金魚電話ボックス事件(第一審)(奈良地裁R1.7.11)〈著作権判例紹介〉
電話ボックスの内部に水を満たし金魚を泳がせたアート作品について、それとよく似た作品が大和郡山市に設置されました。この作品が著作権を侵害しているとして、アーティストが作品の廃棄や損害賠償を請求した事案です。
裁判所はまず原告作品の著作物性について検討し、①電話ボックスを水槽に見立てて中で金魚を泳がせた点、②受話器部分から気泡を出す仕組みの点は、いずれも「アイデア」であり、著作権保護の対象外としました。一方、造形物の形状や電話機の表現には著作物性があるとしました。
しかし、原告作品と被告作品の共通点においては、創作性が認められず、原告作品の著作権が侵害されたとは認められないと判断し、原告の請求を棄却しました。
概要
概要
原告: 芸術家。平成12年、四面ガラス張りの公衆電話ボックスを模した造形物の内部に水を満たし、金魚を泳がせた作品(原告作品)を制作。
被告: 奈良県大和郡山市の団体と個人。京都造形芸術大学の学生団体が平成23年に作品を発表、平成26年に同市内に「金魚電話ボックス」として常設展示された。
被告作品は、原告作品を複製し、著作権を侵害していると主張。
原告は、著作権に基づき、制作差止め、水槽及び公衆電話機の廃棄、損害賠償330万円を請求。
前提事実
原告作品は、垂直方向に長い直方体の水槽であり、公衆電話ボックスの形状を模し、水中に金魚を泳がせ、受話器部分から気泡を発生させる作品。
被告作品は、実際の公衆電話ボックスを利用し、水槽内に金魚を泳がせ、受話器から気泡を発生させる作品。
争点
原告作品の著作物性
原告の主張: 公衆電話ボックスを模した独自の作品で、著作物性が認められる。
被告の主張: 公衆電話ボックスに金魚を入れるという発想はアイディアであり、著作物性は認められない。
被告作品による著作権侵害の有無
原告の主張: 被告作品は原告作品と同一性があり、依拠性が認められる。
被告の主張: 原告作品を認識していない。
差止めの必要性
原告の主張: 再度侵害の恐れがあるため、差止めが必要。
被告の主張: 既に撤去されており、差止めの必要性はない。
損害の有無および額
裁判所の判断
争点1(原告作品の著作物性)
著作権法は、思想または感情を創作的に表現したものを著作物とし、表現されていないアイディアや創作性のないものは保護の対象外。
原告作品の基本的な特徴は、①公衆電話ボックスを水槽にして金魚を泳がせる、②受話器部分から気泡を出す仕組み。
①はアイディアであり、表現ではないため著作権法上保護されない。
②はアイディアを実現するための合理的な方法であり、創作性が認められない。
他方、原告作品の具体的な色・形状、設置された公衆電話機の種類・色・配置には創作性が認められるため、著作物と認められる。
争点2(被告作品による原告作品の著作権侵害の有無)
共通点
公衆電話ボックスを模した造作物内部に水を満たし、金魚を泳がせている。
受話器部分が浮かび、気泡を発生させている。
相違点
原告作品は黄緑色の屋根、被告作品は赤色の屋根。
原告作品は公衆電話ボックスを使用せず制作、被告作品は実際の公衆電話ボックスを使用。
原告作品は黄緑色の公衆電話機、被告作品は灰色の公衆電話機。
検討
著作権法は、思想やアイディアではなく創作的な表現を保護。
原告の主張する同一性はアイディアに関するものであり、保護の対象外。
具体的表現内容についても、原告作品と被告作品の同一性は認められない。
被告作品によって原告作品の著作権が侵害されたとは認められない。
結論
請求棄却。
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