映画『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』の主人公の名前が小説から無断で使用された事件(東京地裁R5.10.20)〈著作権判例紹介〉
「小説ドラゴンクエストV」作者の久美沙織さんが、映画「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」で主人公の名前「リュカ」を無断で使用されたことが著作権侵害に当たるとして、スクウェア・エニックスや東宝などを訴えました。
裁判所は、キャラクターの名称は創作的な表現とは言えず、著作物には当たらないとして、請求を棄却しました。
東京地裁令和5年10月20日
令和3年(ワ)第27154号 名誉回復措置等請求事件
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=92614
概要
当事者
原告: 小説家。「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」を題材にした小説を執筆。被告スクウェア・エニックスと協議しながら執筆した。
被告ら: 映画「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」の製作委員会の構成員。
主人公の名前
ゲームの主人公の名前は、プレイヤーが任意に設定する仕様。
原告は、小説の主人公の名前を「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」(通称「リュカ」)と設定。
映画「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」で「リュカ」という名前が使用されるが、原告は許諾していない。
争点
キャラクターの名称に著作物性が認められるか
原告の主張: キャラクターの名称は創作されたもので、著作物性がある。
被告の主張: キャラクターの名称は著作物ではなく、創作性も認められない。
協議義務の違反
原告の主張: 出版契約によれば、映画等で二次使用する際に協議する義務がある。
被告の主張: 協議義務は存在しない。
債権侵害の不法行為
原告の主張: 協議せずに名称を使用したことは債権侵害の不法行為。
損害
原告の主張: 著作権侵害による精神的苦痛に対する慰謝料として200万円。
謝罪広告の必要性
原告の主張: 名誉回復措置として謝罪広告を掲載する必要がある。
裁判所の判断
キャラクターの名称に著作物性が認められるか(争点1)
著作物の定義: 著作権法上、「思想又は感情を創作的に表現したもの」が著作物。
裁判所の判断:
人物の名称は特定のための符号で、創作的な表現とは言えない。
正式名称(リュケイロム・エル・ケル・グランバニア)は人物の出身国名を含むが、特定の符号として用いられている。
通称(リュカ)も特定の符号として用いられている。
小説中の特定の場面で名称が重要な役割を果たしていても、名称自体が著作物となるわけではない(参考:ポパイネクタイ事件(最高裁平成9年7月17日))。
結論: 名称は著作物には当たらない。
協議義務の違反及び債権侵害の不法行為について(争点2、3)
出版契約の内容:
出版契約書には、二次的に使用される場合、著作権使用料等について協議する旨が記載。
名称についての協議義務は、名称が著作物であることを前提としている。
裁判所の判断:
名称は著作物でなく、名称のみを第三者が利用することは著作権侵害には当たらないため、協議義務は生じない。
結論: 協議義務違反、債権侵害の不法行為の主張には理由がない。
結論
請求棄却。
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