アパレルブランドが別のアパレルサイトの写真を無断掲載した事件(東京地裁R5.5.18)〈著作権判例紹介〉

 モデルでアパレルブランド経営者の原告が、別のアパレルブランド運営会社に対し、TwitterやInstagramに写真を掲載した行為が原告の著作権及び著作者人格権を侵害したとして、写真使用の差止めと損害賠償を求めた事案です。

 使われた写真には、まったく同じものもあれば、一部をトリミングしたり、コラージュしたりしたものもありました。同じものや一部をトリミングしたものは複製権の侵害、コラージュしたものは翻案権の侵害とされました。

 同一性保持権の侵害について、改変の程度が一見して分からないものは、通常の著作者であれば名誉感情を害されないため、同一性保持権の侵害とはいえないと判示されました。裁判所は写真の著作物性と著作権の侵害行為を認め、写真使用の差止めと237万円の支払いを命じました。

東京地裁令和5年5月18日
令和4年(ワ)第13979号 著作権侵害差止等請求事件


概要

  • 原告: アパレルブランド「ASCLO」を運営。韓国在住のモデル兼経営者。

  • 被告: 「BEEP」などのアパレルブランドを展開。

  • 請求: 被告がTwitterやInstagramに写真を掲載した行為は、原告の著作権及び著作者人格権を侵害するとして、写真使用の差止めと賠償金1541万円のを請求。

争点

1. 争点1(原告写真の著作物性)

  • 原告の主張:

  • 商品がより良く見えるように、撮影場所、ポージング、構図、服のコーディネート、カメラの角度、カメラの位置に工夫を凝らしている。思想・感情が創作的に表現され、著作物に当たる。

  • 被告の主張:

  • 単体の商品写真には「コーディネート」という要素が含まれないし、ありふれた撮影方法による写真が多く、創作性がないため、著作物には当たらない。

2. 争点2(原告写真の著作者及び著作権者・著作者人格権者)

  • 原告の主張:

  • 原告が撮影またはスタッフに指示して撮影させたもので、原告の個性が表れている。著作者は原告。

  • 被告の主張:

  • 撮影時期や原告自身が撮影したかについては不明。自撮り写真の被写体が原告かも不明。

  • スタッフが撮影した場合、著作権はスタッフに帰属する可能性がある。

3. 争点3-1(複製権及び翻案権侵害)

  • 原告の主張:

  • 被告写真は原告写真を単にデッドコピーしたもの(複製物)であり、複製権を侵害。

  • 一部切除して複数の写真を組み合わせたもの(翻案物)もあり、翻案権を侵害。

4. 争点3-2(公衆送信権及び送信可能化権侵害)

  • 原告の主張:

  • 原告写真の複製物または翻案物を不特定多数に送信可能な状態にしている。公衆送信権および送信可能化権を侵害。

5. 争点3-3(同一性保持権侵害)

  • 原告の主張:

  • 原告写真の一部が切除されたことで、意に反する改変が行われ、同一性保持権を侵害。

  • 被告の主張:

  • 通常の著作者であれば名誉感情を害さない程度の変更であれば改変にあたらない。商品のデザインを異なるものにするような改変ではない。

6. 争点3-4(氏名表示権侵害)

  • 原告の主張:

  • 写真掲載の際、原告の氏名を表示しておらず、氏名表示権を侵害。

7. 争点4(故意又は過失)

  • 被告の主張:

  • 第三者からの許可は不要と説明を受けており、原告写真が著作物であることを認識していなかった。故意又は過失はない。

8. 争点5(原告の損害額)

  • 原告の主張:

  • 著作権侵害による損害額は1300万9920円。

  • 同一性保持権および氏名表示権侵害による精神的苦痛の損害額は100万円。

裁判所の判断

  1. 争点1(原告写真の著作物性)および争点2(原告写真の著作者および著作権者・著作者人格権者)

    • 著作物性の判断

      • 写真は、被写体の選択、構図、カメラアングル、シャッターチャンスなどの要素により、撮影者の思想・感情が表現され、撮影者の個性が表れている場合に著作物と認められる。

      • 原告は、モデルや商品の撮影にあたり、撮影場所、ポージング、構図、服のコーディネート、カメラの角度や位置などを工夫している。

      • 原告写真は原告の著作物であり、原告は著作権および著作者人格権を有する。

  2. 争点3-1(複製権および翻案権侵害)

    • 定義

      • 複製:既存の著作物に依拠し、その内容・形式を覚知させるに足りるものを有形的に再製すること。

      • 翻案:既存の著作物に依拠し、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、修正を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現した別の著作物を創作すること。

      • 既存の著作物に修正が加えられても、その修正に創作性が認められない場合は、「翻案」ではなく「複製」。

    • 複製権侵害

      • 被告写真の一部は原告写真と全く同一で、その他の被告写真も原告写真の一部を切除したもの。

      • 原告写真を有形的に再製したもので、複製権の侵害。

    • 翻案権侵害

      • 被告写真の一部は原告写真に依拠し、表現の本質的特徴を維持しつつ修正されたもの。

      • 新たに創作的な表現が加えられたため、翻案権の侵害。

  3. 争点3-2(公衆送信権および送信可能化権侵害)

    • 原告写真の複製物または翻案物をインターネットに掲載したため、公衆送信権および送信可能化権を侵害。

  4. 争点3-3(同一性保持権侵害)

    • 改変の有無

      • 被告写真の一部は、原告写真を改変して別の著作物を創作したもので、同一性保持権を侵害。

      • ただし、改変の程度が一見して分からないものは、通常の著作者であれば名誉感情を害されないため、同一性保持権の侵害とはいえない。その判断は、著作物の性質、改変の箇所、改変の規模、改変の影響度に関するユーザーの認識等を総合的に考慮して、著作者の合理的な意思を検討して行う。

  5. 争点3-4(氏名表示権侵害)

    • 原告の氏名を表示せずに掲載し、氏名表示権を侵害。

  6. 争点4(故意又は過失)

    • 被告は、原告写真が著作物であることを認識すべきであり、十分な調査を行わなかった過失が認められる。

  7. 争点5(原告の損害額)

    • 著作権侵害による損害額:201万円(335枚×6000円)

    • る同一性保持権侵害に対する慰藉料:15万円

    • 弁護士費用:21万6000円

  8. 結論

    • 著作権および著作者人格権に基づき、写真の利用差止めおよび237万6000円の損害賠償を請求できる。


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