見出し画像

どんな形の恋であっても、相手を「理解」することは大切だと思う。(藤野恵美:『初恋写真』)

角川文庫が募集していた『初恋写真』という小説の読者モニターに当選したので、先日読んでみました。

男子校に通っていたのもあり、女子への耐性がなかった星野と、過去のトラウマから男性が苦手になってしまったまい。今作ではピュアだけど、どこか脆さもある大学生2人の恋愛模様が描かれました。異性への苦手意識が強かった2人が写真部の活動を通して惹かれ合い、コツコツとお互いを理解していく過程が最高にエモかったです。

また、藤野さんの既刊で主人公だった勇太がサブキャラとして再登場していたのも嬉しい。星野&まいの恋の行方を見届けるだけでなく、大学生となった勇太の新たな成長が見られる面白さも今作にはありました。そういえば高校時代の勇太も複雑な恋で悩んでいましたね。

♡♡♡

今作は「相手を理解する」という要素が物語のカギとなっていたように感じました。星野とまいの交際は、相手がどんな人なのかはもちろん、そもそも男女の心と体を理解するという段階から始まっていきました。

好きになった人が何が好きで、どんな物に興味があるか知りたい気持ちは私もよくわかります。その一方で、性教育的な観点から相手を理解するって今まであまり注目したことがなかったと今作を読んで気付きました。

作中で星野がまいの過去を深掘りしようとしていた箇所があったのですが、私はそのシーンを読んでいて、「過去のことをえぐられたら、まいはまた悲しい思いをしてしまうんじゃないか」と不安になりました。
だけど、同じトラウマを繰り返さないために、そして一生分の付き合いをしたいと思うのなら、相手の心の傷を把握することも大切なのかなと思いました。

また個人的には、ネム(あだ名)という星野の男子校時代の友人の存在も印象的でした。ネムは高校時代のふとした出来事をきっかけに、星野に片想いをしていることが明かされます。

ネムの告白を聞いて星野は一瞬戸惑いますが、ネムの感情を拒絶するのではなく、自分なりに理解しようとしていたところに星野の優しさを感じました。そして、まいとの関係においてもまずは「理解」を大切にしていたのには、ネムの存在も大きかったのかなと思いました。

(ネムは今作では報われない立場だったかな…と思ってしまうキャラだったので、藤野さんの今後の作品で救われることに期待!)

いろんな価値観が受け入れられつつある世の中なので、今作で描かれたような「相手を理解する」というスキルは、これまで以上に求められるものなのかもしれませんね。

♡♡♡

愛の形は人それぞれだと思います。私も世間の価値観に振り回されず、自分が心から「好き」と思ったもの・相手を大切にしていきたいと今作を読んでみて強く感じました。大学生同士の甘酸っぱい恋にキュンとするだけでなく、実用的な学びも充実した良作でした!

ちなみに単行本時は『きみの傷跡』というタイトルとなっているので、単行本派の方はこちらで探してみるといいかもです。

いつも記事など読んで頂きありがとうございます。日々励みとなっています。もっと面白いネタを収穫したいので、良かったらサポートもお願いします(^^)