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第119回:悲しいけど幸せな「愛」の行方(横光利一:春は馬車に乗って)

こんにちは、あみのです!
今回の本は、横光利一の『春は馬車に乗って』です。今作も立東舎の「乙女の本棚」シリーズのものを読みました。

「この花は馬車に乗って、海の岸を真っ先きに春をき撒きやって来たのさ。」

読む前は、大学の日本語学(確か)の授業で目にした上記の一文しか知らなかった『春は馬車に乗って』。

実際読んでみると、病気で衰弱していく妻と、妻を死ぬまで温かく支える夫の物語でした。最近の恋愛小説でも多いいわゆる「難病もの」の作品にもカテゴライズされるかと思います。
切ない物語ではありますが、夫婦の強い「愛」に心が温まる1冊です。

今作の担当イラストレーターは、いとうあつきさん。『Kの昇天』のしらこさん同様、このシリーズでは初めてのイラストレーターさんですね。この物語が持つ温度によく合うイラストレーターさんだと思います。
個人的には、各シーンでの夫婦の「感情」とリンクした「色」の使い方に注目してこの本を読んでほしいです。

作品紹介

もうあたし、これでいつ死んだっていいわ。
海のそばにある家。そこで彼は、日に日に弱っていく妻を一人看病し続けていた。

Amazonより

感想

まず妻が病気でどうなっても、ネガティブなことを口にしても、優しくて温かな愛を向ける夫の姿に心打たれました。
きっと彼はとても美しい心の持ち主だと思ったし、私もこういう人に一生愛されたい!と思いました。

また妻がよくネガティブな発言をしていたのは、どんな自分であっても懸命に見守ってくれる夫のことが大好きで、いつかひとりになる彼を不安にさせたくないという気持ちが背景にあったからだと思います。

悲しい結末をたどる物語ではありますが、もうすぐ死の世界へ旅立とうとしている妻が夫の「愛」を受け入れる終盤の展開では、「切ない」という感情だけでなく、不思議と「幸せ」な感情も生まれていきました。
この「幸せ」という感情は、なんだか春が訪れた時の「温かさ」にもよく似ていました。

今作は「優しい」「温かい」「幸せ」な物語なだけではなく、色鮮やかできらめきを感じる言葉もたくさん散りばめられていました。
春の訪れを告げる花たち。宝石や生き物で例えられた夫婦の気持ち。そういうところからも作品特有の「美しさ」や「儚さ」をよく味わうことができました。

横光利一の作品は、今作が初めてでした。「乙女の本棚」シリーズのおかげでまた新たな名作の良さを知ることができました。これからも素敵なイラストと共に、世の中に溢れる名作たちの魅力を知っていきたいですね。

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