のことも好きになってもらいたくて。

その為に三日に一度はジムに行って、毎日のカロリー計算もきちんとして、眠る前のマッサージだって欠かさなかった。
なんて話は彼は知る由もないのだけれど。

最近の話や服の話、本の感想や互いの価値観について話していた。

梅田の景色を映す窓が暗くなるのは早かった。18時30分を過ぎた頃、私たちはカフェを後にして晩御飯のお店へと向かう。


北新地の街の一角にあるそこは、私が大阪で一番好きなラーメン屋さん。
ぷりぷりのホルモンが入ったラーメンで、スープの味はチゲと白湯の二種類がある。
開店まで少し時間があったから、私たちは周辺を散歩した。

北新地、それは私にとって “お庭” だった。
父が堂島上通りにあるレジャービルでバーを経営していたから、小さな私はよくお手伝いに行っていた。
「家」と「学校」、その後に次ぐ第三の居場所が「北新地」だった。

そんな話をしながら彼の左手側を歩く。
『 なんか、ドラマみたいな話ですね 』軒並む高級店を横目に彼が呟く。

「 あ、ねぇねぇ見て 」
北新地の街を抜けて、土佐堀川を渡った中之島の河川を歩いている時、私は一つのビルを指さした。
中之島フェスティバルホール。その2階にある高級(であろう)レストランには、いつも大きなシャンデリアがキラキラと輝いている。

「 私、自分のお金であのお店に行くって決めててね 」
「 例えば作家として賞を受賞できた時とか、ベストセラー作品を生み出せた時なんかには、あのお店に行ってお祝いするんだぁ 」

『 こういう景色が近くにあると、そんな風に思うのかもしれないですね 』

夢を語る私に、彼は落ち着いた声色で言葉を紡いでいく。
彼の出身は兵庫県、現在は京都府に住んでいる。彼はこれまでの自分の世界には北新地や中之島辺りの、俗に言う “都会の景色” に縁が無かったと云う。
だから私の幼少期はドラマのようだと感じるし、高級なレストランに憧れることもないのだそうだ。


ラーメン屋さんが開店し、私たちはチゲのホルモンラーメンと〆のリゾットを注文した。
ラーメンとリゾット、カロリー爆弾なお気に入りの食べ方を彼にも味わってもらう。

銅の鍋の中で赤く照っているスープを一口飲んだら、真っ直ぐに伸びた麺をすする。

「 めっちゃ熱いから気を付けてね 」
『 はい、ヤケドしないようにします。・・・こないだのサンドイッチみたいにならないように(笑) 』

前回、食事に行く前に寄った喫茶店のサンドイッチでヤケドをした彼。
過去の出来事を共有できていることに、彼との関係が地続きであることを実感する。
それがなんだか嬉しくて、今日のこともまた次に会った時に話せたら良いな、なんて期待をした。


その帰り、私は彼を阪急電車の改札まで送っていた。

「 これから私は、何を口実に○○くんに会ったら良いんだろう 」
深い意味は無かった。ただ、ふとそう思って、湧き出た言葉だった。

———『 口実なんて、いらないんじゃないですかね 』
彼が濁りの無い瞳でこちらを見つめる。
彼の瞳には黒目とそれを囲う色素の薄い茶色い淵があって、それを見ているとあまりの綺麗さに言葉を忘れる時がある。

「 はははっ、そんなん言ったら毎日会いたいもん 」

私は照れ隠しに笑ってみせる。どうか “単純な女の子” でなくて “恋に慣れていそうな余裕のある女性” のように映っていますようにと願って。

「 じゃあ次は京都の展示会行こうね 」
『 はい、また。連絡します 』

改札に向かう彼の後ろ姿を見つめる。あっという間だった数時間、なんだか名残惜しくて、寂しくて。
阪急梅田駅の改札口、沢山の人が行き交う中で、私は彼の名前を呼んで「 今日も好きでした! 」・・・って叫んでやりたい、そんな衝動に蓋をした。

その後、私も最寄りの沿線の駅まで歩いていると、とある雑貨屋さんに陳列された小さな花束が目に留まった。
黄色いガーベラと紫のカーネーションが印象的な花束は、彼の笑顔と重なった。

彼は笑うと、目も口も、顔の筋肉のすべてが横に伸びる。しわが生まれる “クシャっとした” 笑顔ではなくて、彼の笑顔は “ニカッ” っとしている。

それはまるで短い命の絶頂にいる花のような、雪解けをもたらす春の太陽のような。

その花束は今、私の部屋の隅で燦々と咲いている。

● 併せて読みたい ●
足るを知る彼と、満たされない私 [前編]

。・゚・。。・゚・。。・゚・。。・゚・。・

▶ You gotta check it out! ◀
橋本なずな、初の書籍発売!✨

・-・-・-・-・

▶ NEWS ◀
「iroha」公式アンバサダー “iroha部 二期生” に就任いたしました!✨

・-・-・-・-・

▶ Our Service ◀
■ カウンセラーマッチングアプリ Bloste(ブロステ)
平均価格 ¥2,500 / 即日予約が可能なカウンセリングサービスです✨様々なカウンセラーが在籍中!
[ サービスの詳細・カウンセラーの募集情報などは公式HPから ]

。・゚・。。・゚・。。・゚・。。・゚・。・

この記事が参加している募集

恋愛小説が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?