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『君の青が、海にとけるまで』が素敵な話だったので紹介する

いぬじゅんさんの『君の青が、海にとけるまで』(角川文庫)という作品を読みました。

主に高校生たちの恋を描いたお話が多かったいぬじゅんさんの作品ですが、今作は社会人が主人公の居場所をテーマにした物語となっていて、これまでの作品とはひと味違う優しさを感じる内容でした。

念願の看護師になったものの、職場でのトラブルで心が病み、休職することになった胡麦こむぎ。物語は休職中に胡麦がSESTAセスタというカフェに訪れるところから始まります。セスタには複雑な悩みを抱えながらも一生懸命に働く仲間たちがいて、胡麦は彼らとの対話によって自分のこれからを考え直していきます。

まずこのお話を読んでいて「いいな」と感じたのが、登場人物の悩みを深く描きすぎていないところです。簡単には触れつつも、本人が語りたくなければ話さないという作中のスタイルは、実際の人付き合いでも大切にすべきことなのかなと思わされ、物語がよりリアルに感じられました。

そういった感じでたくさんの秘密で成り立っている今作ですが、一方で胡麦がセスタにやってきたことで、他の仲間も成長するきっかけができたのは確かではと思わせる展開も作中には多数ありました。

声優の夢を諦めるべきか悩む紀美ちゃん、人と話すのが苦手な克弥くん、家族からの虐待の傷を隠し続ける亜梨沙さんと、胡麦以外にも深刻な悩みを抱える人々が登場しましたが、胡麦とのやりとりを続けていくうちにちょっとずつ自分を変えようとする努力がみんなから感じられた点も非常に好意的でした。

みんなで支え合ってなりたい自分を目指していくというのがこの物語最大の特徴で、私はそのような素敵な考えに感銘を受けました。

胡麦が昔からの夢を諦めてしまうのには少し残念な気持ちもありますが、セスタの仲間たちとの交流によって、夢以上に大切な居場所に出会えたのは今の彼女にとっていい収穫だったと思います。

これからもセスタという新しい職場にて一緒に働く仲間をはじめ、たくさんの悩める人の心を胡麦は救っていくんだろうなと予感させる良き読後感の1冊でした!

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