弁護士 新井悠真

美術館と映画館によくいる弁護士です。

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最近の記事

隠れ家バーが口コミグルメサイトに登録され、削除を請求した事件(大阪地裁H27.2.23)〈著作権判例紹介〉

 秘密性を演出している飲食店(いわゆる「隠れ家バー」)の店舗情報が、口コミグルメサイトのユーザーによってサイトに掲載されました。店舗側はグルメサイトに削除を要求しましたが、サイト側は応じませんでした。営業権及び情報コントロール権を根拠に、損害賠償と削除を請求しました。  裁判所は、範囲が不明確な情報コントロール権を不法行為や差止めの根拠とすることは相当ではないとし、店舗側がホームページである程度の情報を公開していたことなどを理由に、サイト側の行為は悪質とまではいえないとして

    • 金魚電話ボックス(第二審)(大阪高裁R3.1.14)〈著作権判例紹介〉

       金魚電話ボックスの第二審です。第一審では原告の請求が棄却されましたが、高裁では逆転しました。  大阪高裁は、公衆電話の送受器が外されて水中に浮いた状態で固定され、その受話部から気泡が発生している点に創作性を認め、原告作品は著作物性を有すると判断しました。  被告作品による著作権(翻案権)侵害を認めて原判決を変更し、被告作品の制作差止め、廃棄、賠償金55万円の支払いを被控訴人らに命じました。 争点原告作品の著作物性 控訴人の主張: 素材の選定、構成、文脈、位置付けによ

      • 金魚電話ボックス事件(第一審)(奈良地裁R1.7.11)〈著作権判例紹介〉

         電話ボックスの内部に水を満たし金魚を泳がせたアート作品について、それとよく似た作品が大和郡山市に設置されました。この作品が著作権を侵害しているとして、アーティストが作品の廃棄や損害賠償を請求した事案です。  裁判所はまず原告作品の著作物性について検討し、①電話ボックスを水槽に見立てて中で金魚を泳がせた点、②受話器部分から気泡を出す仕組みの点は、いずれも「アイデア」であり、著作権保護の対象外としました。一方、造形物の形状や電話機の表現には著作物性があるとしました。  しか

        • チェブラーシカのグッズの販売権がロシア企業との間で二重契約状態だった事件(東京地裁R2.6.25)〈著作権判例紹介〉

           チェブラーシカのグッズを日本で販売する行為が、キャラクターに係る独占的利用権を侵害するとして、米国のアニメ制作会社が損害賠償を請求した事案です。  裁判所は、独占的利用権が侵害されたとして損害賠償請求ができるのは、利用権の専有を確保された状況にあるときだけだとして、ロシア企業との関係で二重ライセンス状態になっており、原告は請求できないとして、請求を棄却しました。旧ソ連法の解釈など複雑な事案が争点となりました。 概要1.当事者 原告: アニメーション作品の事業開発、ライ

        隠れ家バーが口コミグルメサイトに登録され、削除を請求した事件(大阪地裁H27.2.23)〈著作権判例紹介〉

          「月刊歌の手帖」が部数を過少申告し、JASRACが1億4000万円を請求した事件(東京地裁R2.12.10)〈著作権判例紹介〉

           カラオケ愛好家向けの歌謡情報誌「月刊歌の手帖」を発行していた会社が、20年以上にわたって部数を過少に申告していました。利用許諾範囲を超える部数を無断で発行し、JASRACが管理する歌詞などの著作権を侵害したとして、JASRACが約1億4000万円の損害賠償を請求した事案です。  JASRACの主張が全面的に認められ、約1億4000万円の支払いが命じられました。 概要本訴 原告: 音楽著作権に関する著作権等管理事業者。 被告: カラオケ愛好家向けの歌謡情報誌「月刊歌の

          「月刊歌の手帖」が部数を過少申告し、JASRACが1億4000万円を請求した事件(東京地裁R2.12.10)〈著作権判例紹介〉

          おみくじ無断複製事件(東京地裁R3.1.26)〈著作権判例紹介〉

           原告が作ったおみくじとほぼ同じ内容のおみくじを被告が作成・販売したことが、複製権・翻案権、同一性保持権の侵害に当たるとして、損害賠償とおみくじの販売の差止めを請求した事案です。  おみくじの内容に創作性があり、表現の本質的な特徴が同じであるとして、複製権の侵害、同一性保持権の侵害が認められました。その上で、著作権法114条の推定規定を用い、おみくじの売上から原告の損害額を算定し、672万8590円の損害賠償が認められました。 https://www.courts.go.

