「表示—継承」のCCライセンスを付与した写真素材が無断で使われた事件(東京地裁R4.7.13)〈著作権判例紹介〉
原告は浴衣の写真をFlickrに投稿し、「表示—継承」のクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)を付与しました。ホームページ制作の外注会社がその写真を写真素材サイトで見つけ、「DOWNLOAD FOR FREE」と書かれていたので、著作者の名前を載せなくても自由に使用できると思い、ホームページに使用しました。
「DOWNLOAD FOR FREE」とは書かれていても、写真素材サイトには「License:Attribution-ShareAlikeLicense」(使用許諾:表示-継承使用許諾)と明記されていました。被告は「ホームページを制作したのは外注会社だ」、「英語表記が分かりにくい」と反論しましたが、いずれも認められませんでした。
被告がホームページに写真を掲載した行為は、写真の複製権、公衆送信権、氏名表示権の侵害に当たるとして、裁判所は15万円の支払いを命じました。
東京地裁令和4年7月13日
令和3年(ワ)第21405号 著作権侵害差止等請求事件
概要
原告: 写真の撮影者。
被告: 古物売買業者。
写真: 花模様の薄黄緑色の浴衣の上に、深い青紫色の帯を重ねて撮影したもの。被写体やライティングの選択に創作的な表現があり、「写真の著作物」に当たる。
CCライセンス: 原告は写真をFlickrに投稿。「表示—継承」のCCライセンス)を付与し、著作者表示を条件に使用を許可した。
請求: 原告の名前を載せずに写真を無断で自社サイトに使用し、著作権および氏名表示権を侵害したとして、損害賠償と写真使用の差止めを請求。
争点
著作権および著作者人格権の侵害(争点1)
原告の主張: 無断で写真を複製・公衆送信し、著作権を侵害した。
被告の主張: サイトを作成したのは外注会社で、被告に責任はない。
故意または過失(争点2)
原告の主張: VisualHunt(写真素材サイト)には、「DOWNLOADFORFREE」と書かれたボタンがあるものの、「Copyandpastethiscodeunderphotooratthebottomofyourpost」(写真の下または掲載下部にこのコードを複製し貼り付けよ)との指示がある。「License:Attribution-ShareAlikeLicense」(使用許諾:表示-継承使用許諾)との表記もある。
被告の主張: 「DOWNLOADFORFREE」と書かれ、自由に使用できる写真だと誤認する状態にあった。使用許諾の条件は英文で分かりにくく、過失はない。
損害の発生および額(争点3)
原告の主張: ライセンス料相当額として23万9734円、氏名表示権侵害による慰謝料として5万円。
使用許諾の有無(争点4)
被告の主張: VisualHuntには写真はフリー素材だと記載されていた。
原告の主張: VisualHunt上でもCCライセンスの条件を守らない使用は許諾していない。
差止めの必要性(争点5)
裁判所の判断
争点1:著作権および著作者人格権の侵害
被告は自社サイトの作成を外注会社に依頼。外注会社はVisualHuntから写真をダウンロードし、そのデッドコピーをサーバーに保存。
画像は被告のウェブサイトに掲載され、原告の著作者表示はなかった。
この行為が、写真の複製権、公衆送信権、氏名表示権の侵害であると認定。
外注会社に依頼したとしても、ウェブサイト制作・運営の最終的な利益帰属は被告にある。
争点2:故意または過失
VisualHuntのページには「DOWNLOADFORFREE」との表示があったが、使用条件についても明示されていた。
通常、VisualHuntのページを見た者は、著作権と著作者表示の条件を認識することができるため、過失があったと認定。
被告の「英文で分かりにくい」との主張は、インターネット上で容易に翻訳できるため、認められない。
争点3:損害の発生および額
使用料相当額
日本写真家ユニオンの使用料規程を参照。
商用広告目的でウェブページのセカンダリーページに写真を掲載する場合の使用料は、12か月以内で5万円、次年度以降は1年ごとに2万円。
慰謝料
サイト上に画像が3年2か月間掲載されていたこと、サイトの閲覧者数が207と少ないことなどを考慮し、慰謝料は3万円。
争点4:使用許諾の有無
原告が無条件に使用を許諾したことはない。
争点5:差止めの必要性
被告が写真の掲載を中止し、法令を遵守する意向を示していることから、差止めの必要性はない。
結論
15万円の範囲で請求を認容。
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