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好きな色を纏って、「本当の自分」を目指す(丸井とまと『さよなら、灰色の世界』)

丸井とまとさんの『さよなら、灰色の世界』(スターツ出版文庫)という作品を読みました!

読んだことのない青春小説を求めて本屋を見ていたところ、今作のきらめきのあるカバーイラストが目に入り、思わず手にしてしまいました。

今作は「自分らしさ」や身近な人間関係に悩む主人公が、アルバイト先での意外な出会いを通して、悩みを乗り越えていく様子が描かれました。

私は、今作の「先入観」や「思い込み」に対する描き方がとても印象に残りました。

主人公の楓は友人とのトラブルを機に、自分が見ている世界がモノクロに見えてしまうかつ、他人が持っているオーラを色で感じるようになってしまいます。

楓はアルバイト先にて、学校では「問題児」と噂されていた藤田くんという男子生徒と親しくなります。藤田くんはやや口調がきついところがあり、私も第一印象としては好きになれないタイプの子だなと思っていました。

だけど、楓の悩みに対して真剣に向き合ってくれるなど、非常に心強い一面を物語が進むにつれて見せてくれて、楓は藤田くんといる時間に居心地の良さを感じるようになります。

楓が藤田くんを通して仲良くなった千夏ちかも、バイト先と学校ではまったく違う印象を持たれていました。藤田くんからも千夏からも、普段の学校生活で見ている姿だけが本当の彼らとは限らないことを感じました。

楓はこれまで自分が視えていた相手の「色」だけで、自分をネガティブにキャラ付けしたり、人間関係を避けてしまったりしていたところがありました。でもそれは、あくまでも彼女の「先入観」とか「思い込み」での「色」でしかなかったのかな、と思いました。

また楓は、相手を気にし過ぎてしまい、「自分らしさ」というものを見失っていた一面もありました。

音楽の趣味など「好きなものを否定されたくない」という楓の気持ちにも共感しましたが、一方で趣味・趣向から自分らしさを上手く表現できず、相手に合わせすぎてしまうのも逆に疲れそうと読んでいて感じました。

「誰にどう見られているかよりも、好きな色を纏えばいい」という藤田くんの言葉は、今作の最大のメッセージでもあると思います。

例えば私は自分で服を選ぶのが苦手なので、家族や親戚と一緒に服を買いに行くことがあります。どちらかというと自分の好みよりも、他人からの印象で買う服を選んでしまうことの方が多いので、服を買う時も自分が着たい物をもっと積極的に選んでもいいのかなと今作から思いました。

「色」だったら着ている服などで気軽に自分をアピールしやすいし、それで誰かが自分のことを覚えてくれたら、きっと嬉しい気持ちになります。自分らしさを表現するって、それほど難しいことではないように感じました。

楓だけでなく、読み手が感じている世界もだんだんに色づいていくような物語。魅力的なカバーイラストも、楓がすべての色を取り戻した瞬間のシーンの後に改めて見てみると、作中の彼女の気持ちとリンクしているようで感動も増します。

主に中高生をターゲットにした作品かと思いますが、毎日が楽しくなるようなシーンも満載なので、ぜひ読んでみてください(^^)

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