          おみくじ無断複製事件(東京地裁R3.1.26)〈著作権判例紹介〉

          訴状を第1回口頭弁論期日前にブログで公表した事件(東京地裁R3.7.16)〈著作権判例紹介〉

           名誉毀損訴訟の被告が、届いた訴状を第1回口頭弁論期日の前にブログにアップロードした事案です。  訴状が著作物であること、訴訟代理人が著作権を有することについては争いがありません。裁判の公開の原則(憲法82条)等から、訴状を公開する行為は著作権侵害に当たるのかが争われましたが、結論として著作権侵害に当たるとされました。  公衆送信権の侵害については、財産権の侵害であるため、特段の事情がない限り慰謝料は認められないと判示しました。一方、公表権の侵害については、慰謝料を認めた

          訴状を第1回口頭弁論期日前にブログで公表した事件(東京地裁R3.7.16)〈著作権判例紹介〉

          映画『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』の主人公の名前が小説から無断で使用された事件(東京地裁R5.10.20)〈著作権判例紹介〉

           「小説ドラゴンクエストV」作者の久美沙織さんが、映画「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」で主人公の名前「リュカ」を無断で使用されたことが著作権侵害に当たるとして、スクウェア・エニックスや東宝などを訴えました。  裁判所は、キャラクターの名称は創作的な表現とは言えず、著作物には当たらないとして、請求を棄却しました。 https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=92614 概要当事者 原告: 小説家。「ドラ

          映画『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』の主人公の名前が小説から無断で使用された事件(東京地裁R5.10.20)〈著作権判例紹介〉

          「幻想水滸伝」の楽曲を無断でオーケストラアレンジに編曲した事件(東京地裁R4.9.8)〈著作権法判例紹介〉

           「幻想水滸伝」シリーズの楽曲を、著名な作曲家・指揮者が無許諾でオーケストラアレンジしたとして、著作権者の株式会社コナミデジタルエンタテインメントが、配信の差止め、CDの廃棄、損害賠償などを請求した事案です。  被告は、「検討の過程における利用」(著作権法30条の3)に当たる、イスラエル著作権法で免責される、米国著作権法のフェアユース規定で許容されると反論しましたが、いずれも認められませんでした。裁判所は、楽曲の複製・送信の差止め、CDの複製・輸入・譲渡の差止め、CDの廃棄

          「幻想水滸伝」の楽曲を無断でオーケストラアレンジに編曲した事件(東京地裁R4.9.8)〈著作権法判例紹介〉

          未公開映画の脚本が週刊誌に掲載された事件(東京地裁R4.7.29)〈著作権判例紹介〉

           映画『ハレンチ君主いんびな休日』が、トラブルで公開中止となりました。映画の監督と脚本家が、お蔵入りさせた映画製作・配給会社に対して、公開中止による損害賠償と、原告が映画の著作権を有することの確認を求めました。また、公開中止の顛末に関する記事を掲載した週刊誌の出版社に対して、名誉棄損と脚本の公表権侵害による損害賠償を求めました。  裁判所は、「本件映画は公開延期及び中止となり、誰も見ることができない映画になってしまったところ、そのような映画の脚本を著作者である原告らに無断で

          未公開映画の脚本が週刊誌に掲載された事件(東京地裁R4.7.29)〈著作権判例紹介〉

          「表示—継承」のCCライセンスを付与した写真素材が無断で使われた事件(東京地裁R4.7.13)〈著作権判例紹介〉

           原告は浴衣の写真をFlickrに投稿し、「表示—継承」のクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)を付与しました。ホームページ制作の外注会社がその写真を写真素材サイトで見つけ、「DOWNLOAD FOR FREE」と書かれていたので、著作者の名前を載せなくても自由に使用できると思い、ホームページに使用しました。  「DOWNLOAD FOR FREE」とは書かれていても、写真素材サイトには「License:Attribution-ShareAlikeLicen

