訴状を第1回口頭弁論期日前にブログで公表した事件(東京地裁R3.7.16)〈著作権判例紹介〉

 名誉毀損訴訟の被告が、届いた訴状を第1回口頭弁論期日の前にブログにアップロードした事案です。

 訴状が著作物であること、訴訟代理人が著作権を有することについては争いがありません。裁判の公開の原則(憲法82条)等から、訴状を公開する行為は著作権侵害に当たるのかが争われましたが、結論として著作権侵害に当たるとされました。

 公衆送信権の侵害については、財産権の侵害であるため、特段の事情がない限り慰謝料は認められないと判示しました。一方、公表権の侵害については、慰謝料を認めたものの、訴状はその性質上陳述を前提とする書面であること等を考慮し、その額は2万円としました。

東京地裁令和3年7月16日
令和3年(ワ)第4491号 損害賠償請求事件


概要

  • 原告: 別件の名誉毀損訴訟の代理人弁護士。

  • 被告: 別件訴訟の被告の一人。第1回口頭弁論期日の前に、原告に無断で、別件訴訟の訴状を自らのブログで公表した。

  • 被告の行為が著作権(公衆送信権)、著作者人格権(公表権)の侵害に当たるとして、慰謝料を請求。

  • 訴状が著作物であること、原告が著作権を有することには争いがない。

  • 公開から3ヶ月後、第1回口頭弁論期日で訴状は陳述された。

争点

争点1: 著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(公表権)侵害

  • 被告の主張:

    • 裁判の公開の原則(憲法82条)と民事訴訟法91条1項から、情報非公表の期待は低い。

    • 重大な秘密がある場合は閲覧制限を申請すれば足りる(同法92条1項)。

争点2: 著作権法40条1項の類推適用又は準用

  • 被告の主張:

    • 訴状は裁判手続きでの陳述が予定されているため、40条1項の類推適用により自由利用が認められる。

    • 仮に未陳述の訴状に適用されないとしても、第1回口頭弁論期日で陳述されたため、瑕疵は遡及的に治癒された。

  • 原告の主張:

    • 40条1項は公開の陳述に限るため、未陳述の訴状の自由利用は認められない。

    • 訴状が陳述されたからといって、未陳述の段階での利用の違法性が治癒されることはない。

争点3: 著作権法41条(時事の事件の報道のための利用)の適用の

  • 被告の主張:

    • 別件訴訟の提起は「時事の事件」に該当し、被告は報道の主体となり得る。

    • 訴状の公表は事件の正確な報道のために必要不可欠であり、範囲も限定的。

  • 原告の主張:

    • 私的な紛争の一方的な発信であり、公共性や公共目的がない。

争点4: 別件訴状の公表に関する原告の同意

  • 被告の主張:

    • 訴状は公開の陳述を前提に作成された。公表に黙示的に同意していた。

争点5: 原告に生じた損害の有無及び額

裁判所の判断

争点1: 著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(公表権)侵害

  • 訴状を複製・アップロードする行為は、原告の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(公表権)を侵害する。

  • 裁判の公開原則や閲覧等制限手続は、結論に影響しない。

争点2: 著作権法40条1項の類推適用又は準用

  • 40条1項は公開の陳述に限るため、未陳述の訴状には適用されない。

  • 被告の主張する類推適用や、瑕疵の遡及的治癒も認められない。

争点3: 著作権法41条(時事の事件の報道のための利用)の適用

  • 被告のブログ記事は、「時事の事件の報道」ではなく、訴状の内容の不当性を訴えるもの。

  • 「時事の事件の報道」に該当せず、41条は適用されない。

争点4: 別件訴状の公表に関する原告の同意

  • 公開の陳述を予定しているとしても、公開前の公表への同意は推認されない。

争点5: 原告に生じた損害の有無及び額

  • 公衆送信権の侵害:

    • 財産権侵害であり、特段の事情がない限り慰謝料請求は認められない。

  • 公表権侵害の慰謝料:

    • 精神的損害が認められる。訴状はその性質上陳述を前提とする書面であること、訴状の公表から陳述までの期間が3か月程度にとどまることを考慮し、2万円が相当。

結論

  • 2万円の範囲で一部認容。


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