おみくじ無断複製事件(東京地裁R3.1.26)〈著作権判例紹介〉
原告が作ったおみくじとほぼ同じ内容のおみくじを被告が作成・販売したことが、複製権・翻案権、同一性保持権の侵害に当たるとして、損害賠償とおみくじの販売の差止めを請求した事案です。
おみくじの内容に創作性があり、表現の本質的な特徴が同じであるとして、複製権の侵害、同一性保持権の侵害が認められました。その上で、著作権法114条の推定規定を用い、おみくじの売上から原告の損害額を算定し、672万8590円の損害賠償が認められました。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/086/090086_hanrei.pdf
概要
原告: 中国思想研究者。
被告: おみくじを業として販売。
平成21年、「開運推命おみくじ」の著作権侵害を理由に差止請求訴訟を提起、和解が成立。被告は和解成立後も無許可で複製販売を継続していたが、2017年3月に再び和解が成立。
開運推命おみくじを寺院が参拝客に販売するためには、購入者の生年月日や性別に基づいて、1番から100番のおみくじのどれを配布するかを決める「年表」が必要で、「年表」は毎年更新される。
被告は、新たな四柱推命研究家におみくじの作成を依頼。
争点
争点1: 著作権および著作者人格権の侵害
原告の主張
複製権・譲渡権侵害: 和解後も原告のおみくじを複製販売し、原告の複製権・譲渡権を侵害。
翻案権・複製権・譲渡権侵害: 被告のおみくじの文言は原告のおみくじと表現の本質的な特徴が同じで、複製または翻案に該当。
同一性保持権侵害: 被告のおみくじは原告のおみくじの内容を改変しており、同一性保持権を侵害。
被告の主張
複製権・譲渡権侵害: 2017年4月以降、原告のおみくじを複製販売していない。
翻案権・複製権・譲渡権侵害: 被告のおみくじは被告が独自に作成したもので、複製または翻案ではない。
同一性保持権侵害: 被告のおみくじは被告が独自に作成したもので、改変ではない。
争点2: 損害額
原告の主張
損害額の算定:
著作権法114条1項: 損害額は1,757万0140円と推定。
著作権法114条2項: 損害額は1,657万5680円と推定。
著作者人格権侵害による慰謝料: 50万円。
被告の主張
損害額の推定覆滅事由: 業務態様の違い、競合品の存在、被告の営業努力などから、推定される損害額は不適当。
争点3: 差止めおよび廃棄の必要性
原告の主張: 被告は繰り返し著作権を侵害しており、差止めと廃棄が必要。
裁判所の判断
争点1(著作権および著作者人格権の侵害について)
著作権侵害について
被告のおみくじは原告のおみくじと共通点が多く、軽微な変更や追加のみで、原告のおみくじに依拠して作成された。
被告のおみくじの作成は、複製権を侵害。
著作者人格権侵害について
被告のおみくじの内容は、原告のおみくじの表現に改変を加えたもので、著作者人格権(同一性保持権)を侵害。
争点2(原告の損害額について)
被告には、複製権および同一性保持権の侵害について過失があった。
損害額の算定
原告は、被告が販売するおみくじと競合する商品を販売している。
原告のおみくじ1枚当たりの利益は70円。
被告の譲渡数量は、D寺へ81117枚、C寺へ720枚、E寺へ0枚。
損害額は、5,728,590円。
著作者人格権侵害による慰謝料は50万円。
弁護士費用は50万円。
合計損害額は、6,728,590円。
争点3(差止めおよび廃棄の必要性について)
将来的な権利侵害のおそれが否定できず、差止請求が認められる。
原告が著作権を有するおみくじの翻案、改変についての差止請求が認められる。
結論
原告のおみくじを複製、翻案、譲渡してはならない。
被告のおみくじを複製、譲渡してはならない。
原告のおみくじを改変してはならない。
原告および被告のおみくじの複製物と印刷用データを廃棄せよ。
原告に672万8590円を支払え。
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