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第167回:たくさんの「願い事」が自分を強くする。(いぬじゅん:『この恋が、かなうなら』)

こんにちは、あみのです!
今回の本は、いぬじゅんさんのライト文芸作品『この恋が、かなうなら』(集英社オレンジ文庫)です。

この作品は、いぬじゅんさんのオレンジ文庫での前作『この恋は、とどかない』と同じ世界の物語となっていました。
前作に登場した場所や主要人物が再登場するシーンもあり、「とどかない」を読んでいると別の発見もある作品でした。

もちろん「とどかない」とは主人公は別なので、今作のみでも充分に作品の魅力に浸ることができます。今回は「成長」と「胸キュン」要素が強めな内容です。

あらすじ

君といる時間が好き。君といる私が好き。でも――。
「一番の願い事は叶わない」。トラウマを抱えた梨沙は進路、恋、友情、すべてがうまくいかずにいた。そんな折、東京から静岡の高校に二ヵ月間、国内交換留学をすることに。屈託なく笑う航汰と出会い、彼とすごすうちに梨沙の気持ちは癒されていく。けれど、航汰への恋心に気づいた時にはタイムリミットがせまっていて…!?痛くてせつない青春ストーリー。

カバーより

感想

主人公の梨沙には、物事をネガティブに考えてしまう癖がありました。高校受験で失敗したこと、初恋相手の「瑞樹くん」とずっと一緒にいたかったのに離ればなれになってしまったこと…。

また梨沙は小さい頃から管理栄養士の仕事に興味があるのですが、資格を持っていてもなかなかなれない仕事という現実を知っているのもあり、自分の夢に自信が持てないところもありました。

そんな彼女に訪れた浜松への「交換留学」というチャンス。はじめは不安だらけだった浜松での生活も、航汰と美亜という素敵な仲間に出会えたことで気持ちが和らいでいきます。航汰たちの前向きな姿が、ネガティブ思考だった梨沙に少しずつ自信を与えていきました。

梨沙は航汰の笑顔と優しさに惹かれていき、どこか初恋の人とも雰囲気が似ている彼に恋をします。でも浜松での生活には期限があるため、近いうちに彼と離ればなれになってしまうことへの寂しさも感じ始めます…。

今作は「願い」が物語のカギとなっていました。
梨沙は過去の経験から「願い事」というものを嫌っていましたが、美亜は梨沙にこのようなアドバイスをしました。

「呪いを解くには避けるんじゃなくて、たくさん願ってみるの。どんなことでもいいから、願ってみてよ」

p228

梨沙にかけられた「願い事をしたって、どうせ叶わない」という「呪い」。それを解くために美亜は、願いをひとつだけでなく、できるだけたくさんの願いを持った方がいいことを梨沙に教えます。

確かに美亜が言うように、たくさんの願い事をしてみてその中からどれか1個でも叶ったら素直に嬉しいなと私は思いました。小さい願いだとしても、叶ったら自信にもつなげられそうですね。

また梨沙と航汰の関係も見逃せなかったです。
浜名湖の景色、フルーツパーク、文化祭…航汰との嬉しい思い出もあれば、航汰の恋愛事情が気になって落ち着かなかったほろ苦い思い出も梨沙にはありました。

だけど航汰と過ごした時間は、いいものも切ないものも梨沙の一生分の宝物になったことは確かだと思います。
航汰との関係で思い切って一歩踏み出したからこそ、梨沙が見れないと思っていた景色を見ることもできました。

航汰とは遠距離恋愛になってしまったけど、志望大学に合格して、また航汰たちと笑い合える毎日を過ごしたいという願いは、今の梨沙ならきっと叶えられると思います。梨沙たちのその後も、いぬじゅんさんの今後の作品で見れたらいいですね。

今作は読むと心が強くなれる物語だと思いました。毎日をもうちょっと頑張ってみたいと思える言葉も多く、梨沙と同年代の読者に限らず幅広い世代の読者にも届いてほしい1冊でした。

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