金魚電話ボックス(第二審)(大阪高裁R3.1.14)〈著作権判例紹介〉

 金魚電話ボックスの第二審です。第一審では原告の請求が棄却されましたが、高裁では逆転しました。

 大阪高裁は、公衆電話の送受器が外されて水中に浮いた状態で固定され、その受話部から気泡が発生している点に創作性を認め、原告作品は著作物性を有すると判断しました。

 被告作品による著作権(翻案権)侵害を認めて原判決を変更し、被告作品の制作差止め、廃棄、賠償金55万円の支払いを被控訴人らに命じました。

大阪高裁令和3年1月14日
令和元年(ネ)第1735号 著作権に基づく差止等請求控訴事件
(原審・奈良地裁平成30年(ワ)第466号)


争点

  1. 原告作品の著作物性

    • 控訴人の主張: 素材の選定、構成、文脈、位置付けにより創作性があり、著作物性が認められる。

    • 被控訴人の主張: 「公衆電話ボックスの中に金魚を遊泳させる」という発想はアイデアに過ぎず、著作権法の保護対象ではない。公衆電話ボックスや金魚の形状は限定されており、誰が表現しても同様の表現になる。

  2. 著作権(複製権または翻案権)の侵害の有無

    • 控訴人の主張: 本質的な特徴の同一性があり、被告作品は原告作品を複製または翻案したもの。

    • 被控訴人の主張: 共通点はアイデアに過ぎず、創作性が認められない。色や素材の違いにより、著作権侵害は成立しない。

  3. 著作者人格権の侵害の有無

    • 控訴人の主張: 氏名を表示せず、作品の改変が控訴人の同一性保持権を侵害。

    • 被控訴人の主張: 原告作品は著作物ではなく、著作者人格権の侵害は成立しない。

  4. 被控訴人らの故意・過失の有無

    • 控訴人の主張: 原告作品に依拠して被告作品を制作している。

    • 被控訴人の主張: 原告作品の存在及び内容を認識していなかった。

  5. 控訴人の損害及びその額

裁判所の判断

1. 認定事実

  • 原告作品の詳細

    • 構造:

      • 公衆電話ボックスに酷似し、控訴人が一から制作。

      • アクリルガラス製の側面と黄緑色の屋根。

      • 公衆電話機は水中に固定され、受話器から気泡が発生。

      • 金魚の数は展示ごとに変動し、多くて150匹程度。

      • 水は電話ボックス全体を満たさず、上部に空間がある。

    • 展示歴:

      • 1998年に初めて発表。以降、複数の美術展で展示。メディアにもたびたび取り上げられる。

  • 被告作品の詳細

    • 構造:

      • 実際に使用されていた公衆電話ボックスの部材を利用。

      • アクリルガラス製の側面と赤色の屋根。

      • 公衆電話機と棚は異なる形状と色(灰色の公衆電話機、二段の棚)。

      • 受話器から気泡が発生。

      • 水は電話ボックス全体を満たす。

    • 展示経緯:

      • 「テレ金」という作品名で2011年に展示され、2014年に大和郡山市の喫茶店で展示開始。2018年に撤去。

2. 争点1(著作物性)

  • 著作物の要件:

    • 著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したもの」。

    • 表現には創作性が必要であり、ありふれた表現や選択の幅が狭い表現には創作性が認められない。

  • 原告作品の著作物性:

    • 水の満たし方: 水を満たす量の選択幅が狭く、創作性が認められない。

    • アクリルガラス: 縦長の蝶番の不在は目立たず、創作性が認められない。

    • 金魚の数と色: 50匹から150匹程度の赤色の金魚を泳がせることはありふれた表現で、創作性が認められない。

    • 受話器の浮遊と気泡: 受話器が水中に浮き、気泡が発生する表現には創作性があり、個性が発揮されている。

  • 評価:

    • 第1点から第3点のみでは創作性は認められないが、第4点を加えることで創作性が認められる。

    • 水槽としての電話ボックス内で金魚が泳ぎ、受話器から気泡が発生する表現は創作性を有し、美術の著作物として認められる。

    • 公衆電話ボックスと金魚を組み合わせた作品が多く見られるが、原告作品の発表以前から存在していた証拠はなく、後の影響によるものと考えられるため、原告作品はありふれたものではない。

3. 争点2(著作権侵害)

  • 同一性又は類似性

    • 共通点

      • 公衆電話ボックス様の造作水槽に水が入れられ、水中に赤色の金魚が50匹から150匹程度泳いでいる。

      • 公衆電話機の受話器がハンガー部から外されて水中に浮いた状態で固定され、受話部から気泡が発生している。

    • 相違点

      • 公衆電話機の機種が異なる。原告作品は黄緑色、被告作品は灰色。

      • 電話ボックスの屋根の色が、原告作品は黄緑色、被告作品は赤色。

      • 公衆電話機の下の棚が、原告作品は1段の正方形、被告作品は2段で上段は正方形、下段は三角形に近い六角形。

      • 原告作品では水が電話ボックス全体を満たしておらず上部に空間が残されているが、被告作品では水が電話ボックス全体を満たしている。

      • 被告作品は展示開始当初、アクリルガラスの一面に縦長の蝶番を模した部材が貼り付けられていた。

    • 共通点と相違点の評価

      • 共通点は原告作品の表現上の創作性のある部分と重なる。

      • 相違点は、原告作品の表現上の創作性のない部分に関係するため、共通点の存在を重視すべき。

      • 被告作品は、原告作品の表現上の創作性のある部分を再製しており、新たな思想や感情を創作的に表現したものではないため、複製とみなされる。

  • 依拠について

    • 被控訴人は原告作品の存在を知り、それを基に被告作品を制作したと認定。

4. 争点3(著作者人格権侵害)

  • 氏名表示権侵害

    • 被控訴人らは控訴人の氏名を表示せずに被告作品を展示。

  • 同一性保持権侵害

    • 被告作品は公衆電話機や屋根の色が異なり、原告作品の意に反する改変。

5. 差止請求及び廃棄請求の必要性

  • 被告作品は再制作の可能性があり、制作差止めと廃棄請求が必要。

6. 故意、過失

  • 被控訴人らには少なくとも過失があった。

7. 結論

  • 控訴人の請求のうち、被告作品の制作差止め、廃棄、損害賠償55万円が認められる。原判決を変更。

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