          「表示—継承」のCCライセンスを付与した写真素材が無断で使われた事件(東京地裁R4.7.13)〈著作権判例紹介〉

          漫画の表紙を参考にして同人誌の表紙を描いた事件(東京地裁R5.1.20)〈著作権判例紹介〉

           同人誌の表紙が漫画の表紙をトレースしているとして、出版社が損害賠償と同人誌の複製の差止めを求めた事案です。  出版社が持つ「出版権」は、著作物を「原作のまま複製する権利」であり、有形的に再製する行為に適用されます。しかし、創作的表現と認められない部分を同一性のあるものとして作成する行為や、著作物の表現上の本質的特徴を維持しつつ、修正・変更を加えて新たに思想や感情を創作的に表現する「翻案」行為には適用されません。  漫画の表紙と同人誌の表紙には多数の相違点があり、創作的表

          漫画の表紙を参考にして同人誌の表紙を描いた事件(東京地裁R5.1.20)〈著作権判例紹介〉

          艦これの同人誌のクレジットに無断で名前を入れた事件(神戸かわさき事変)(東京地裁R5.1.26)〈著作権判例紹介〉

           「艦これ」やゲームクリエイター・田中謙介氏に関するツイートをしていた男性が、同人誌即売会で田中氏の顔写真をプリントしたお面をかぶり、同人誌のクレジットに田中氏や運営会社の名前を無断で使用していました。これらの行為が、名誉毀損、パブリシティ権侵害、肖像権・名誉感情の侵害に当たるとして、田中氏と運営会社が訴えた事案です。 同人誌に「SPECIAL THANKS」として田中氏らの名称を記載した行為は、名誉毀損に当たる。 一部のツイートは名誉毀損に当たる。 田中氏のお面を被っ

          艦これの同人誌のクレジットに無断で名前を入れた事件(神戸かわさき事変)(東京地裁R5.1.26)〈著作権判例紹介〉

          日本画家の千住博が羽田空港で展示する作品のモチーフに「染描紙」を使った事件(東京地裁R5.3.15)〈著作権判例紹介〉

           日本画家の千住博が羽田空港から依頼され、手漉き和紙に刷毛で模様や色彩を施した「染描紙」をモチーフにした作品を制作、展示しました。染描紙の制作者が作品を無断で複製・翻案され、氏名を表示されなかったとして、損害賠償、展示の差止めを請求した事案です。  まず染描紙が著作物に当たるかが争われました。工芸作品の一部として使用されることが多いですが、模様や色彩の配置、刷毛や染料の選択に独自性があり、一般的な装飾用紙の範囲を超えた独創的な表現であり、著作物に当たると判示されました。

          日本画家の千住博が羽田空港で展示する作品のモチーフに「染描紙」を使った事件(東京地裁R5.3.15)〈著作権判例紹介〉

          『大阪ミナミの貧困女子』の原稿が改変された事件(大阪地裁R5.3.24)〈著作権判例紹介〉

          大阪・ミナミの夜の街で働く女性を支援する原告が、被告に原稿を依頼されましたが、改変により、当初のコンセプトとは異なる不本意な内容の書籍『大阪ミナミの貧困女子』が出版されました。これが著作者人格権(同一性保持権)、名誉および自己決定権の侵害に当たるとして、300万円の支払を求めた事案です。 裁判所は、原稿をやり取りしたLINEグループの履歴などを検討し、原告は改変された原稿の内容に同意したと判断。請求を棄却しました。 概要当事者: 原告(村上薫):記者として勤務すると共に

          『大阪ミナミの貧困女子』の原稿が改変された事件(大阪地裁R5.3.24)〈著作権判例紹介〉

          アパレルブランドが別のアパレルサイトの写真を無断掲載した事件(東京地裁R5.5.18)〈著作権判例紹介〉

           モデルでアパレルブランド経営者の原告が、別のアパレルブランド運営会社に対し、TwitterやInstagramに写真を掲載した行為が原告の著作権及び著作者人格権を侵害したとして、写真使用の差止めと損害賠償を求めた事案です。  使われた写真には、まったく同じものもあれば、一部をトリミングしたり、コラージュしたりしたものもありました。同じものや一部をトリミングしたものは複製権の侵害、コラージュしたものは翻案権の侵害とされました。  同一性保持権の侵害について、改変の程度が一

          アパレルブランドが別のアパレルサイトの写真を無断掲載した事件(東京地裁R5.5.18)〈著作権判例紹介〉