艦これの同人誌のクレジットに無断で名前を入れた事件(神戸かわさき事変)(東京地裁R5.1.26)〈著作権判例紹介〉

 「艦これ」やゲームクリエイター・田中謙介氏に関するツイートをしていた男性が、同人誌即売会で田中氏の顔写真をプリントしたお面をかぶり、同人誌のクレジットに田中氏や運営会社の名前を無断で使用していました。これらの行為が、名誉毀損、パブリシティ権侵害、肖像権・名誉感情の侵害に当たるとして、田中氏と運営会社が訴えた事案です。

  • 同人誌に「SPECIAL THANKS」として田中氏らの名称を記載した行為は、名誉毀損に当たる。

  • 一部のツイートは名誉毀損に当たる。

  • 田中氏のお面を被った行為は、肖像権・名誉感情の侵害に当たる。

  • お面とデータを廃棄する必要性がある。

 裁判所は上記のように判断し、被告に対して、田中氏に275万円、会社に165万円の支払、お面の複製及び頒布の差止め、データの廃棄を命じました。

東京地裁令和5年1月26日
令和3年(ワ)第11118号 損害賠償等請求事件


概要

  1. 当事者

    • 原告会社: 「艦隊これくしょん-艦これ-」を開発・運営。

    • 原告A: 原告会社の代表取締役、ゲームクリエイター。

  2. 被告の行為

    • ツイッター投稿: 2020年5月~8月、キャラクターに関する卑猥なツイートなど、艦これに関する一連の投稿を行った。

    • 同人誌即売会: 2020年8月16日、同人誌即売会で原告Aの顔写真を使ったお面を着用。キャラクターを性玩具に見立てた同人誌を頒布。同人誌のクレジット表記に原告らの名称を表示。

  3. 原告らの主張

    • 名誉毀損: 原告らの名誉を毀損し、社会的評価を低下させた。

    • パブリシティ権侵害: 原告Aの肖像を無断で使用し、顧客吸引力を狙った。

    • 肖像権及び名誉感情の侵害: 原告Aの肖像を無断で使用し、名誉感情を傷つけた。

    • 請求: 計1100万円の損害賠償、謝罪広告の掲載、お面の複製の差止めとデータの廃棄。

争点

  1. 名誉毀損(争点1-1)

    • 原告らの主張

      • 同人誌の内容およびクレジット表記が原告らの名誉を毀損。

    • 被告の主張

      • 同人誌の性質上、一般読者はクレジット表記を見ても著作権者が内容を承認しているとは思わない。

  2. パブリシティ権侵害(争点1-2)

    • 被告の主張

      • 原告Aの肖像には顧客吸引力があるほどの周知性はなく、広告として利用したとはいえない。

  3. 肖像権及び名誉感情の侵害(争点1-3)

    • 被告の主張

      • 原告Aの肖像権および名誉感情を侵害するものではない。

  4. ツイートによる名誉毀損(争点2)

    • 原告らの主張

      • 被告のツイートが原告らの名誉を毀損し、社会的評価を低下させた。

    • 被告の主張

      • 一般読者の観点から、原告らの社会的評価は低下しない。

  5. ツイートによる肖像権及び名誉感情の侵害(争点3)

    • 原告Aの主張

      • 被告のツイートは社会通念上許容される限度を超える侮辱行為で、肖像権および名誉感情を侵害した。

  6. お面とそのデータ廃棄等の必要性(争点4)

    • 原告Aの主張

      • 将来的にも権利侵害を行う恐れがあり、差止めとデータ廃棄が必要。

  7. 原告らの損害及びその額(争点5)

    • 被告の主張

      • 被告の行為の規模や影響の小ささを考慮すべき。

  8. 謝罪広告の必要性(争点6)

    • 原告らの主張

      • 損害は金銭賠償だけでは回復できず、謝罪広告が必要。

裁判所の判断

1. 名誉毀損(争点1-1)

  • 同人誌には「SPECIAL THANKS」として原告らの名称、原作欄に「艦これ」の名称が表示。

  • 一般的な読者は、同人誌の内容から原告らが制作に関与しているとは考えにくいが、ガイドラインが抽象的なため、同人誌が許容範囲内であると誤解される可能性がある。

  • 原告会社の社会的評価が低下する可能性がある。原告Aもプロデューサーとして著名なため、社会的評価が低下する可能性がある。

  • 同人誌に「SPECIAL THANKS」として名称を記載した行為は、名誉毀損に当たる。

2. パブリシティ権侵害(争点1-2)

  • 原告Aの肖像に顧客吸引力がある証拠が不足。

  • 粗雑な作りのため、顧客吸引力の利用目的と認められない。

3. 肖像権及び名誉感情の侵害(争点1-3)

  • 肖像権侵害の成否

    • 粗雑なお面であっても、専ら原告Aを揶揄する目的で使用されている。

    • 自己の容貌をみだりに公開されないことについての人格的利益を侵害し、社会生活上受忍すべき限度を超えており、肖像権の侵害。

  • 名誉感情の侵害

    • 社会通念上許される限度を超える侮辱行為であり、名誉感情の侵害。

4. ツイートによる原告らの名誉毀損(争点2)

  • 原告会社の運営する店舗を「キャバカレー」と呼び、違法風俗店として摘発されたという内容の画像を、実在のニュース映像風に表現して投稿した。

  • 原告Aが違法な風俗店の経営で逮捕されたという印象を与えるもので、原告らの社会的評価を低下させ、名誉を毀損している。

  • キャラクターの卑猥なツイートは、名誉毀損とは認められない。

  • 被差別部落に関する投稿は、名誉毀損とは認められない。

5. ツイートによる原告Aの肖像権及び名誉感情の侵害(争点3)

  • 肖像権の侵害

    • 原告Aの顔写真を揶揄する目的で使用し、肖像権侵害。

  • 名誉感情の侵害

    • 原告Aに対する侮辱行為であり、名誉感情の侵害。

7. お面とそのデータ廃棄等の必要性(争点4)

  • お面及びそのデータの廃棄は必要。

8. 原告らの損害及びその額(争点5)

  • 原告Aの損害

    • 名誉毀損、肖像権侵害、名誉感情の侵害による損害額は計275万円。

  • 原告会社の損害

    • 名誉毀損による損害額は計165万円。

9. 謝罪広告の必要性(争点6)

  • 損害は金銭賠償で回復可能。謝罪広告の必要性はない。

結論

  • 原告Aの請求

    • 275万円、お面の複製及び頒布の差止め、データの廃棄。

  • 原告会社の請求

    • 165万円。



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