漫画の表紙を参考にして同人誌の表紙を描いた事件(東京地裁R5.1.20)〈著作権判例紹介〉
同人誌の表紙が漫画の表紙をトレースしているとして、出版社が損害賠償と同人誌の複製の差止めを求めた事案です。
出版社が持つ「出版権」は、著作物を「原作のまま複製する権利」であり、有形的に再製する行為に適用されます。しかし、創作的表現と認められない部分を同一性のあるものとして作成する行為や、著作物の表現上の本質的特徴を維持しつつ、修正・変更を加えて新たに思想や感情を創作的に表現する「翻案」行為には適用されません。
漫画の表紙と同人誌の表紙には多数の相違点があり、創作的表現が含まれるため、出版権の侵害はないとして、請求を棄却しました。
概要
原告: 出版社。
B: 漫画の作者。
被告: ペンネーム「A」で二次創作同人誌を発行。
請求: 同人誌の表紙・中表紙が漫画の表紙を複製しており、出版権を侵害しているとして、65万円と同人誌の複製の差止めを請求。
争点
争点1(複製の成否)
原告の主張: 同人誌の表紙は漫画の表紙に依拠して作成され、実質的に同一。
被告の主張: 多数の相違点があり、同一ではない。Twitterで知り合ったDから提供された画像を基に作成し、漫画の存在を知らなかった。
争点2(被告の故意又は過失)
原告の主張: 被告には他人の著作権を侵害しないように注意すべき義務があった。
被告の主張: Dから提供された画像を使用した。
争点3(損害の発生及びその額)
原告の主張: 漫画の販売総額は50万円、利益率は90%で、損害額は45万円。
争点4(差止めの必要性)
原告の主張: 被告が複製を否定しており、今後も発行する恐れがある。
被告の主張: 現在同人誌を販売しておらず、今後も販売する意思がない
裁判所の判断
前提事実
出版権の範囲:
原告はBとの出版契約で漫画の出版権を取得した。
出版権は著作物を「原作のまま複製する権利」。
創作的表現ではない部分と同一性のあるものを作成する行為には及ばない。
著作物の表現上の本質的特徴を維持しつつ修正・変更を加える「翻案」にも及ばない。
翻案とは、著作物の表現上の本質的特徴を保持しながら、新たに思想や感情を創作的に表現すること。
漫画と同人誌との相違点
髪型: 髪型が短い/長い
耳の飾り: 右耳に飾りがない/右耳にピアスがある
髪の描写: 髪に自然なウェーブがある/束になって直線的に切り揃えられている
瞳と眉毛の形: 瞳は楕円形で眉毛が細い/円形で眉毛が太い
口の描写: 口をほとんど開けていない/口を開けて歯が見える
服装の違い: 学生服を来ている/異なる服を着ている
被告の創作意図
被告は、自身の知識や経験を基に、同人誌のストーリーやキャラクター設定を考慮しつつ、表紙を作成した。
相違部分は、キャラクターの外見を特徴付ける表現であり、その割合は小さくない。
相違部分はありふれた表現ではなく、被告の創作的表現が含まれる。
被告表紙等の評価
共通部分に創作的表現がない場合: 漫画の表紙の創作的表現がない部分と同一性があるにすぎない。
共通部分に創作的表現がある場合: 新たに創作的表現を加えて、漫画の表紙を「翻案」したと言える。
どちらの場合も、漫画の表紙を「原作のまま複製」したものとは認められず、原告の出版権を侵害していない。
結論
請求棄却。
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