「月刊歌の手帖」が部数を過少申告し、JASRACが1億4000万円を請求した事件(東京地裁R2.12.10)〈著作権判例紹介〉

 カラオケ愛好家向けの歌謡情報誌「月刊歌の手帖」を発行していた会社が、20年以上にわたって部数を過少に申告していました。利用許諾範囲を超える部数を無断で発行し、JASRACが管理する歌詞などの著作権を侵害したとして、JASRACが約1億4000万円の損害賠償を請求した事案です。

 JASRACの主張が全面的に認められ、約1億4000万円の支払いが命じられました。

東京地裁令和2年12月10日
平成30年(ワ)第39933号 損害賠償等請求事件
令和元年(ワ)第35655号 損害賠償請求反訴事件


概要

本訴

  1. 原告: 音楽著作権に関する著作権等管理事業者。

  2. 被告: カラオケ愛好家向けの歌謡情報誌「月刊歌の手帖」を発行していた出版社。

  3. 雑誌の発行・販売:

    • 被告は「月刊歌の手帖」を1993年から2018年まで発行・販売。発行部数を1万部と申告。

    • 原告が監査を実施。2012年から2017年までの発行部数が約3万部と判明。

    • 被告は歌の手帖社に事業を譲渡。2018年以降、「月刊歌の手帖」は歌の手帖社が発行・販売。

  4. 本訴請求:

    • 被告の部数の過少申告により、利用許諾範囲を超える部数を無断で発行・販売し、著作権を侵害したと主張。

    • 使用料相当損害金など約1億4000万を請求。

  5. 反訴請求:

    • 原告が正当な理由なく歌の手帖社の利用許諾申請を拒絶し、歌の手帖社を紛争に巻き込み、被告は業務委託契約を継続できなくなり、委託料の支払を受けられなくなった。

    • 委託料6年分など約1億円を請求。

争点

1. 争点1-1(本件雑誌の超過部数発行の有無)

  • 原告の主張:被告は1998年から2018年まで、毎号1万部発行と過少申告していた。

  • 被告の主張:2012年から2017年まで約3万部を発行していたことを認めるが、20年以上過少申告や無断発行を行ったことはない。

2. 争点1-2(本件雑誌の超過部数発行に対する承諾の有無)

  • 被告の主張:被告は1万部を超える発行に対して月額約50万円の使用料を支払っており、原告もこれを認識し容認していた。

  • 原告の主張:被告が無断で発行部数を増やしていた。

3. 争点1-3(原告の損害額)

4. 争点1-4(本件債務の一部についての消滅時効の成否)

  • 被告の主張:原告は被告の著作権侵害を知っていたため、訴訟提起日の直近3年分以前の発行分は消滅時効が成立。

5. 争点2-1(原告の不法行為の成否)

  • 被告の主張:原告が歌の手帖社名義の利用許諾申請を正当な理由なく拒絶し、被告と歌の手帖社との関係を悪化させたことは不法行為。

  • 原告の主張:原告は歌の手帖社名義の利用許諾申請を拒絶していない。

6. 争点2-2(被告の損害額)

裁判所の判断

争点1(被告の不法行為責任)

  1. 争点1-1(本件雑誌の超過部数発行の有無)

    • 被告は毎号1万部と申告しながら、実際には1998年から2018年まで1万部を超える部数を発行していた。

  1. 争点1-2(本件雑誌の超過部数発行に対する承諾の有無)

    • 被告は、多額の使用料を支払っており、原告が超過部数発行を黙示的に承諾していたと主張。

    • 原告はこれを否定し、証拠もないため、被告の主張は認められない。

  2. 争点1-3(原告の損害額)

    • 被告の不法行為による損害は、計1億4443万1632円。

  3. 争点1-4(本件債務の一部についての消滅時効の成否)

    • 被告は消滅時効を主張するが、原告が著作権侵害の事実を知っていた証拠がなく、被告の主張は認められない。

争点2(原告の不法行為責任)

  1. 争点2-1(原告の不法行為の成否)

    • 被告は、原告が著作権等管理事業法に反し、正当な理由なく歌の手帖社名義の利用許諾申請を拒絶し、不法行為を構成すると主張。

    • 原告には正当な理由があり、訴訟提起も相当性を欠くものではないため、被告の主張は認められない。

結論

  • 原告の本訴請求は認容され、被告の反訴請求は棄却。

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